安全にスキー・ファンスキー・スノーボードを楽しむために
by 全日本デモンストレーター 金子裕之さん(談)
(リンク) で、僕が裕之さんの来期モデルの板を見せていただいているときに、ファンスキーを見つけたことから始まります。ここの金子裕之さんとの会話は、金子さんの実家である赤倉の ホテル金甚
ファンスキーの危険性をHPで掲載している僕は、デモである金子裕之さんが何のためにファンスキーを持っているのか不思議で、ひょっとして来年モデルのファンスキーかなぁと思って質問をしたことからはじまりました。
2000年3月の技術選用の板
大まわり用エクストリームカーブ(黒:来シーズンモデル)
ミドル大まわり用・斜面規制の板
ショート−ターン用(黒:来シーズンモデル)
コブ整地
大まわり用(オレンジ:来シーズンモデル)
次の板とは、プレートの違い
大まわり用(草色:今シーズンモデル)
プレートの違い
ラスト(オレンジ:来シーズンモデル)
大まわり、そして小回り用
コブが深くなったときにすべる板
ビンディングのところはファンスキー(今シーズンモデル)
ポジショニングのトレーニング用
右のストックがコブ・ショートターン用
左が大まわり・ロング系
Snowman-Yukio 「(板の写真を撮りながら)このファンスキーは、来年モデルですか?」
金子裕之さん 「いえ、市販されているタイプですよ」
「えっ?ひょっとして、裕之さんがつかっておられるんですか?」
「もちろんそうですよ」
「えぇーそうなんですか。実は僕のHPで、ファンスキーに関する知られていない危険性を掲載しているのですが、その反響がかなり大きくあり、ファンスキーで怪我をした人や、骨折などひどい事故をした人が、たくさん報告をしてきてくれているのです。かなり危険な側面を持っているファンスキーのようですけれど、これで練習していても大丈夫でしょうか?」
「そうですね、ファンスキーは板が外れないという危険な面もあるんですが、スキーの練習にはとてもいい道具なんですよ。」
「ファンスキーで、スキーの基礎トレーニングができるんでしょうか。僕もファンスキーをはいたことがあるのですが、めちゃめちゃ面白かったけれども、普通の板に乗ったとたん、おもいっきり後傾グセがついてしまい、身体の動きがめちゃくちゃになってしまいました。それ以来かなり楽しいのは知っているんですが、避けてとおってきています」
「それは練習の方法次第ですよ(笑)」
どうやら金子裕之さんは、ファンスキーというものをスキーの補助練習をするためのものとしか認識していなくて、危険性をあまり知らないのではないかと思ったので、すこし詳しくその怪我の話をしてみることにした。でも、この心配は素人の余計な心配であるということが、話をしていくうちにだんだんとわかってきた。
「ファンスキーでの怪我は、板が外れないために、 ・・・ここでは前作のファンスキーの危険性と重複するお話なので省略します。ファンスキーの危険性を参照ください・・・ のように、大変大きな怪我をしている人がたくさんいます。ほんとうに大丈夫なんでしょうか?」
「そうですね、ファンスキーが外れないための怪我をする危険性はありますね。でもね、よく聞いてください。ファンスキーだけが危険なのではないのですよ。ファンスキーは怪我をしやすくて、スキーが安全なものとは限らない。スノーボードも板が外れないので危険だといわれてますが、スノーボードが危険なのでもないのです。もちろん、ファンスキーも危険な面はあると思います。でも、スポーツである以上、怪我はつきものなんです。」
なんともここで、ファンスキーの危険性(続々編)で僕が書いた話とまったく同じ話を、全日本デモンストレーターである金子裕之さんの口から直接聞いたのです。重複するのでここでは省きますが、前回のファンスキーの危険性(続々編)で書いていたことが間違いではなかったことに、僕は少し安心しました。
2000年2月26日 金子裕之さんのホームゲレンデ・赤倉温泉スキー場にて スピードが違う!!
そして、もう少しファンスキーについて詳しく聞いてみようと思い、もう少し質問をしてみることにしました。なんでもそうですが、その道を極めている人というのは、すべての行動はその人独自の優れた理論に基づいて行動しているものなので、必ず突っ込んだ話を聞けると思ったのです。
「裕之さんは、ファンスキーで教えたりするんですか」
「もちろん、ファンスキーで教えたりすることもありますよ。いい練習になるからね」
「ファンスキーで、いったいどんな練習をするんでしょうか?」
「ファンスキーは、後傾の矯正にもなるし、カービングの練習にもなるし、いい位置に乗るということの練習には、とてもいいと思いますよ。私は、ハイレベルなトレーニングの道具として、ファンスキーを使って指導しているんです。きちんとエッジにのってゆく感覚を、私独自の指導方法で教えています。」
ファンスキーを高度なトレーニングメニューのうちの一つとして取り入れているとは、僕はそんな練習方法があるなんて全く知りませんでした。やっぱり、トップクラスの人は違います。それはさておき、
「でも、練習中に怪我をしたら。。。」
「もちろん怪我をしないように、こけ方をきちんと指導していますよ」
「でも、こけ方なんてあるのですか?」
「足をあげるんですよ」
「足をあげるんですか?」
「そう、こけたときに足をあげるんですよ。そうでないと、板が斜面に刺さってしまい、怪我をしやすくなってしまいますから」
ソファーに腰掛けた金子裕之さんは、そのとき頭を少し横に傾けながら、とてもやさしそうな目をしていました。けっこう単純なことですが、なぜこのことに気がつかなかったのでしょう。やっぱり、疑問に思ったことは少し突っ込んで聞いてみるものです。
実は僕はこれまで、HPでファンスキーの危険性ばかりを訴えてきましたが、危険性ばかりを訴えるほかに、何かその危険性を回避する対策や方法をHPで紹介することができればとずっと思っていたのです。そうでないと、なんでもかんでも規制を叫ぶような、そんな視野の狭い話になってしまうからです。それは すなわち、
「 ファンスキーは危険だ = ファンスキーを使ってはいけない 」
という、単純きわまりないヒステリックな反応になりかねないと思っていたのです。これでは、雪を楽しむ方法の一つを消去してしまうことになりかねず、HPで危険性を訴えながら、その反面の安全に滑ることを訴えることの出来ないもどかしさを、僕はファンスキーの危険性をHPに掲載してから、ずっと感じていたのです。だから、金子裕之さんのここでのお話は、ほんとうにとてもいい話を聞いた想いでした。
でも、足をあげるだけということで、怪我がすべてなくなるというものではなく、ましてやほんの一瞬の転倒で足をあげるなんていう動作はたいへんむずかしいと思われます。僕はさらに突っ込んだお話を聞いてみようと思い、もうすこし質問をしてみることにしました。
「なるほどそうですね、足をあげれば斜面にひっかかりにくくなって、大きな怪我を減らせるかもしれませんね。でも、よく考えてみると、こけるのはほんの一瞬で、そのときにそういった動きをきちんととれるかは、大変難しいんじゃないでしょうか」
「それはもちろんそうです。でも、それはファンスキーに限ったことではないのです。足をあげることによって、ある程度の危険性は回避できます。でも、ファンスキーもやっぱりスポーツなのです。そのスポーツのほんとうの危険性を知らずに、無謀なことに急斜面を勢いよく滑り降りたり、飛んだりはねたりとアクロバット的な動作をしてしまう。そのことの危険性を、ほとんどの人はたのしいから、簡単にできるからやってしまうのです。そうやって、危ないということを知ってか知らずか,何気なくやってしまうことに問題があるのです。
最近、ゲレンデでの事故が増えてきているようなのですが、ファンスキーとスキー、スキーとスノーボードにかかわらず、スポーツであるがゆえに危険があるという認識が、やっぱり多くの人たちには欠けているのではないでしょうか。スポーツだから怪我をすることもあるという危険性を認識することなく、手軽に気軽に安易にレジャーとして楽しんでしまうところに、落とし穴があるのではないかと思うのです。」
「そうですね。。。」
かなりのスピードを出しての大まわり。わかりにくいけれど、視線はもうこちらを向いている。
「私は、ファンスキーをハイレベルなトレーニング用のマテリアルとしてつかっています。きちんとエッジに乗ってゆく感覚や、いい位置に乗るというトレーニングには、ほんとうにいい道具です。ただ、ごまかしがきく道具だから、きちんとしたトレーニング方法で指導することが大切だと思っています。
でも、ファンスキーでスピードを出してトレーニングをするとき、とまるときはやっぱり怖いですね。だから、私はきちんととまり方やこけ方などをはじめに教えています。昔は、スキーを教えるときの一番はじめの指導は、こけ方を教えることから始まったものです。
今は道具の進化によって、安全性が非常に高くなっています。だからこのごろは、こけ方なんてあまり教えたりしなくなってきていますが、こけ方を教えるというのは、ほんとうはやっぱり大切なことです。やっぱりスピードが出るスポーツである以上、安全面には十分注意をして滑らなくてはいけないですよね。」
以下、僕の言葉は省略します
「また、ファンスキーの転び方ですが、滑りながらなら足を上げて、柔道でいう「受身」をすることが大切です。そしてその時に、ファンスキーは普通の長い板と違って、足がとても軽いので、こけたときにひざであごや顔を打ったりすることに注意をする必要があります。
また、さっきもお話ししたように、安易に直滑降などをしないことも大切ですね。ファンスキーは大変扱いやすいマテリアルなので、ちょっと滑ることができるようになると、多くの人はすぐにアクロバット的な運動をしてしまいます。スノーボードもそうです。そういったことは、やっぱり危険ですね。こういったことは、十分にトレーニングをしてきている人でないと、怪我をすることが多いものです。
これは、スキー以前の問題ですね。実際に、雑誌で見かけるアクロバット的な事を見せる人たちは、ふだんからかなりのトレーニングをしています。一般の人がこういったアクロバット的なことをするつもりなら、やっぱりきちんと体の柔軟性を高めて、体をやわらかくしておかないといけませんね。そうでないと、怪我をしてしまうのは目に見えています。
視線が下を向くことは、滑っている間には一度もなかった
怪我をするということには、やっぱり原因があるのです。その原因が何なのかということを考えることが大切です。今のゲレンデは、いつもきちんと整備されていて、一般のスキーヤー・スノーボーダーたちはどうしても、斜面の状態変化に弱くなっています。もちろん、変化を求めてのコース外滑走はやってはいけないことですが。
また、ゲレンデの混雑がひどくなると、どうしても衝突などが起こり、怪我も増えてしまいます。そういったときの対応や、体の身のこなしをやっぱり考えなければいけないと思います。けれども、どうしても事故というものは避けることはできないものです。その避けられない危険性を認識し、いざというときはいかに被害をすくなくするか、いつも考えておかなければならないと思います。いくら慎重に滑っていても、事故は避けられないものだから。。。
また、付け加えるなら、今の人たちは、身のこなし方の巧みさがかなり衰えてきているのではないでしょうか。そのことは、最近非常によく感じてしまいます。ふだんパソコンやテレビ、ゲームをしてばかりで運動をする事がないと、どうしても身のこなしは衰えてしまいます。日頃、何の運動もしていない人たちが、いきなりゲレンデに出て、準備体操もストレッチもせずに、いきなり滑ってしまうのですね。
やっぱり、日頃運動をしていない人たちがいきなり運動をすると、やはり怪我をしてしまう可能性は、どんなスポーツでもかなり高くなります。だから、できることならマット運動などで体の柔軟性を高めてから、スポーツをするのがいいのです。でも、なかなかそういったことは難しいことですよね。。。
一瞬のニュートラルポジション。視線も生き方も、ずっと前を向いている人だという印象をうけました。
また、スキーやファンスキー、スノーボードなどで転ぶときは、できるだけ大胆に転ぶことも大切です。みんな怪我をする人は、こけるときに身構えてしまう人が結構多いものです。ぐっと力をいれて身構えて転んでしまうと、体の柔軟性で衝撃を吸収することができずに、衝撃が骨などに一気にかかってしまう。これはかえって危険なことなのです。
こけるときは大胆にこけてしまう。そして体全体と雪のクッションで、ショックを吸収してしまうということですね。柔道でいう受け身をとることも有効です。もちろん、状況にもよりますが、大胆にこけると、体のもっている柔軟性で怪我の程度を少なくできます。
そのためにも、やっぱりマット運動などで、体の柔軟性を高めておかなくてはいけないのです。もちろん、普通の人にマット運動をしたほうがいいといっても、なかなかできないですね。だから、滑る前にはきちんと充分な時間をかけて、ストレッチをしてほしいですね。ストレッチをきっちりやって、身体を柔らかくしておいて、身体の柔軟性を高めておくこと、滑る前には、やっぱりそれが一番必要なことですね。これは、あらゆるスポーツをしてゆく上でも、基本ですね。
また、睡眠不足は身体の動きが非常に悪くなります。ゲレンデに出るときは、きちんとした睡眠をかならずとることが、怪我を避けるためには大切なことですね。
もし、HPでファンスキーの危険性のようなものを載せているのなら、そういったことを載せておくことをおすすめしておきます。特に、ストレッチを十分にしておくこと、これをきちんと伝えておいて欲しいです。怪我をすれば、自分も楽しくないし、人にも迷惑がかかってしまう。やっぱり、安全にみなが楽しめるように、こういったことをきちんと伝えておくといいと思うのです。。。
以上が、金子裕之さんのお話しした内容を、必死にメモを取ったものを元に書いたものです。金子裕之さんには、緊張していてもおかしくはない2000年の技術選の直前(予選前日)に、こころよく確認作業を承諾していただけました。大変ありがとうございました。
僕は、金子裕之さんと二日間一緒に滑ることができたのですが、人が多いときや雪が降って視界が悪いときは、ことのほか安全に気を配っておられていたのを思い出しました。ゲレンデの状況がよくないとき、かならず「気をつけてね」と声をかけてくれました。金子裕之さんのその心配りも、大変うれしく思っていました。
今回、ようやく、雪上スポーツであるスキー・ファンスキー・スノーボードに関しての安全に滑ることのお話を、僕のHP上で掲載することが出来たと思います。雪の上での楽しみ方はそれぞれですが、ほんとうに楽しいシーズンをおくるためにも、ぜひとも怪我のないシーズンをおくって欲しいと思っています。
これを書いているのは、3月。春が静かに足音をたてずにやってきています。僕も楽しい想い出、よい思い出、たくさんの想い出をこころにいっぱい詰めて、また暖かい春を迎えたいと思っています。そして、雪を楽しむ多くの人たちも、今年の冬も、ほんとうに楽しかったと思える想い出となるように祈っています。
最後に、金子裕之さん、掲載にあたって大変お手数をおかけしていまいました。そして、ほんとうにありがとうございました。
特別リンク
2000/3/9 アップ
追記です
今回この話を取り上げてはいますが、ファンスキーに関して、固定されているビンディングの危険性を否定するものではありません。スピードが出ていなくても、固定式ビンディングのために、ファンスキーで怪我をした話はたくさんあります。その固定ビンディングの危険性を前もって知っておいた上で、ファンスキーを安全に楽しんでもらえることが出来ればと思っています。
危険なのはファンスキーだけではありません。カービングスキーも、ぶっ飛ばせば危険きわまりない道具なのです。スノーボードも、逆エッジやハーフパイプで転倒すれば重大な事故になる場合もあります。
結局は、これは安全で、これは安全ではないということではないと思います。反対に、これは危険で、これは危険じゃないという話でもなく、すべてのスポーツに危険がつきまとい、それぞれのスポーツでそれぞれの危険性に十分注意する必要があるということになってくると思います。
どうかこのほかのエッセイも読んでいただいて、知られていないたくさんの危険性を知っていただいて、雪をこよなく楽しむ人たちが、怪我のない、事故のない、楽しい想い出がたくさんできるすばらしいシーズンをすごせる事が出来ればいいなと、こころから願っています。
2000年9月4日追記
☆ ファンスキーの事故報告1 ☆
読み進めば、ファンスキーの事故報告2で事故を避ける具体的な方法がアップされてあります。
どうかご一読いただければと思っています