タ ク テ ィ ク ス

竹川  徹


 ジリの街を出発してから、登頂、そしてルクラの街に下山するまでの 全行程を5つに分けて計画を立てた。それぞれ、

  1.キャラバンI
  2.高所順応活動
  3.キャラバンII
  4.登山活動、
  5.帰途キャラバン

である。

 計画を立てる上で最も重きを置いたのは、高所順応である。隊員全員が 登頂でき、かつスキーが楽しめる、無理のない順応計画を心がけた。 その詳細については、高所順応の項に譲り、ここでは各行動計画と 実際の行動についてコメントする。

1. キャラバンI 3/28〜4/3  行動6 休養1 計7日
 ルクラまではカトマンズ発の飛行機が利用されることが多い。しかし この飛行機は、天候に左右され易く、一度天気が崩れると、2、3日は 足止めを食う。それならば少々時間はかかるが歩いて行こう、 ということになった。

 キャラバン中、デオラリ峠(2720m)、ラムジュ峠(3530m)、 タクシンドー峠(3070m)を越えることで、徐々に体を高度に慣らす ことができ、本格的な登山の前のウォーミングアップという意味で 役にたった。また、ネパールの人々の生活に触れることができ、 楽しい旅となった。


2. 高所順応活動 4/4〜4/9  行動4 休養2 計6日
 過去のメラピーク登山の報告書を見ると、ザトルワラを越えた後に 高度障害のためにヘリで救出されたり、ヘリに頼らずともザトルワラ 越えで体調を崩し、登山活動にまで引きずり登頂に至らなかった例が いくつもあった。

この高所順応活動では、ザトルワラの手前のコル(4450m)までの 往復を目的とした。

 高所順応活動は、ザトルワラ周辺の積雪の少なかったことと天候に めぐまれ、大変スムーズであった。行動2日目に、軽い頭痛と息切れを 感じる程度でザトルワラ手前のコルの往復ができた。そのため、翌日の 休養日を、チュタンガからザトルワラを往復する行動に変更した。 疲れのためか、体が重く感じたが行動に支障を来すほどではなかった。


3. キャラバンII 4/10〜4/22  行動6 停滞5 休養2 計13日
 高所順応活動期間で4000mの順応は完了していると考え、一気に ザトルワラを越える計画とした。またポーターの人件費を抑えるために、 ターナ(4300m)でポーターの大部分を解雇し、ターナからは 高所順応を兼ねてBC(4900m)へ荷上げを行うこととした。

 大量降雪のため、カルカテンで5停滞を強いられた。ザトルワラ 越えでは、ほぼ全員に頭痛、息切れなどの高所の影響が見られた。 行動中は、呼吸が乱れない程度のスピードで歩くことを心がけた。 何人かにはテン場に着いてからも頭痛がみられたが、深呼吸や軽い 散歩をしたら症状は殆どなくなった。

 計画では、キャラバン中の最下点であるタルシンディマ(3600m)で 休養をする予定であったが、メンバーに顕著な疲れは見られないこと、 ポーターの賃金を節約するためにターナで休養をした。

 ターナ〜BC間のルートは、BCまでの高度に対して移動距離が長く、 行動時間が長くなる。そのためターナ〜BC間を往復する行動は、 高所順応が進むよりもかえって疲れが出ると考え、予定を1日 早めてBCに入り、BC周辺を散歩して順応を進めることとした。


4. 登山活動 4/23〜5/5  行動11 休養2 計13日
 傾斜が緩いため、行動時間に比べて高度が稼ぎにくい事は 予想していたが、その予想を越えて各キャンプ間が遠く感じられた。 個人の順応の進み具合いにもばらつきが出てきたので、行動日を 3日増やし、より余裕のある計画に組替えた。ACにはピークアタックに 備え、停滞2日分を含め、計3日分の食料と燃料を用意した。

 6000mの高度を体験することをピークアタックに必要な行動とし、 その後、一旦BCまで下って休養をとった。予定では、2日の休養日を とり、その後ACに一気に入る予定であったが、BC〜AC間を1日で登るのは 疲労が大きいと考え、休養日を1日にしてメララでキャンプを区切った。 その結果、余裕を持ってACに入ることができた。ピークアタックは 12時間の長い行動となったが、全員揃って無事ピークに立つことができた。

 スキーは十分に楽しむことができた。朝方は硬い雪面も、日差しに よってザラメ化して、北海道の5月初旬のような雪質であった。

 クレバスのあるところは雪面がへこんでおり、その位置は概ね 見当がついた。


5. 帰途キャラバン 5/6〜5/8  行動3 計3日
 計画では、登山活動の疲れを考えてタルシンディマで休養をとる 予定であったが、実際には下山パワーが爆発して2日でザトルワラを 越えてしまった。