高 所 順 応

北川  徹


<基本方針>
 今回の遠征では、リ−ダ−の竹川を除いて高所登山の経験のない メンバ−で臨んだため、高所順応を登山のタクティクスにおいて重要な 柱の1つにおいた。北海道の山では感ずることの出来ない高所の影響に 対して、隊員全員が頂上を踏むことを目標に立てた方針は 以下の通りである。

1.新しく体験する高度は1日に500mとする。
2.上部での宿泊は、それまでに少なくとも2度その高度を経験してからとする。
3.高山病の症状を各自が正確に自覚し、お互いの観察を行なう。
4.3日の行動日に、1日の休養日を入れる(なるべく低い所で休養する)。
5.高所に順応しようという意志を明確にもつ。
6.つねに深い腹式呼吸をする。
7.水分の摂取(1日4リットルを目標にする)。

 また、1992年の10月に富士山山頂にて一泊するというプレを行ない、 高所感覚を体験する機会を作った。


<結果>
★BCまで
 ルクラに入るまでのキャラバンで、1度3500mの峠を越え、ルクラを ベ−スにした高所順応活動では、2度4500m近い高度を体験した。 4000mの順応を重視し、じっくりと時間をかけ、BCまでの順応は 全員うまくできた。初めて、4000m以上の高度に到達したときは、 ほぼ全員が頭痛を感じたが行動に差し支えはなく、これは身体が高度に 対して正常に反応している証拠と考えられた。

 尚、BCまではポ−タ−を雇用し、我々はほぼ空身に近い状態で行動した。


★AC設営
 ここからは我々だけの行動で、荷上げと順応を併せて行なうことにした。 重荷と高度のため順応に差が出始めるが、調子のいい者がうまくカバ− することができて、メララ、ACに荷上げを済ませた。

 「3日行動、1日休養」のサイクルは肉体的にも精神的にも余裕ができ、 大変良かった。


★頂上へ
 ACまでの荷上げを終え、BCで1日休養の後、メララ、ACとテントを 上げた。ACへは方針どおり3回目の経験で入る。順応状況は皆、良好で ピークアタック当日は12時間と長い行動ではあったが、無事に全員 ピークに立つことができた。


★高所の影響
 BC滞在中、北川の下痢がひどく1日行動を休んだことがあった。高所の 影響が直接の原因かどうかは判らない。しかし、慣れない環境での滞在は 人体に様々な影響をもたらすことは十分に考えられる。


<まとめ>
 6人全員が頂上に立てたことは、まさしく高所順応がうまくいった ことのあらわれである。メラピ−クに登頂したパ−ティ−の中で我々ほど 時間をかけたところはないが、これほどまでに時間をかけたことが 登頂後の快適、御満悦のスキ−を可能にしたといっても過言ではない。

 1990年のカナダ・ローガン峰、今回のメラピ−クの経験で山スキ−部の 高所順応の方法はある程度確立したといえるのではなかろうか。

 さらなる高み、そして未知なるスロ−プへ。