チェコ
96年頃は「中欧の奇跡」と持ち上げられたチェコ経済ですが、最近は日本よりひどいマイナス成長にあえいでいます。
クーポンを国民に配って企業民営化を図った「クーポン民営化」が失敗だったという説と、「クーポン民営化」自体は成功
したのだけれども、その後にとるべき必要なステップをきちんととらなかったのが失敗だという説があるようです。
いずれにしても、破産法など、資本主義の原点ともいえる法律の整備がいまだにできていないところをみると、
ハンガリーやポーランドに大分遅れをとってしまった、というより、今も差を開けられつつあるという感じですね。
98年の6月総選挙で社会民主党内閣が成立してからの動きは、経済の停滞状況を本当にわかっているのか、
という「麻痺状況」。
国が関与する企業の経営者の入れ替えなど、どうでも良いような(だって、入れ替えて経営が良くなるわけでは
ないんだもの)ことに何箇月も費やし、今は「企業復興計画」というおもちゃでみんなで遊んでいる、と酷評されています。
この「企業復興計画」、基本的には、経営が立ち行かなくなった企業を国有民営の仕組みで再生・リストラしよう、という
計画なんですが、EBRDなどの意見は、きちんと破産するものは破産させることが本当の再生なんだよ、ということのようです。
こうした動きの背景にあるのは、チェコ人のプライドの高さ。第一次大戦と第二次大戦の戦間期に高度に進んだ工業国で
一人当たり国民所得は世界で10指に入っていたという「過去の栄光」を過信しています。
タトラという英ロールスロイスに相当する自動車メーカーなどは、もはや乗用車の生産を中止しているにもかかわらず、
商工大臣は生産再開を閣議に図って反対される、というこの意識。全然売れないのに、「売れないはずはない」という
意識なんですから・・・。
これが、1948年から1989年までの長かった40年間の社会主義期がうみだした意識なのかもしれませんね。
はっきり言ってしまえば、エンジニアの技術水準は最高かもしれないけれども、マネージャーの経営水準は最低かもしれない。
スロヴァキア
スロヴァキアとスロヴェニアの区別がつかない人も多いようですが、いずれもスラブ人の国家で、いずれも歴史が浅い
という点は確かに共通しています。スロヴァキアはチェコスロヴァキアから分離、スロヴェニアはユーゴスラヴィアから
分離したという国です。
スロヴァキアの経済に関しては、94年にメチアル内閣が発足して以後、経済成長率は5%だ6%だといやに高く、物価
上昇率ははやばやと6%くらいにまで下がって、ポーランドやハンガリー、あるいはチェコと比べてもそん色なかった。
これで勘違いしてしまうと大間違い。実は粉飾決算に近いお化粧された数字だったわけです。
その実態を明らかにしたのが、98年9月の選挙で発足したジュリンダ政権。
メチアル前政権においては、与党の関係者に国有企業が実際の市価の6分の1の価格で払い下げられたなど、
市場メカニズムを無視した強権的な経済運営が行われていた、とのことを明らかにしました。
メチアル政権時代には、外国から借金を重ねて高速道路の建設を急速に進めたのですが、おかげで国庫は
98年前半にはカラの状態で新政権に引き渡されたといいます。大学の運営費がまかなえなくて、休校にしようかという
議論がされたほどの深刻さ。新政権が慌てて予算の流用を国会に図り、資金繰りをなんとかつけてことなきを得ましたが、
資金繰りはできたものの、国家予算の財政赤字はひどい状態だし、貿易バランスも大幅な赤字状態でした。
為替レートの調整で、1時期は1コルナ=4円だったものが、最近は1コルナ=3円を切っている状態です。この調整で
貿易バランスはなんとかなるかもしれませんが、経済成長率の方は、98年第四四半期が0.5%と一気に停滞状況に
突入しそうな勢いです。財政立て直しのために、公共事業はストップされ、建設生産高は前年同期比でマイナス20%
を下回る勢い。公共料金は次々に値上げされています。
一方、明るい話題では、メチアル政権がきわめて民族資本保護的な政策をとっていたのに対して、ズリンダ政権は
外資導入の重要性をきちんと認識し、とりあえず4月から投資インセンティブ措置が導入されました。5年間の法人税
免除など、近隣諸国の制度を良く研究して作っただけに魅力的な内容となっています。
ところが、投資にあたって伏兵となりそうなのが、法制度の整備。スロヴァキアは新しく成立した国家だけあって、なかなか
国家公務員に優秀な人材が少ない。いってみれば、チェコスロヴァキア時代にはみんな優秀な人物がプラハに出ていって
しまっていたわけです。分離・独立するときに戻らなかった人も多い。そんなわけで、公務員の人材という点では、スロヴァキア
はチェコより随分落ちます。結果として、法律の整備作業が遅れ勝ち。
ジュリンダ政権はそのことを良く認識していて、破産法の整備など、資本主義の基盤となる法整備が急務であることを
良く言及しています。また、すでにスロヴァキアに投資している外国資本から意見を聞く会議をもったりして、何をすべきか
という点について聞く耳をもっている。この点について、国際社会から技術協力などの形で手を差し延べることが必要だと
思います。
チェコはレベルが高いだけにプライドも高く、必要な改革に踏み出せないでいる印象が強いのに対して、スロヴァキアは
自分達の水準が低いことをよく認識しており、改革の必要性も良くわかっています。問題はその改革を実行する人材に
あり、そこをどうクリアするかが最大の急務でしょう。