1月8日

美大時代の先輩に料理家・辰巳芳子さんについての興味深い話を聞いたのですが、その時はなんとなく聞いていました。

しかしたまたま見ていた料理番組で辰巳さんの言葉や語るしぐさをみたとき、「ああ、たぶんこの人だろう」と、会話の内容を思い出しました。

一つ一つ慎重に選び出される辰巳さんの言葉が(おそらくは彼女の料理と同じように)、印象深く心に残るのです。

 

なぜ、芸事(否、ひとつのこと)を真に何十年と極めた人には、しなやかな哲学が身についてくるのでしょうか。

“自分の道をひとりで歩きながら自分本位で終わらず、他者(社会)との関係を豊かにしようとする”ことこそ「芸」の要だと思うのですが、簡単ではありません。

自分の考えの中だけに閉じこもったり、「国家」のような集団意識のなかに自己を埋没させてそこからモノを言うことは、はるかに単純で楽なものです。

 その簡単ではない「人と人の間のこと」に思い巡らす何十年を真剣に取り組んで超えてきたからこそ、“しなやかな哲学”が達人には宿ってくるのでしょう。

(もちろん辰巳芳子さんの場合、お母様の存在と教育が彼女の心技の大きな基礎を成していると思われますが、

それだけに“優れた心技を伝承する”ことの重要性を、人一倍感じているように思われます。)

 

例えば、辰巳さんのスープの本「あなたのために」において、洋風スープの最初の説明は(驚くべきことに!)次のような文章です。

 

『以下、AとBの大まかな解説をしておく。内容は、家庭にそれをとり入れていただきたいということではなく、

物事の流れを知り、きょう自分のなすべきこと、していることの位置づけを把握するためにある。理由は、常に肚の底から謙虚に“事”に向かうためである。

歴史を知り、それを尊重して生きれば、「あること、と、ないこと」の区別がつき、「あることはある、ないことはない」と認める、潔い人になれるはずである。

この謙虚から、真の柔軟性は溢れるように生じ、敷衍力、展開力、臨機応変の処理能力を備えうるに至る。

これにより、第一に本人の自分自身への手応え、第二には社会に対しても一人前の対応ができうるようになる。

結果として、幸せは自然についてまわるのである。』

 

辰巳さんにとっては、至極当然のこととして、こうした姿勢がよき料理(芸)と切っても切れない関係としてある、と考えられていることがわかります。

素敵な絵を描かれる先輩が、辰巳芳子さんからスープを習える嬉しさを熱く語っていたことが、とてもよく納得できました。

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(花 : バンダ・チャレス・グッドフェロー)