(2008.05.21)

Pentax KM --- 露出計不動とファインダー清掃

▼トップカバー開け

トップカバーを開けるのは比較的容易。特別な隠しネジなどはなく、通常の手順通りに外していけば簡単に開けられる。リード線の接続もない。留意点は以下の3点。

▼ファインダー清掃

ファインダー部は、プリズム、コンデンサーレンズ、スクリーンの3つの部分からなる。分解自体はそれほど困難ではないが少々面倒。まず、プリズム降ろしは簡単で、プリズム抑えのバネを外し、前面の左右の止めネジを緩めれば簡単に降ろせる。問題はスクリーンとコンデンサレンズ部で、SVなどとは違って、メーターが邪魔をして、そのままではバラせない。先にファインダーユニットを止めている周囲のネジ4本を外し、下側からスクリーンとコンデンサを止めている金属枠を外す必要がある(ネジは側面にある)。しかも、リード線を切らないためには、露出計基板を外したり、巻き戻し軸を止めているバネを外したり、けっこう面倒な前準備が必要になる。

そうまでして分解して、果たしてメリットがあるのか……実は先にそれをよく考えておく必要がある。そもそも、この部分、滅多に汚れる個所ではない。下手にバラすと逆にゴミを入れてしまう。ファインダー清掃は、どの部分を清掃すべきかを特定することが重要で、清書個所の見当違いをすると、逆にファインダーを汚すことになる。

私の機体では、スクリーン外側を清掃しても、少しも綺麗にならなかったので、汚れは内部と判断したのだが、これが根本的な間違いだった。結果的には、汚れはスクリーン外側に強固にこびりついていたため、通常の清掃では取れなかっただけであった。ファインダー部の分解は必要なかった。なまじ分解したために、余計なゴミが混入して逆効果に終わった。

特に厄介だったのがプリズムと金属枠の間に貼ってあったモルトとサビ。完全にボロボロになっていて、ファインダーの中に大量に入って来た。もちろん、ブロアで吹き飛ばしたし、モルトカスも可能な限り削ぎ落としたが、それでもなかなか完全には取りきれず、組み立ててシャッターを数度切ると、ショックで新たなゴミがファインダー内に入って来る始末。その度に分解して再清掃して…てなことを何度繰り返したかわからない。

また、スクリーンとコンデンサレンズの方も、結果的にはまったく問題なかったのに、うっかり開けてしまったために逆にゴミを混入させてしまい、それを取るためにスクリーンの端に傷を付けるハメに。ゴミも綺麗に吹き飛ばしたつもりだったが、目立つ点ゴミが二つ残ってしまった。しかし、プリズム部と違って、この部分の分解・組み立ては面倒なので、あえて放置することにした。点ゴミ二つにこだわって、さらに悪い結果(たとえば、金属枠を止めている非常に小さなネジをなくすとか…)を招くのはナンセンスという判断。

てなわけで、ファインダー清掃には技術的に大きな困難があるわけではないが、元の状態より綺麗になるか逆効果になるかは、あらかじめよく考えてから手を出すこと。

▼フォトスイッチの原理

一般的な露出計は、電池とメーターの間にCdSを挟む回路になっていて、CdSに当たる光に応じて電流が変化する。OLYMPUS OM-1もCanon FTbも基本的にこの方式。明るければCdSの抵抗値は低くなり、大きな電流が流れる。逆に、暗ければCdSの抵抗値が非常に高くなり電流はほとんど流れない。つまり、露出計のスイッチを入れっぱなしにしておいても、暗くしておけば電池の消費は微少で済む。実質的にスイッチ・オフと同等と考えても良い。

さて、そこでこのKMの露出計だが、実は露出計をON/OFFするスイッチがない。レンズキャップがスイッチ代わりになるからだ。キャップを外すと測光を始め、着けると測光を止める。メーカーはこのシステムを「フォトスイッチ」と呼んでいる。ところが、上記の事情を知っているユーザーにしてみれば、キャップをして暗くすれば電流が流れないのは当然で、わざわざ「フォトスイッチ」などという大仰な名称を付けるのは詐称に近い、と感じるかもしれない。

しかし、実際はそうではない。結論から言うと、「フォトスイッチ」システムは立派に実在する。というのは、このKMの露出計は2コイル式で、水平位置を原点として指針が上下に振れる。通常の露出計のように「暗いと振れない」のではなく、「暗いと下に振れる」のである。すなわち、真っ暗でもかなりの電流が流れる。暗いと電流が流れない通常の露出計とは全く別物なのである。この方式で、なおかつ暗い時に電流が流れないようにするには、別途スイッチング回路が必要になる。それが「フォトスイッチ」なのだ。

回路的には、トランジスタ一つの単純なスイッチング回路で、露出計回路の中間にトランジスタのE(エミッタ)とC(コレクタ)を挟んで、B(ベース)にはフォトスイッチ用のCdSを接続する。フォトスイッチ用CdSに光が当たるとBに電圧が掛かって露出計回路に電流が流れるが、暗いとBの電圧が下がって露出計回路が切断される。

通常方式を採用すれば、こんな回路は不要だと思うのだが、変に凝ってしまったために、余分な回路が必要になったわけだ。ただ、この2コイル方式は、電池の電圧が下がっても(あるいは上がっても)、少なくとも適正露出だけはきちんと出せると言うメリットがある。というのは、針の動きを決定するのは電圧ではなく、測光用CdSの抵抗値と、ユーザーが設定している速度・絞り・感度の抵抗値のバランスだからだ。両者が釣り合いさえすれば、電圧の高低には関係がない。ヘタった電池のせいで露出を失敗するというリスクは小さくなる。

▼故障と修理

露出計が不動である場合、いくつかの原因が考えられるが、とりあえずメーターに直接電圧を掛けてみて、針が振れるかどうかをチェックするのが基本(もちろん、ごく低い電圧でないとメーターを壊す)。メーター自体が生きているとすれば、問題は回路にある。ただし、一般的な露出計回路は単純なので、断線以外の問題はまず起きない。稀にCdSの寿命と言うのもあるようだが、これらのチェックは比較的容易だ。

ところが、KMやK1000の場合にはフォトスイッチという厄介な回路が存在する。最初にやるべきは、トランジスタのEとCをショートさせること。もし、E-Cをショートさせてメーターが振れるのなら、問題はBにつながったフォトスイッチ回路にある。逆に、E-Cをショートさせても不動ならば、問題は露出計回路自体にあり、その主な原因は断線や接触不良だろう。

さて、私の機体だが、E-Cのショートでメーターが振れることを確認した。したがって、問題はフォトスイッチ回路と推定できた。また、フォトスイッチ用CdSとトランジスタのBの間に抵抗(部品番号J508/20kΩ)が挟まっているが、ここをショートカットするとメーターが振れることも確認した。この事実から推察すると、ここの抵抗値が大きすぎるということになるのだが…固定抵抗だから、勝手に抵抗値が変わってしまうことも考えにくい(焼けた形跡も断線もない)。CdSの抵抗値の変化も正常のようだし…

ということで、ここで行き詰まってしまったワケだが、K1000のサービスマニュアルを読むと、露出計が動かないときは、天ぷらハンダの可能性があるので、抵抗やトランジスタのハンダをリタッチしろ、と書いてあった。そして、リタッチするパーツとしてJ508抵抗も挙げられていた。とは言え、外見上は問題なさそうだし、そもそもそんな初歩的な問題抱えた製品を出荷すると思えなかったが、ものは試しとJ508を半田ごてでリタッチ。

そしたら、ものの見事に動き出したワケだ。オイオイ…嬉しいと言うより呆れた。この当時のペンタックスの製品って、この程度なの? そもそも、サービスマニュアルに堂々と書くようなことではないと思うのだが(^^;

で、これで万万歳かと言うとそうでもない、メーターの精度が1段くらいずれているような気がするし、何よりメーターが非常に不安定。特に、絞りに応じたメーターの振れの変化が非常にぎこちない。おそらく、絞り値のマイラー部が錆びている。保存状態が非常に悪い機体なので、ある程度覚悟はしていたが、これは予想以上の難物ですなあ。

でも、マイラーの方は、レンズを付けて絞りをゴリゴリしていたらスムーズになったみたい。

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