特集●オハネフ12と普通列車・山陰(2) |
2021年 1月 3日更新 |
夜9時半を過ぎた頃、行き止まりの京都駅・西1番線に旧型客車を連ねた編成が静々と入線する。
普通列車「山陰」だ。
ホームの案内板には、列車の行き先「出雲市」の傍に、控えめに「山陰」の列車名が冠され、
近郊区間の列車で無い事を物語るが、出雲市方に1両のB寝台車が連結され、
京都口の客レにしては青色の客車ばかりで編成されていることを除けば、いつもの普通列車と相違は無かった。
また、京都駅から乗り込む乗客もその大半は、
この列車が夜通しかけて走る列車であることを知る由も無い近郊の通勤客だった。
逆向きに入線した「山陰」は、手早く機関車の連結が解かれて機廻しされる。
暫くすると緩い衝撃と共に反対側に機関車が連結され、ホーム前方では荷物の積み込みが始まる。
6両連結された普通車をやり過ごし、ホームの先端に向かって歩くと、
この列車で唯一「1」号車の札が入ったオハネフ12に辿り着く。
デッキのドア上には、出入り台照明を兼ねた白熱灯の「B寝台」の行灯がぼんやりと光っている。
デッキのドアを開いて入り、車体中心からオフセットされた位置にある、
客室の仕切り扉を開けて車内に進むと、それまでの喧騒はぴたりと止む。
冬の静寂な車内は、蛍光灯インバーターのピーという柔らかな発振音に包まれていた。
初めて2.9メートルに拡幅された10系寝台車だが、腰板にある蒸気暖房の放熱管の印象のせいか、
或いはその古臭さ故か、後発の20系や14系寝台車などに比べて通路は窮屈に感じられる。
寝台は既に組み立てられていて、ブラインドが下ろされている。
すべての寝台には、折り畳まれたシーツと毛布、そして枕が規則正しく載せられ、
足元には「鉄道リネン」と印刷されたスリッパが並べられていた。
寝台を下から見上げると、接客用としては10系寝台車にだけ見られる、
AU14型ユニットクーラーが抜群の存在感で鎮座している。
新製時に非冷房だった10系ハネは、昭和40年代に入ると冷房化の対象となったが、
屋根形状が限界近くに達し、車内空間もいっぱいに使う寝台車にもかかわらず、
普通車に分散型クーラーを追加するのと同様の改造手法を使った結果、
熱交換器の殆どが車内に飛び出す格好となった。
このため、上段寝台のカーテンレールは分断せざるを得ず、ドレンパイプに至っては屋根裏に隠せる筈も無く、
上段寝台の傍の天井空間を無粋に貫通することとなった。
クーラーの傍らには、環状蛍光灯と就寝時用のナツメ球をまとめた照明器具が1区画に一つずつ配置されて、
この窮屈な寝台空間をぼんやりと照らしている。
シーツと毛布のセッティングを終えて、「普通列車」の車掌による指定券の検札が済む頃には、
再び温もり始めた暖房管の膨張音が列車中に賑やかに響き渡っていた。
発車時刻が近づくと車内には案内放送が流れる。この列車の行き先が出雲市であり、
途中にいくつかの通過駅があることを告げた以外に特別なものはなかった。
ただ、「寝台車には空席がございます。寝台を御希望のお客様は車掌までお申し付け下さい。」と、
付け加えられていた。
忙しなく続いた「国鉄の客車列車」のセレモニーの後、
力強い汽笛の吹鳴を合図に今夜も下り「山陰」の旅は始まるのだった。
1982(昭和57)年12月28日 829レ 山陰 | |||
形 式 | 所 属 | 備 考 |
|
機 | DD51 707 | 米 | 京都駅発車時/出雲市到着時はDD51 47 |
1 | マニ36 52 | 大キト | |
2 | スユニ50 2043 | 大ミハ | |
3 | オハネフ12 2033 | 米イモ | 1982年11月改正までは大ミハ |
4 | スハフ42 100 | 米イモ | |
5 | スハ42 57 | 米イモ | |
6 | スハ42 59 | 米イモ | |
7 | スハ43 234 | 米イモ | |
8 | スハ43 211 | 米イモ | |
9 | スハフ42 313 | 米イモ |
1983(昭和58)年 8月15日 829レ 山陰 | |||
形 式 | 所 属 | 備 考 |
|
機 | |||
1 | マニ60 103 | 米ハマ | |
2 | スユニ50 2043 | 大ミハ | |
3 | オハネフ12 2022 | 米イモ | 1982年11月改正までは大ミハ |
4 | オハフ33 395 | 米ハマ | |
5 | スハ43 211 | 米イモ | |
6 | スハ43 159 | 米イモ | |
7 | オハ46 13 | 米トリ | |
8 | スハ43 408 | 米イモ | |
9 | スハフ42 2122 | 大ミハ | |
列車構成車両の所属が多岐にわたるのは、昭和58年7月豪雨の影響と推察される。 |
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