医 療

秦  正樹


<医療計画の概要>

 今回の遠征が普段の山行と違う点は、高所であること、長期間である こと、下界まで時間がかかること、下界でも十分な医療が受けられない 可能性があること、伝染病の危険があることなどであった。我々の隊は 医者のいない隊であり、しかも今回の遠征がこの様な特徴を待っていた ので、病気・怪我の予防と、被害を最小限で抑える救急医療が重要で あると思われた。

★予防:船木OBによる健康診断(尿検査・血圧・眼底検査・胸部X線・ 心電図・血液検査問診)を受けた。また、それぞれの持病・アレルギー などを把握した。伝染病については破傷風、A型肝炎、コレラの予防接種 (参考1)をうけた。

 現地では健康チェックカ−ド (参考2) を作り朝晩記入して体調を把握する事ができるようにした。

★救急医療:日赤医療講習会の講習を受けた者が2人いたのでその テキストを中心に救急医療について勉強した。高山病対策として「高山病 ふせぎ方なおし方」(P.ハケット)、「登山の医学」(J.A.ウィル カ−ソン)を、救急医療の参考書として日赤医療講習会のテキストを 持参した。

★医療品:医療品は山スキ−部のロ−ガン遠征を参考にリストアップし、 その量の約1.5倍とした。普段の山行との違いはトロ−チ、日焼け止め、 利尿剤、痔疾薬、ビタミン剤、便秘薬、抗ヒスタミン剤などを新たに 持って行き、下痢止め、抗生物質の量を増やして持って行ったことである。

 医療品は衣料用のプラスチックケース(50×30×15cm)と普段用いている サイズのタッパ−25×20×10cm)に入れて行った。BC以上では小さい タッパ−を常に持って行動した。

<実際の医療>

 山行中は以下の点に注意した。

1.健康チェックリストを毎日つけ体調の変化を見逃さないように努めた。
2.下痢を防ぐために、生水、生野菜を摂らない様にした。
3.ビタミン剤とトロ−チを毎日服用し、ビタミン不足及び喉荒れを予防した。
4.UVカットリップクリ−ムと普通のリップクリ−ム及び日焼け止め クリ−ムをそれぞれ1人1個ずつ配って各自が塗るようにした。

 次に、各期間に行った医療について順を追って説明する。

★カトマンズ〜ルクラ
 なんと言っても下痢である。先発隊はカトマンズのホテルで、後発隊は キャラバン中にその洗礼を受けた。その症状は激しい腹痛と止めることの できない水様便で一晩中ベッドとトイレの往復であった。だいたい 治まるのに1日かかり消耗した。下痢止めはどれもあまり効果がなかった。 ひどい発熱が伴う場合には解熱剤を、下痢で消耗が続く場合には抗生物質を 与えた。

★ルクラ〜登頂〜ルクラ
 2.、3.のおかげで喉の荒れや肌、唇の荒れは特になかった。後発隊の 堀川、北川はそれぞれ1週間程のひどい下痢に苦しめられた。2人とも 下痢止を使用した。堀川の下痢はひどかったので抗生物質を使用した。 キャラバンIからであるが、空気中には雲母の破片が無数に浮いていて、 喉にタンが絡んだ。大きな怪我を我々はしなかったが、ネパ−ル人 スタッフ2人が刃物で指を切った。そのうち一人は骨に達するほどで あったがきれいに消毒し毎日朝晩抗生物質をつけ、ガ−ゼを替え固定した ところ、傷跡も分からないくらいに完治した。

 新しい高度に泊まった日やBC以上の高度では朝起きたばかりの時に 頭痛を訴えるものが多かった(食事をするうちに治まった)。また、 高所では、安静時であっても脈を測ると高めであった。氷河上は直射・ 反射日光が非常に強烈で、日焼け止めはまめに塗る必要があった。

<総括>

★水銀体温計は衝撃や、テント内が高温になることで3本中2本が割れた。 また、朝晩測定することを考えると電子体温計を人数分持って行った 方が良かったと思う。
★バンソウコウをよく使った。切傷、擦傷に便利だし、軽い物だから かなり多めに持って行くのがいいと思う。
★綿棒は軟膏状の物(抗生物質など)を塗るのに重宝する。
★ひどい下痢にやられたものの、大した怪我や病気もなく、無事に帰って 来れた。本当に良かったと思う。尚、余った医療品のうち誤って 使っても危険性のない物は全てルクラの診療所に寄付し、それ以外は 日本に持ち帰った。

医療品リスト