スキーショップに行こう

スキーは、はっきりいって道具で上達度合いが変わります。
もちろん、上達するといっても、天性もあるでしょうし、体力的なもの、バランス感覚なんてのもあるでしょう。 でも、上達するかどうかは、やっぱり、道具がとても大きな要因を占めます。 今から書く文章は、その経験を元にして書いてゆこうと思っています。 もちろん、営業したり宣伝するわけじゃないので、店の名前は伏せてあります。 もし、その店を知りたい人はメールでお知らせすることもできます。 ほんとうのスキーショップというものと量販店とは、いったいどう違うのか、読んでいただければ、きっと納得していただけると思います。

僕は昔、量販店で結構いいブーツを選びました。 店員さんのアドバイスや足のフィット感などをチェックしてもらったのですが、なかなかフィット感で満足のいくものがなくて、すべて同じような感じでした。何回もあちこちの店に足を運んで、自分にあうブーツを探していたのですが、なかなかなかったのです。結局仕方がないので、最終的には自分にあいそうなブーツの中から、デザインで決めました。 はっきりいって、かっこよくて自分でもたいへん気に入ったブーツでした。 でも、これが大変な品物だったのです。

スキー場ではいてみると、やっぱりしっくりしない。滑っていても、足が痛くて痛くて仕方がない。 だから、仕方がないのでゆるめると、今度は、ブーツの中で足が動いてしまう。 さらに、スキーソックスをとってみたけれど、どうにもこうにもならない。なんとか頑張ってみたものの、足は変に締め付けられてしまっているので、とても滑るにはつらく、最後には、滑ると激痛が走るようになってしまうようになってきました。こうなると、もう、練習していても、練習にならないのです。もう、足裏感覚どころじゃなくて、締めないと滑れないので、猛烈な痛みをこらえながら滑るばかりで、リフトに乗る前は全てのバックルをはずしていました。 それでも、リフトの上では足が痛くて痛くて仕方がなかったのです。 たえず激痛と戦う、とても大変なスキーをしていました。

そして、秋が深まってきた頃の日曜日、髪を切ってさっぱりしてふらふら歩いていて、ふらふらっと暇つぶしに寄ったのが、小さなスキーのプロショップでした。 その店には、けっこう高い値札が付いていました。 内心「高いなぁ」と思って「はやくかえろ」と店内を見渡していたら、初老のスキーショップの経営者のような店の人が声をかけてきました。

「何かおさがしですか」
「はぁ、まぁ」
「板ですかブーツですか」
「まぁ、ブーツがどうやら足にあっていないので、何かあるかなぁと思って、まぁみにきたんです」
「今はいているメーカーはどこのメーカーですか」
「****です」
「あぁ、そうですか。そしたら、ちょっとだけ足を見せてくださいな」

といわれて、ひょっとしたら足が臭いかもしれないなぁ、と思いながら靴を脱ぐと、

「あぁ、だいぶ甲が高いですなぁ。あそこのメーカーのブーツじゃ、痛くてたまらないでしょ」

「そうなんですよ。だからまぁ自分にあったブーツをさがしているんですけどねぇ、なかなかねぇ」

「あなたの足であのメーカーの靴だったら、まずあわない。リフトに乗る前に、よくバックルを全てはずしている人がいているけれども、あなたもそのうちの一人ですねぇ

「!!!いやぁそうなんですよ。1時間も滑ったら痛くて痛くてたまらないんですよ」

「そりゃそうでしょう。見なくてもわかります。もし、あのブーツを私のこの店で買ってもらっていたら、言ってもらえれば修正してあげるんですが、あなたの場合は、あのブーツをどう修正してみたって、なおらないんですねぇ。 根本的にブーツの設計が違うんですよ。それに、本当にブーツのことを知っている人は、まず、あなたにあのメーカーのブーツは売らない。ウチじゃそんなひどい商売なんてしない。練習しても痛くて痛くて、練習にならないのは目に見えているからねぇ」

「まぁ、けれど、いろいろはいてみても合うブーツがなかったから、仕方がないんですよ」

「ははは、そんなことはないですよ。あなたの足のサイズはいくつですか」

「26.5です」

「あぁ・・・ 甲が高くて横幅が広くて26.5ですねぇ。それじゃ、このブーツを一度はいてみてもらえますか」

 

今まで、本当のプロショップというものを知らなかった僕は、本当に驚いた。 これが驚かずにはいられなかったくらいに、驚いた。 持ってきたブーツをはいてみた瞬間にわかった。 「ああっ、これだ!!」そして、 「おおっ!!すいません、これください」と思わず言ってしまった。すると、

「お客さん、気が早いのもすごいですねぇ。本当にあうかどうかは、やっぱり30分はいてみてから判断してくださいよ」

「ええっ、まぁそうですね。でも今までに、他の店ではいた中でいちばん感覚がいいんです」

「あははは。だから****店と一緒にしてもらったら困りますよ。ああいうところは、ちょっとだけスキーをかじった若い店員さんが、よくわかりもしないのに売っている。 せいぜい経験があっても、1級か2級程度の足前を持っているだけだから、ほとんど、素人と変わらない商売をしている。また、店にはせいぜい半年もスキー板を並べてはいない。それに、CMばっかりやっているから品物も高い。
けれど、こっちは1年中店にスキー板並べて売っているプロショップだからね。値段もあんなに高くはないしね。」

「スキー用品なんて、夏場でも売れるんですか」

「よくスキー板なんて、夏場は売れないと思われるけれど、意外と秋冬以外でも、コンスタントに売れるものなんですよ」

「へぇー。けれど、このブーツ56000円ってかいてありますけれど、これは、ちょっと高いんじゃないですか」

「あはは。56000円で買ってくれるんですか。こんなお客さんばっかりやったら、大儲けできますねぇ(笑)これは定価です。昔は値札をつけてやっていたんですが、あまり安い値段をつけると、業者から文句がくるんですよ。だから、一応定価みたいなものはつけています。これもえーと(電卓をたたきながら)*****円です」

「え!僕が前に買ったブーツよりも安い!

「これが普通のスキーショップの値段ですよ。CMとかチラシをいれなくても売れるから、余計な経費はかからないんですよ。ついでに板なんかどうですか」

「持っている板は、別に悪い板ではないから、いいですよ」

「何センチの板をはいていますか」

「185cmです」

「足前は」

「ボーゲンに、毛がたくさん生えてきたくらいです」

「あははは。いちおう滑れるんですね。でも、本当にうまくなりたいんだったら、いまなら、長い板をはいたほうがいいですよ。短い板だと、力を入れさえしたら簡単に回すことができるから、悪い癖がついてしまう。上達も遅くなる。長い板だと力任せにはなかなかできない。 きちんと滑らないと板がまわってくれないから、どっちかと言うと、ほんとにうまくなりたいのなら、初めこそ長い板を使ったほうがいい。それと、今持っているスキー板はどこのメーカーですか。」

「***の**モデルです。」

「どんな選び方をしたのかしらないけれど、それはかなり問題ですねぇ。あれは癖があるので、うまい人ならいいんですが、あなたのレベルじゃ上達の妨げになりますよ。」

「えっそうなんですか。」

「あなたのレベルだったら、できれば(並んでいる板の一つを取り出して)このくせのない板なら、ぴったしで上達も早いはずです。」

「でも、そんなにお金がないからこれはあきらめます。」

「(電卓をたたきながら)この値段ではどうですか。」

「ちょっとむずかしいです。ブーツも買うことを考えると、スキーに行けなくなってしまうんですよ」

「いや、この値段はブーツと一緒の値段ですよ。」

「ほぉー!! でも、今日はほんとは髪を切った帰りで、ブーツを買うなんて予定もなかったので、買うのはブーツだけにして、板はちょっと当分は我慢しときます。」

「ははは。でも、今の板で滑るよりも、格段に上達が変わるよ。」

「はい。かんがえときます」


それから1週間後、気がつけば板まで買ってしまっていました。 でも、正直な話、安いんです、量販店よりも。 シーズンの終わりのバーゲンセールの時でさえも、量販店の方が高かったのです。

これには驚きましたが、店の人が言うには、
「それは仕方がないんですよ。量販店さんは、ものすごい宣伝費用をかけていますからね。宣伝費用は半端じゃないですよ。全国中、ものすごい宣伝をしていますから。だから、値が高くなってしまう。 でも、こっちは1年中同じ値段で売らないと、お客さんから苦情がくるし、評判も落ちてしまう。量販店よりも安く売らないと、売れないしね。それに、ニューモデルも1年中同じ値段で安く売るから、だから、夏でも商売してゆけるんです。それが口コミで広がって、宣伝しなくてもお客さんがいなくなることはないんです。安くするのは、一種の宣伝費用ですよ。でもね、お客さんの買ったセットも、たいがい安いはずですよ。他の店じゃ難しいはずです。それに、ブーツが合わなかった場合、痛みのあるところの修正も無料でしますけれど、量販店は料金をいただきますから、結局高くなるんです。修正する技術もないところもあるしね。」 「なるほど」

この他に、僕は店の人に、店の中で滑り方を教えてもらえました。 はっきりいって、教えるのがとてもうまいのです。 指導員の免許を何十年もの間持ち続けて、指導し続けているから、陸上であっても実によくわかる。 指導員を指導する免許を持っているというから、これまたすごい。 おかげで、その話を聞いた後、スキー場にいって、言われたポイントを押さえて滑ってみると、あっという間に、自分でも上達しているのがわかった。 スキースクールを1日かけて入ってもわからなかったことでも、できるようになった。 「あぁ、このことだったんだ」と滑りながら、体でその滑る感触を味わうことができました。
ブーツも、以前のブーツとは全然フィット感が違って、ばっちしだった。 おかげで、朝1番の8時のリフトから、4時半の終了まで、昼食と水分補給とトイレ以外は、滑りっぱなしができるようになった。 初めのブーツは、惜しげもなく友人にあげてしまった。 気がついたら、片足ででも滑られるようになっていた 。 ありがたいことです。

やっぱり上達は、道具がかなり重要だと思います。でも、やっぱり、信頼の置ける店で、信頼のできる人に相談しながら選ぶと、予想もしなかった上達に巡り合えることもあると思います。道具一つで上達の度合いが変わります。そのためのアドバイスがきちんとできる店こそが、プロショップでしょう。特に、その道、何十年という人は、滑りを見なくても話だけで、上達度合いを察してくれます。僕は、この店とこの人に会っただけで、スキー教室5回分の上達はできたと思います。<終>

 

道具に関しての質問のメールが結構来ていますので、追加エッセイ「スキーショップへ行こう2」を作成しました。
ブーツや板などのグッズでお困りの方は、こちらも読んでみてください。
ショップの紹介も、要望がたくさんありましたのでアップしてあります。
超初心者からハイレベルの人まで、ショップで対応してもらえるはずです。

 

 

1998年7月HP公開と同時にアップ