†貧乏カメラ館・でじたる別館†

Fuji Finepix 2900Z ★★☆ 発売年月 1999.06/標準価格 ¥9.9800
マニュアル撮影には不向きな中途半端中級機


フルマニュアル撮影をセールスポイントにしている一見マニア向けの中級機だが、実際はフルオート機と割り切らないと使っていられない、中途半端な機種。グリップはでかいし、ダイヤルも回しやすいし、フルオートで使う限りにおいては、悪い機種ではないだろう。ビギナーがたまたま入手したのであれば、案外満足するかもしれない。しかし、ハイアマチュアがマニュアル撮影目的で購入すると、ムカムカ〜ぷっちん!ムカムカ〜ぷっちん!するので注意。
(2006.05.16)

別項でも少し述べたが、私は富士フィルム製のカメラに対して、まったく相反する二つの感情を懐いている。一つは、Tiara、KLASSE、TX-1/2、Naturaの系譜−−すなわち、カメラ好きのユーザーを唸らせる企画力と技術力を見せ付ける製品群−−に対する賞賛と畏敬の念。そしてもう一つは、ユーザーを欺くような安手の製品群に対する嫌悪感だ。このFinePix 2900Zは残念ながら後者に近い。

●マニュアル撮影には向いてません

「欺く」というのは甚だ不穏当な表現だが、プレスリリースで「充実のマニュアル撮影機能と豊かな拡張性でハイエンドユーザーの要求に応える」「ユーザーの撮影意図をより忠実に反映するフルマニュアル撮影」と書いておきながら、実際に絞り優先AEやマニュアル露出で使おうとすると、絞りがF4とF8の2種類しか選べないとはどういうことか? それどころか、AE時の絞りの制御範囲は「F3.3〜5.0」とほぼ1段しかない。あるいは、露出補正範囲が「-0.9EV〜+1.5EV」では、逆光補正すら十分にはできないのではないか?

【参考】Finepix 2900Zの絞り制御の正体?
 スペック表には、「絞り値 F3.3〜 F5.0 自動切り換え」と書いてあるが、なんだか曖昧な表現だ。素直に読むと、F3.3〜 F5.0の範囲で絞りを制御していることになるが、こんな狭い範囲に限定しているのは不可解だ。
 で、想像なんだが、これって、実はレンズの開放F値ではないか?つまり、35-105mm/F3.3-5.0のレンズを常時開放で使っているんじゃないのか?「自動切り換え」って焦点距離によって開放F値が変わってるだけでは?で、マニュアル時にはF8のマスクを被せられるようにしただけ。これなら絞り羽根はいらない。
 じゃあ、手動設定のF4はと言うと、実はF3.3-F5の中間の値、つまり誤差範囲内(TTL測光なのでF値の表記に誤差があっても露出には効いてこない)。これで全部符牒が合う。コストの掛かる絞り羽根を省いたがゆえのスペックであり、それを悟られないようにするための表記と見た。邪推であって欲しいが、反証は見つかっていない。

この仰々しいプレスリリースの表現からユーザーが期待するのは、当然、F3.3(開放)〜F16の半段単位の絞り設定だろう。また、±2EV(0.3EV)の露出補正は最低限の礼儀である。しかも、設定範囲の貧弱さに加え、設定操作が階層メニュー化されてしまっているため、実に欝陶しい。この機種は万事がこの調子で、カタログ映えする無駄な機能は多いが、実際にそれを使おうとすると、神経をことごとく逆撫でしてくれるのだ。これで「ハイエンドユーザーの要求に応える」とは、コンビニ弁当のTV CM並みの度胸だと賞賛しておこう。

具体的な社名を出してしまって申し訳ないが、これがカシオ製品やコダック製品ならばそれほど大きな文句は言わない。彼らに優れた操作性のカメラを作る能力があるとはちょっと思えないからだ。松下やソニーも同じ。銀塩時代からのノウハウのないメーカー(コダックはちょっと別だが)に、まともな操作性のマニュアル機能を望むのは酷だ。もちろん、それでも文句は言うが、初めからある程度は覚悟しているので、あきらめの感情の方が先に立つ。

しかし、富士フィルムはできるはず。フィルムメーカーとは言え、過去には一眼レフを何機種も出しているし、現在も前記のような優れたカメラを出している。カメラの何たるかも、カメラユーザーの気持ちも良く知っているメーカーのはずだ。だから、富士フィルムが大きな事を言えば、こちらもそれなりに真に受ける−−知らずにやってるのは単なる無知だが、知っててやったら悪意の介在を疑わざるを得ないだろう。

●スレーブのバウンス撮影に使えない

私に取ってデジカメとは、室内でバウンス撮影をするための道具である。陰影の柔らかな室内ポートレート−−極論すればそれが全てだ。したがって、機能の選択も性能の評価も、すべてそれが基準になる。その観点から言えば、このFinePix 2900Zは完全に失格である。

外部ストロボによるバウンス撮影には、シンクロケーブル(またはホットシュー)を使う方法と、スレーブシンクロを使う方法の二種類がある。シンクロケーブルを使う方がシステム構築は楽だが、スマートさに欠ける。簡便さと結果を両立させるには、スレーブシンクロの方が望ましい。だからこそ、私はここ1、2年、スレーブシンクロが上手くできるデジカメを探し続けていたのであり、このFinePix 2900Zもその候補として入手した。

▼絞りの制御が貧弱だ

しかし、いきなり絞りがF4とF8の2段階にしか設定できないという点で躓いた。スレーブシンクロによるバウンス撮影では、外部ストロボは天井に向けてフル発光させるのが原則だ。せいぜいGN=30程度の通常のストロボでは、そうしないと光量不足になる。また、スレーブモード付きストロボでは、たいていスレーブ時はマニュアル調光限定である。「外光オートストロボ+スレーブユニット」という組み合わせの場合はオート調光も効くが、カメラから離れた位置を測っても意味はない(実は案外うまくいくこともあるのだが…)。

だから、スレーブ時には外部ストロボ側での細かな調光は不可能であり、露出調節はカメラ側で行うしかない。しかも、ストロボ撮影ではシャッター速度による露出調整ができないので、絞りの制御にすべてが掛かっている(厳密には速度による定常光の影響の違いも考慮すべきだが)。「ポジ並み」というデジカメのラチチュードを考えれば、せめて開放からF8くらいまでは1/3段ステップで調節できないと使い物にならない。それが、F4とF8の2種類だけではどうにもならない。

▼発光量が絞れない

また、スレーブシンクロでは、内蔵ストロボをトリガー灯として使う。メインは外部ストロボの方であり、内蔵ストロボはあくまでもそれを発光させるためのトリガーなので、できるだけ発光量が小さく絞れる方が望ましい。一応、このFinePix 2900Zも発光量を制御できるようだが、マイナス側は最大でも0.9EVだ。このため、スレーブ時にモデルの顔のテカリが防げない。もっと絞れなければ使えない。NDフィルターや赤外線フィルターを貼るというテクニックもないではないが、全然スマートではない。

もっとも、ストロボの調光は外光オートのはずだから、調光機能が優秀であれば、発光量制御が貧弱でも問題は起きない。現に、同じ問題を抱えているCASIOのQV-3000EXでは、外部ストロボの光に応じて内蔵ストロボの発光量を制御してくれているようで、顔のテカリはほとんど起きなかった。発光量制御が「強/中/弱」の3段階という恐ろしい貧弱さであるにも拘らず、だ。おそらく、FinePix 2900Zの内蔵ストロボは最小発光量自体が大きいのだろう。

▼ISO感度が変えられない

さらに根本的な問題として、ISO感度が125相当固定で変えられないというのも困った。そもそも、私のテスト環境では、National PE-28Sを天井に向けてフル発光させると、だいたいISO 100、F2.8前後でほぼ適性な露出になる。ISO 125固定でF4では少々足りない…というか、実写結果を見る限り「かなり」足りない。一応、開放F値はF3.3のはずだが、スペック表の表記も不明瞭で、全域でそうなのか甚だ怪しい。ポートレートに適した望遠端の開放F値はF5あたりではないかと疑っている。いずれにしろ、ISO 125固定で、マニュアル設定の限界がF4では非常に厳しい。

▼色かぶりが防げないい

また、ストロボ撮影時は、ホワイトバランス設定も無効になるようだ。どんな設定にしても、バウンス時の色かぶりが防げない。防げないと言うよりも、WBの変化が確認できない。最初は壊れているのか思ったのだが、通常撮影時にはホワイトバランスがきちんと調節されるので、これも仕様だろう。

つまり、総じて言えば、「散々」だったのである。用途を間違えていると言われればそれまでだが、製品のイメージやプレスリリースの大言壮語は、私にそれを期待させるに十分の物だったと思うのだが。あるいは、プレスリリースやスペック表をもっと良く読み込むべきだった。F4/F8やISO 125なんて明記してあるからね…。もっとも、個人的にガッカリしているということが最大の問題ではなく、天下の富士フィルムがハイエンド向け高級機と謳った機種で、こういう手抜きをやるのというのが、どうにもこうにも腹立たしいのだ。経済的損失ではなく、プライドの問題。つまり、「こんなカメラ買って損した…」ではなく、「カメラユーザーを舐めんじゃない!」と言いたいワケだ。

主要諸元
発売日/価格 1999年6月22日/9万9800円
型式 [230万画素][光学3倍ズーム][マニュアル撮影可能]
撮像素子 1/2" 230万画素 原色CCD
レンズ eqv.35-105mm/F3.3-F?.?
シャッター 1/4"〜1/2000"(AE時)、3"〜1/1000"(マニュアル時)
ピント調節 AF(パッシブ?)/MF
AFロック 可能(シャッターボタン半押し)
最短撮影距離 90cm(通常)/25cm(マクロ)
測光方式 TTL64分割測光
感度 ISO 125相当固定
露出制御 プログラムAE/絞り優先AE/シャッター優先AE?/マニュアル
露出補正 -9EV〜+1.5EV(0.3EVステップ)
フラッシュ 自動/禁止/強制/赤目軽減、プリ発光なし
ファインダー 実像式光学ファインダー ?% x0.?
液晶モニタ2"/13万画素 低温ポリシリコンTFT
メディア スマートメディア
外観 129.5×68.5×59.8mm/345g(電池別)
電池 充電式リチウムイオンバッテリー NP-80(充電器兼用ACアダプタ付属)
仕様出典 メーカーHP
その他プログラムAE以外の露出モードは、すべて「Mモード」で設定する。設定方法や使い勝手は通常の一眼レフなどとはかなり異なる。また、Mモード時に手動設定できる絞りはF4とF8の二種類のみ。


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