第1話 初めてのシャンプー

あたちは大阪府門真市というところで生まれたそうです。
生まれたおうちのことはぜんぶ忘れてちまったわ。
まだとっても小さくてなんにも覚えていないのだけど
妹のニーナと一緒にここにもらわれてきたんだって。
ここのおうちに来る途中の車の中では
ゲーゲー吐いて大変だったって。
「ニーナはへっちゃらだったけど、チコは車がダメみたい」
そうだったの? あたちはそんなこと知らないよ。

ここのおうちは古くて隙間風がすぅすぅ入るくらいだったけれど
広いお庭があって毎日そこでニーナとあたちは
かけっこをちたり、おすもうを取ったり。
棒をカミカミちたり、ボール遊びもだぁい好き。
寝て食べて遊んで毎日がとっても楽しかったよ。


ここに来て1ヶ月ほど過ぎた頃、なんだかとっても忙しそうな日があったの。
大晦日っていう日よ。みんな知ってる?
お父さんとお母さんは本屋さんをちていたんだけど
その日は大掃除っていうお仕事があるとかで
朝早くにでかけて行きまちた。
のりちゃんとなおちゃんは<おせち料理>
っていう食べ物を作ると言って朝から台所にこもりっぱなち。

あたちとニーナはずっと勝手口の三和土で「つまんない」をちていたの。
夕方近くになってやっとのりちゃんとなおちゃんがお外に出てきて
あたちたちをお庭にだちてくれまちた。
わ〜い!!!
あたちとニーナはうれちくって大騒ぎ。
庭に落ちていた棒切れを加えてかけっこちたり、
ボールの取りっこをちたり
あっちこっちクンクンちてみたり。

今はもうお水は入っていないけれど
その頃裏庭にある小さなお池にはお水がたっぷりあって
金魚さんが住んでいまちた。
いったいなにがおこったのか、どうちてそんなことになったのか
あたちにはさっぱりわからないのだけれど
突然 「ドボン!」 という音がちて、妹のニーナが
「お池にはまってさぁ大変!」 になっていまちた。
お手手がじんじんするような寒いときだよ。
あたちはびっくりちてぽかんとお口をあけてみていたんだけど
大慌てちたのはのりちゃんとなおちゃん。
ニーナはお池の中でアップアップちていて
何とか這い上がろうとお池の淵にしがみついたり落っこちたり。
のりちゃんが急いでお池に入っていって
(のりちゃんだと膝くらいまでちかお水はなかったよ)
ニーナを抱き上げて出てきまちた。
「ニーナ、大丈夫?大丈夫?」
のりちゃんとなおちゃんは大騒ぎでちた。
なおちゃんがタオルを持ってきて一生懸命拭いてあげていたけど
その時のニーナの臭かったこと!
いくら拭いてもくさ〜いにおいが消えないの。
ばっちぃお水だったのね。
「しょうがないね。洗うしかないね。」
そう言ってのりちゃんとなおちゃんはおうちの中へ
ニーナを連れていったの。

・・・ ザァザァ、ジャブジャブ ・・・
お水を使う音が賑やかにちていたな
と思ったらそれからしばらくちて
いいにおいになったニーナがでてきまちた。
「おねえちゃん、シャンプーっていうのをされちゃったの。」
かわいそうにニーナはお池にはまって
それだけでも怖い思いをちたのに
その上にシャンプーっていう怖い事までされたんだって。

シャンプーってなぁに?
ニーナはいいにおいになっていて、ちょっとだけうらやましい。
ニーナはおうちの中に入ったんだよ。
あたちはその時までまだ1度もおうちの中に入ったことが
なかったから、ちょっとうらやまちかった。
好奇心っていうのがいっぱい沸いてきて
おうちの中はどんなんだろ? シャンプーってどんなこと?
そしたら 「ついでにチコも洗う?」 とか言うことになって
あたちも抱っこされておうちの中へ連れていかれちゃった。

シャンプーってね。
身体中にいっぱいお湯をかけられて、次に泡泡にされて
お湯をかけられて、最後にタオルでごしごし拭かれて・・・
ちっとも楽しくなかったわ。
でもおかげであたちもいいにおいになったのよ。
あくる日はお正月。
あたちもニーナもとっても<綺麗綺麗>で
初めてのお正月を迎えたのです。
これがあたちたちの<シャンプー初体験>でちた。

* おまけ *
ニーナはお池にはまったことをずぅっと後まで
何かあるたびに言われてちょっとだけかわいそうだったよ。
運動神経バツグンのニーナなのにね
こーゆーのを 「汚点」って言うのよね。