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4月15日

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アンナ・ケフェレックというフランス生まれの女性ピアニストのコンサートに行きました。 クラシックのコンサートは1年ぶりでしょうか。

 

アンナ・ケフェレックというピアニストのことは知りませんでした。

たまたま私の絵画教室が定期的に借りている市の文化会館の中にあるコンサートホールの企画だったため、ポスターを目にする機会を得、

そのプログラムにベートヴェンのピアノソナタ32番が含まれていたのでチケットを取りました。

 

感想は結論から端的に。素晴らしい32番でした。聴けて良かったです。

繊細さと、余韻を大事にする打鍵と、メランコリックな雰囲気を好む嗜好が、魅力的なアリエッタを生みだしていました。

全曲暗譜で演奏し、各パートにそれぞれ役割を与え、楽曲が十分に消化されたうえでの演奏(調理)であることが伝わってきました。

アリエッタのテンポは18分ペースの比較的ゆったりしたものでしたが、前半の変奏部も表情豊かで退屈させることなく、

バッハやマルチェッロなどの小品で聴かせる絶妙な間合いを絡めて聴かせてくれました。

後半の高域のトリルの中から、シンプルな主題が帰ってくる力強い盛り上がり感には少し物足りなさも感じましたが、

充分に満足させてもらった演奏でした。

 

話は前後しますが、アンナ・ケフェッレックさんのことを知らなかった私は、コンサートに行く前にYoutubeで演奏を探しました。

便利な世の中になったもので、いくつかの演奏を聴くことができ、繊細さと、余韻を生かす打鍵などの特徴を知り、

何も知らずにチケットを買った当初よりは、アリエッタの演奏に少し期待していました。

ただ70歳のご年齢でもあり、力強さが特徴の第1楽章は厳しいかなぁ、と思っていましたが、第1楽章も素晴らしかったです。

メリハリと集中力のある打鍵で、ベートーヴェン独特の音の塊が迫るような迫力も聴かせてくれました。

さすがに世界で1流と言われるピアニストは違う(様々な引き出しを持っている)なぁと感心いたしました。

 

このコンサートにはもう一つ心配がありました。コンサートホールとピアノのクオリティです。

多目的タイプの普通の文化会館のホールなので、舞台の壁も可動式の布の表面の壁で、左右には舞台裏に出入りする空間が大きく口を開けており

紀尾井ホールやオペラシティのような音響のことを第一に考えられた作りになっておらず、やはり、音が少し曇って聴こえるように思います。

しかも、空調なのか、外の電車の音なのか、無音状態で、どこからかわずかにゴロゴロという音が聞こえます。

ピアノは古そうなスタインウェイで、前半の小曲では、これももっとピアニストが望むようなピアノ(とそのコンディション)だったなら

もっと音色豊かに聴こえたかもしれない、などと思いながら聴いていました。

しかし、最後のべートーヴェンの32番の素晴らしい演奏を聴いたら、ピアノの良し悪しはさほど気にならなくなっていたのには自分でも驚きました。

 

お客さんのマナーも東京のホールでは考えられないこともありました。演奏中に席を立って会場のドアを開けて出て行った客がいました。

演奏が気に入らないで帰ったのかと思いきや演奏の合間に遅刻した客ともども戻ってきたのには驚き、信じられませんでした。

他にもチラシなどを落としたり音を出す客も多少いましたが、これはそれほど多くはありませんでした(どこでも多少はいますね。)

そうしたノイズなどにも影響されることなく集中して魅力的な演奏をしてくださったことにも感謝しています。

 

会場ではケフェレックさんのバッハの小品集のCDを買いました。

これはケフェレックさんの繊細で余韻を生かし、メランコリックな雰囲気を楽しめる良盤と思います。

選曲もいいので、最後まで通しで聴け、全曲リピートでかけっぱなしにしたくなり、私にとって稀有なCDになりそうです。

 

余談

 

2010年〜2015年の間、私はベートヴェンの最期のピアノソナタに入れ込んで、CDと生演奏の聞き比べに奔走しましたが、

私には熱し易く冷めやすいところがあるようで、この数年は猫に興味が移行しており、音楽自体あまり聴いていませんでした。

とはいえ、一度熱した対象に対してまったく興味が無くなるわけではなく、好きな対象であることに変わりなく、

ただ、過剰な熱意は無くなって、接し方も“自然な距離感による関心”といった心のポジションに落ち着くようです。