(2002.04.08/2004.12.07upd)

SIGMA ZOOM-κU70-210/4.5(FD) 修理記

ZOOM-κUは価格の割に明るくて軽量なので、かなり売れたらしい。特にFDマウント版は頻繁に見掛ける。しかし、安価レンズの宿命か、カビの発生がものすごく、奇麗な状態のものは滅多にない。大切にされないんだよね。しかし、ズームの割に構造が簡単で、レンズ掃除もそんなに難しくない。

●レンズ部とマウント部

このレンズはマウント部とレンズ部がはっきりと別れている。そりゃそうだろう。SIGMAに限らず、サードパーティのMFレンズは、レンズ部とマウント部を別々に組み立てて、最後の工程でくっつけるはず。したがって、レンズの掃除にはマウントは分解する必要ない−−というか分解してはいけない。私も、マウント部を分解しなければ、もっと完全に直せたはずだったのだが…

とは言うものの、サービスマニュアルも何もない状態では、手当たり次第にネジを外すしか方法がない。結局、最初の分解掃除では、それこそ絞り羽根一枚一枚に至るまで、完全分解してしまった。それでも、何とか元に戻すことができたのは、このレンズの構造が比較的単純だったおかげだろう。しかし、完全分解は二度とやりたくはないな。

●必要な工具

●レンズ部の分解掃除

レンズ部の分解掃除は少なくとも二度行った。最初は目茶苦茶な状態だったので、ざっとカビを取っただけでも見違えるように奇麗になった。しかし、しばらく放置していたらまたカビが発生した。掃除し残しか、掃除のときに侵入した埃を核にして新たに成長したものかは不明。いずれにしろ、二度目の掃除で除去。それでも端の方に完璧には取りきれなかったカビが残っている。また、分解掃除をして奇麗になったと言っても、新品のレンズには程遠い状態。埃の侵入は不可避だし、ガラス自体が変質するのはどうしようもない。ジャンクはジャンクです。

レンズ部の分解のコツは、ヘリコイドに巻いてあるゴムを外すこと。その下にネジがあり、そのネジを外すと分解できる。ちなみに、このレンズはすべての玉が単体で接着剤による貼り合せはない。したがって、すべてのレンズを完全に掃除できる。この意味は大きい。

  1. ピントリングのゴムを脱がせる。根気良くまくり上げれば切らずに済む。私はヘリコイドのゴムを切ってしまったが、この方法だと元には戻せないので、後で適当な革などを貼ってやる必要がある。

  2. 距離指環とピントリングをつなぐアルミテープを剥がす。ここは非常に重要な部分で、距離指環の更正もここで行う。テープを剥がしたら、ピントリングを回転させるだけで前玉がごそっと取れる。

  3. 鏡胴部に何本ものミゾと、ミゾの中に入ったネジが出てくるので、まず、斜めミゾの黒ネジ二本を外す。こうして逆さに振ると、中玉ユニットが前に出てくる。

  4. 内側の鏡胴のミゾにある白ネジを二本を外す。これで中玉ユニット(2枚)がごそっと取れる(直線ミゾにはまっているもうもう一組の白ネジは外さないこと)。ドライバだけでここまでは来る。ただし、ネジが固いので、太軸の太い0番/00番ドライバが必要。
ここまでで、前玉1枚、中玉(2枚)は裏表完全に掃除できる。また、鏡胴の中には後玉(二枚のうちの1枚)の内側が出ているので、ここも掃除できる。残るは、後玉の分解のみ。
  1. 後玉は後ろから外す。レンズの周囲をゴム回しで回してゆるめ、周囲のカニ目に千枚通しを入れて回す。これで後玉も全部OK。
以上でレンズ部の分解掃除は終了。カビ取り自体は、レンズクリーナー液を染み込ませたクリーニングペーパーで行うこと……と言っても、どうせジャンクなんだから、そんなに神経質になることはない。私なんか、カビが酷いときはクリーニング液の直掛けという荒業も使った(普通はコーティングが剥げたりするので絶対にはやってはいけない)。

クリーニングが終ったら、なるべく埃が入らないように気をつけて、分解とは逆の手順で組み上げていけばよい。その際、ピントの更正は慎重に行った上で、ピントリングと距離指環を貼り付けること。と言っても、無限遠さえ出ていれば実害はほとんどない。

●マウント部の構造

通常、レンズ掃除の際にはマウントは分解する必要はない。しかし、絞りが故障していたり、レンズ掃除の際にうっかりマウント部に手を付けてしまうと、けっこう面倒なことになる。

まず、基礎知識としてFDマウントには二種類あることを覚えておく必要がある。旧FDのスピゴット式とNew FDのバヨネット式だ。スピゴット式はレンズのマウント部だけが回転するが、バヨネット式はレンズ本体と一緒に回転する。基本的に互換性のあるマウントだが、当然マウント部のカラクリには違いがある。ZOOM-κUは外観はバヨネット式だが、実は構造はスピゴット式だった。したがって、New FDレンズのマウント部の構造は全然参考にならない。かと言って、スピゴット式とは外観が違うから、これもあまり参考にならない。実に困った点であった。

愚痴はともかくとして、とりあえず、マウント部の大雑把な造りは次のようなもの。

銀色のマウントカバー

マウントユニット

絞り環

白線の入った環

レンズ本体

このうち、「マウントユニット」というのは、マウントのロック機構から絞り制御、AEモード制御まで行う中核部で、複数の層から構成されている。できたらここは分解しないで欲しいし、また、ユニットとしてまとまっているので、余程のことがない限り、分解の必要はないだろう。

  余程のこと:FTbに装着した状態で無理矢理AEモードにしてしまい、AE検出用の部品を変形させてしまった場合(^_^;

●マウント部の分解

では、具体的に手順を追って、マウント部の分解方法を見てみよう。
  1. まず、銀色のカバーのネジ6本を外す。これで、カバー部は取れる。ネジが小さくてなくしやすいことと、銀色のカバーが実は二枚あること以外、特に問題ない。なお、ネジをなくした場合は、東急ハンズで精密ネジセットを買ってくること。

  2. 問題はこの次。銀色のカバーの下にはネジが5本あり、2本−1本−2本という配置になっているが、これらのネジの長さは同じではなく、長短−長−短長となっている。で、このうち短の二本はマウント部をユニットとして保持するためもので、原則的には外してはいけない。長の3本を外すだけで、レンズ本体とマウント部が分離できる。

      ちなみに、短の部分を外すと、AEピンとマウントロック時のクリック用鋼球がおっこちて来るので注意。特に鋼球はなくす可能性が非常に高い。

  3. マウントユニットの下には絞り環があり、間には絞りのクリック用の鋼球が入っている。これも非常になくしやすいので注意。また、絞り環の下には、白線の入った環があり、これも分解できるが、特に分解の必要はないだろう。
さて、これで鏡胴とマウントは完全分離できるのだが、鏡胴部、マウント部ともに、二本の細長いレバーが出ている。これが絞り制御のためのレバーで、絞りがおかしい(変化しない、開放にならない、設定値とは異なるなど)ときは、ほぼ間違いなくここに問題がある。

正常な状態とは、マウント部の絞り連動レバーが鏡胴部のコの字形の金具にはまり込んでいて、絞り跳ね上げレバーが鏡胴部のもう一方のレバーよりも外側にある状態。よくあるのは、絞り連動レバーとコの字形金具が外れてしまうこと。レバーの角度によっては、うまくはめ込んだつもりでもすぐに外れてしまう。この場合は、ペンチなどで少し変形して、噛み合わせをよくしてやる。

また、絞りが開放にならない場合は、絞り跳ね上げレバーが鏡胴のレバーを十分に押していないことが考えられる。これまた、ペンチで適当に調整してやるとよい。…もっとも、普通はこんなことはないよな。完全分解しちまったんで、微妙にズレたんだと思う。

ということで、この部分の組み立てはけっこう難しいのであった。鏡胴部の二本のレバーを一番近づけた状態で、絞り跳ね上げレバーを押したまま、コの字に絞り連動レバーをレバーをはめ込まなくてはいけない。しかも、絞り環もきちんとくっつけた状態で。このとき、絞り環のツメの位置が問題になるが、これは二つの絞りレバーの間に入れる。もちろん、絞り位置のクリックのためのスプリングと鋼球も忘れずに。たいへんよ。

●マウントロックの故障と絞りの異常

マウントユニットの分解・組立の際に、金具を1つ破損してしまった。これは、UNLOCK時に絞り連動レバーを始点に戻すためのもの。FDマウントは他のマウントと違って、UNLOCK時には絞りを変更しても、絞り連動レバーは動かないんだよね。ところが、この金具を破損してしまったために、UNLOCK時にも絞りレバーが動くようになってしまった。

メンテにはこっちの方が便利だと思っていたのだが、えらい実害が出た。ボディに装着すると絞りが開放にならないのだ。というか、ボディ側のレバーとの位置関係がおかしくなって、そもそも、絞り値が正常に伝わらなくなっている感じ。

対処方法しては、破損した金具を作成する、あるいは絞り開放の状態でボディに取り付ける、のいずれか。単純な凸字型の金具なので比較的簡単に作れるが、それでもちょっと面倒だ。絞り開放状態での取り付けは、実は少々コツがいるのだが、とりあえずこれで凌いでいる。装着後に、プレビューでチェックが必要だが、AE-1はプレビューもいつもできるとは限らないので…う〜ん。とりあえず、FTbでマニュアルが正常に動作することも、AE-1でAEが機能することも確認した(いずれも未実写)。

ちなみに、なんで壊してしまったのかというと、どうも赤ボタンを押さずにUNLOCK操作をしてしまったためのようだ。ここは構造がけっこう複雑で、いろいろ試行錯誤をしているうちにグニュっといってしまった。

最後尾にある絞りレバー部とマウントリング部の組み合わせは、マウントリング部の金属ツメを絞りレバー部のミゾにはまるようにする。このとき、そのミゾにはスプリング付きの絞りレバー(絞り値に連動する方)のツメがあるので、これのどっちがわにマウントリングのツメを置くかに迷った。結局、マウントリングを回転させると(UNLOCK位置にする)、絞りレバーのツメを引っ張るようにした。これならば、絞りレバーはミゾの中のすべての場所(1/4円周)のどの位置も取れる。

なお、マウントユニットを組み上げるときは、AEピンも忘れずに入れること。これは比較的簡単。検知部が外側に出るようにする。

●マウント部金具の自作

ようやく欠損しているマウント部の金具を自作。ブリキ板を万能ハサミで凸型に切り出し、両端にネジ穴を開ける。この穴開けが大変で、釘をトンカチでコツコツ打ち付けて開けた。忍耐力との勝負。穴がある程度大きくなったら、千枚通しをねじ込んでグリグリッとして広げる。で、苦労して作ったんだが、何とでっぱりの長さが足りずにボツ。構造を良く確認せずに作り始めたのが敗因。仕方ないので再作製、今度は長さも大丈夫。マウント部にネジ止めして組み立てたら見事に動くようになった。精度は多少アレですが、これにて修理完了。

単純な作業だが3〜4時間掛かった。全部入れたら修理に100時間くらい掛かっているかも知れない。タダ同様のレンズだが、随分楽しませてもらったし、随分勉強になった。

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