【一般的スクリーニング検査として、全身の理学的診察は必須であるが、OCの副作用が現れやすい疾患や生殖年齢の女性に多い疾患に対しては十分留意すべきである。頸部の診察では甲状腺腫、胸部の診察では心肥大、心雑音の有無、腹部の診察では肝臓の腫大の有無等に注意する。】
一般検査の検査項目は、ほとんど通常の健康診断の範囲内のものです。会社などの健康診断データで代替してくれる病院もあります。健康診断データを持参してみるとよいでしょう。
【1)血圧測定)】
高血圧があると循環器系疾患のリスクが高まります。
WHOの基準で問題なく服用できるのは、140-159/90-99以下ということになっています。
常時血圧測定ができるなどの条件があれば、もう少し高くてもよいようです。
【2)身長・体重測定)】
肥満は血栓症などのリスクを高めます。
BMIが25を越えると慎重である必要があります。BMI(肥満度)=体重s÷身長m÷身長mなので計算してみて下さい。
たとえば、体重65kg身長160cmであれば25.39になります。
なお、WHOの基準では、肥満でピルの服用制限をする必要がないとしています。
ひめたろうのペ−ジさん内のダイエットの鉄人でBMIが簡単に計算できます。
【3)身体的診察
(特に甲状腺腫、心肥大、心雑音、肝腫大の有無))】
聴診・触診でのチェックです。内科検診でのチェック範囲です。
なお、単純な甲状腺種・甲状腺機能亢進症・甲状腺機能低下症について、WHOの基準では服用制限なしになっています。
弁膜性心疾患で合併症のある場合には、血栓のリスクが増大しますので、服用を避けるべきです。
【4)検尿(蛋白、糖、ウロビリノーゲン))】
蛋白尿は腎臓や尿管の疾病が原因で起こります。膣の分泌物が混入したときや生理前には、尿蛋白が検出されることがあります。再検査で異常がないか確かめる必要があります。
尿糖の陽性では糖尿病が疑われます。血糖値の検査が必要です。
ウロビリノーゲンは、陽性(++)または陰性(-)なら異常です。陽性の場合、急性肝炎・慢性肝炎・肝硬変・溶血性黄疸などの可能性があります。陰性なら胆道の完全閉塞・抗生物質の長期使用などの可能性があります。
腎疾患・糖尿病については、状態によりピルの投与は慎重に判断する必要があります。肝疾患がある場合、ピルの服用は避けるようにします。
【5)血液生化学検査
(AST(GOT)、ALT(GPT)、コレステロール、中性脂肪等))】
AST(GOT)・ALT(GPT)は、肝臓、腎臓、心筋、骨格筋の異常をキャッチします。50〜60KUの上昇で危険信号の出し始めです。特に肝臓異常に敏感に反応します。ピルは肝臓で代謝されるので、ピルを服用すると肝臓の疾患(ウイルス性肝炎・肝硬変・肝腫瘍)に悪影響を及ぼします。
コレステロールにはHDL(善玉)とLDL(悪玉)の2種類があります。HDL(善玉)は40mgが正常値、LDL(悪玉)は120mgが正常値です。総コレステロールは200mgが正常値、220mg以上になると高脂血症となります。
中性脂肪は150mg以上になると高脂血症とを疑います。
高脂血症(脂質代謝異常)があると血栓症を起こしやすいので、ピルは服用しないようにします。
【6)血液学的検査
(赤血球、白血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板))】
赤血球が300万個以下は、貧血です。生理が重い場合、ピルで改善することがあります。
白血球の正常値は、4000〜9000個です。炎症がある場合や白血病で増加します。
ヘモグロビン値は赤血球と連動しています。18%以上で多血症です。多血症は血栓症の原因になりますから要注意です。
ヘマトクリット値は赤血球と連動しています。55%以上で多血症です。45%以上で多血症の疑いがあります。多血症は血栓症の原因になりますから要注意です。
血小板が10万個以下になると出血しやすくなります。40万個以上では血小板増多症が疑われます。血小板増多症は血栓症の原因となります。
【7)血液凝固系検査 (血栓症のリスクが高いとき)】
6)まではまあまあ一般的な検査です。健康診断や献血でも大体データはそろうと思います。この検査で危ないと思ったら、ピルの服用はやめた方が賢いかもしれません。7)の血液凝固系の検査は、それでもピルを服用したい人のための検査かなと思うでしょ。゜血液凝固系の検査は特殊な検査も多く、とても一般的なものではありません。でも、「ガイドライン」は「血栓症のリスクが高いとき」に喫煙まで入れているのです。
【上記の先天性および後天性血栓性素因保有者には該当しないが、喫煙、軽度の肥満、静脈瘤、血液的検査などで血栓症のリスクを有すると判断された場合には、慎重に投与を検討し、血液凝固系検査を行い、検査値に異常がある場合には投与しない。検査項目の例については、表7、8を参照のこと。】
喫煙、軽度の肥満まで、「血栓症のリスクが高いとき」に含めて、血液凝固系の検査をするのは現実的に無理があります。「あなたは検査の結果では血栓症のリスクが高いとはいえませんが、タバコを吸うので(少し肥えているので)血液凝固系の検査をした方がいいですよ。そうしないとピルは処方できません。」と言う医者がいるとは思えないのです。「ガイドライン」通りに検査を行っていると答えたのは18%ですが、それは主観の問題であって、実際「ガイドライン」通りに検査を行っている医師はほとんどいないのではないかと思います。それは医師のせいではなく、「ガイドライン」の非現実性のためなのだと思います。
処方時検査として血液凝固系の検査を位置づけるのではなく、血栓症の初期症状が疑われるケースに的確な対応ができるように情報提供していくことの方が、ずっと現実的で有意義ではないかと思えるのです。
その意味で、血液凝固系の検査について知っておくことは大切なので、検査項目の例示と検査値の目安を引用しておきます。
【血液凝固系の検査における目安は、アンチトロンビンIII(15.0mg/ml以下、または70%以下で異常)、プロテインC(50ng/ml
以下で異常)、プロテインS精密測定(60%以下で異常)などがあり、また、線溶系の検査では、D-dimer(150ng/ml以上で異常)、TAT
(3.0ng/ml 以上で異常)などである。】
ピルを使用する女性として知っておいてほしいことは、血栓症が心配な症状が出たら血液凝固系の検査というものがあるんだということです。
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【 乳癌は女性ホルモン依存性疾患であり、必ずチェックしておく必要のある項目である。スクリーニング検査として、触診による乳房検診を実施する。婦人科的検査は、妊娠、女性ホルモン依存性疾患である子宮筋腫や子宮内膜症等の有無をチェックする上で重要である。また、子宮頸部細胞診は、子宮頸癌のスクリーニングのためにを実施するものである。
1)内診(妊娠、子宮筋腫・子宮内膜症などの有無))
2)子宮頸部細胞診)
ちょっと屁理屈を書きますと、普通妊娠は尿検査で調べるのですが、「ガイドライン」にはそれがなくて、いきなり内診で妊娠を調べることになっているのです。「ガイドライン」の不思議なところです。妊娠の可能性があるなら、まずは尿検査で調べてほしいものです。
子宮筋腫は、禁忌指定なので調べるということなのでしょう。私としては子宮筋腫や内膜症があればこそピルを処方すべきだと思うのですが、どうも逆のようです。
WHOの基準では乳ガン以外の婦人科疾患は、いずれもピルを投与してもよいことになっています。この基準から考えれば、処方時に内診や子宮頸癌の検査を条件にするのはおかしいと言うことになります。
ピルが子宮頸癌のリスクを高めるということであれば、定期検査の中でチェックすべき問題であって処方時検査項目としてこれを行う理屈は立たないのではないかと思います。
内診も子宮頸癌の検査も、さらにはSTD検査もリプロヘルスの増進のためには、有益なことはいうまでもありません。だからといって、ピルの処方時にこのような検査が必要だという理屈が立つか、疑問のあるところです。
むしろ、敷居の高い婦人科へ気軽に足を運んでもらうことから始めた方がよいという、多くの欧米諸国がとろうとしている方向の方が現実的に女性のリプロヘルス増進に寄与するように思えるのですが。
ピルを普及させないための障壁づくりでなかったかと、勘ぐられても仕方ないのではないでしょうか。
3)乳房検診(触診))】
ピルは乳ガンがある場合には、これを悪化させます。したがって、ピル処方に際して乳ガンのチェックは必要という理屈は立ちます。
これは内診などと明らかに違う点です。
ただ、自己診断の方法を普及させることの方が、乳房検診よりも早期発見の有効な手だてであることを忘れてはなりません。
ピルを服用する女性には、自己診断の方法を是非とも習得してほしいと思います。
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