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5月3日

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また一ヶ月前の話題とスケッチで恐縮ですが、

アンドラーシュ・シフのピアノコンサートに行きました。

 

シフは私が最も好むピアニストの一人です。

柔らかなタッチ、音楽に対する真摯な姿勢、

J・S・バッハを敬愛し、バッハを全てのクラシック

音楽の基本のような扱いで日常的に弾く姿勢も

好ましく思っています。

 

今回もベートーヴェンの32番がプログラムに入っていた

ので、コンサートに足を運ぶきっかけになりました。

2011年、2014年に続いて3度目になります。

プログラムはモーツアルト・シューベルト・ハイドン・

ベートヴェンの4大作曲家たちのラストソナタ、

という選曲でした。

 

率直な感想は、シフの興味はすでにベートーヴェンから

シューベルトに移っていたように思いました。

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前日に演奏会場のHPを確認したところ、「演奏家の希望により、休憩なしで全曲演奏する」とか書いてあるじゃないですか。ウヘェまたか。

2014年の紀尾井ホールでのベートヴェンのラスト3曲は本当に休憩・拍手なしで3曲を1時間半近く通しで演奏して聴かせてくれましたが

聴く方も(緊張を長く強いられ)大変でした。

しかし当日会場に着くと、当初の予定通り休憩をいれるとのこと。お客さんは高齢の方も多いので、苦情も出たんじゃないかと思います。

 

〜当日の感想メモより〜

モーツアルトは手慣らしか。私自身がモーツアルトをあまり好まないためか魅力的に聴こえなかった。

何というか、モーツアルトを魅力的に演奏するためには、メロディアスに、ちょっとロマンチックに弾く必要があるような気がするが

シフの軽快な指さばきは聴けたが、ロマンチックではなく、少し退屈した。

 

シューベルトはさすが。長大な展開を的確に弾き分け、少しずつ変奏しながら繰り返すフレーズの変化が楽しめ、

シューベルトが何故に何度も(微妙に変形しながら)いくつかのフレーズを織り上げたのか、その意味が伝わってくるような演奏だった。

シフのタッチの引き出しの多さや、解釈の豊かさが、シューベルトの演奏では生きていて、独特の、そして質の高い魅力になっていた。

ただ、シューベルトの解釈や演奏の形は、まさに百人いれば百通り可能な性質のもののように思え、シフの演奏が最上とか正解とかいうことではない、

と感じた。

 

ハイドンは退屈なイメージが強いが、バロック時代の対位法主体の音楽ゆえ、シフの得意とするところ、と期待し、半分は当たっていたのだが、

反復の形などが(バッハに比べて)やはり単調で少し退屈してしまった。

 

ベートーヴェン。第1楽章はいつものシフの演奏、と思いきや、たたみかけるような速いパッセージが少し遅い。

ミスするよりも少しペースを落として弾いていたように思えた。

アリエッタ。前半変奏部もいつも通りかと思ったが、最後の変奏部を2度リピートした(つまり3回繰り返し演奏した)ようで、

シフ自身(その後30秒ほど)少し動揺した感じに聴こえた。

その後落ち着きを取り戻し、雄大な主題回帰のフィナーレを弾いてくれたので満足させてもらったが、

最良の状態ではなかったようだ。

 

いつもシフはアンコールでサービスしてくれますが、今回も6曲30分に及びました。

どれも素晴らしかったので、いつまでも席を立てず。しかし、円熟期の巨匠のピアノが聴ける機会はそうありはしません。

何を弾いても(遊びのようでも)深みがあっておいそれと聴ける演奏ではなく、コンサートに足を運んで大満足でした。