8月21日

   American League 

CHICAGO WHITE SOX VS BOSTON REDSOX

シカゴ・ホワイトソックス              ボストン・レッドソックス

U.S. Cellular Field  Chicago , IL


 朝、目覚めると、昨夜の頭痛はすっかり消えていた。薬のお陰か、旅行中で一番熟睡出来た気がした。元気になったところで、無性にタバコが吸いたくなった。禁煙ルームなので、1人で外へ出る。時刻は7時半。ホテルの玄関先では、これから出発する客の車に、ベルボーイが急いで荷物を積込む。もっと大きなホテルならロータリーでもあるのだろうが、道幅もそれほど広くないので大変そうだ。部屋に戻ると、妻が朝食の用意をしていた。昨日ドゥで残したピザを温めて、パンとマフィンとコーヒーで朝食。

 9時過ぎにノアさんに電話をする。昨夜はアレサ・フランクリンの野外コンサートに出かけていたそうだ。滞在中もう一度会って食事でもしようと言う事になり、今日明日の予定を伝え、確認の為、夕方また連絡を取る事にした。

 今日の試合開始は12時5分と早い。球場での飲食は大半が現金商売なので、行く前に両替しておきたい。フロントでT/Cは現金にしてくれたが、何故か?日本円は両替出来ないと言うので、銀行の場所を聞きホテルを出た。

 ミシガン通りMichigan Av.は1ブロック東なので歩いてすぐだ。時間が早いので天下のマグニフィセント・マイルMagnificent Mileも人通りは少ない。教わったバンク・ワンBank Oneから、客らしき女性が出てくるのが見えた。しかし、私達がドアを開けようとすると、鍵が閉まっていて入れない。ガラス扉の向こうにはATMコーナーがある。「さっきの人はカードで入ったのでは?」と妻がドアのダイヤルキーを指した。「土曜だから営業はしないのか?」と、ミシガン通りを南に進むと、グランド通りGrand Avの手前にシティ・バンクCiti Bankがあった。しかし、入口にいたオジサンは、ガラス戸をガタガタやっていたが入れず、ブツブツ言って立ち去った。「こっちも休みか...」と思ったが、妻が「まだ営業時間前なのかも?」と時計を見せた。もうすぐ10時になる。

 もう一度バンク・ワンに戻るとドアが開いていて、既に窓口には4〜5人が並んでいた。前の女性が我侭を言って粘っていた(取引は駄目だったようで、彼女は捨て台詞を吐いて帰った)ので、15分も並んだが、ここでも円の両替は出来ないと言う。しかし、「裏のアメックスAmerican Expressなら出来るわよ」と教えてもらい、急いで行ってみる。こちらはすぐに応じてくれたが、手数料(3ドル)が高いので両替は2000円だけに留める。

 駅に行くと、今日もレッドソックスファンがチラホラ。電車の中で、1人の青年が「チケットあるか?」と周りの人に聞いている。ダフ屋かな?と思い「私は持ってるけど、値段だけ教えて」と聞いてみると、彼は「友人が来られなくなった分だから、定価で良いんだ」と4枚のチケットを見せた。Boxと書いてあり、値段からして良い席なのは間違い無い。「えーーー!」当然、私達が持ってる現金で買える訳も無く、球場での両替も難しいだろう。「こんな事もあるんだなぁ」とタイミングの悪さを呪った。

 球場に着いたのは10時50分。予定よりも少し遅くなったが、先着10000名限定のエステバン・ロアイザEsteban Loaizaのボブルヘッド人形は無事ゲットした。私達が入場したゲートには、まだ段ボール箱(30〜50個入り?)2つ弱ほど残っていたが、他のゲートから来る人は持ってない人もいたので、結構ギリギリだったようだ。プロモーション予定日を確認すると、Wソックスのボブルヘッド人形を配る日は、年に一度だけとかなりシブチンなので、今日来られたのはラッキーなのだが、ロアイザ本人は先月末ヤンキースにトレードされて、今はチームにいないのだから、皮肉なものだ。

 外側の広いスロープを上がって行くと、シカゴの街並みが良く見えた。他の客も立ち止まり写真を撮っている人が多い。それにしても風が肌寒い。Tシャツだけで来てしまったのは失敗だったか。今日はアッパーレベルでの観戦なので、まだまだ上がらねば。

スタンドに出ると、スコアボードを含めた大きな景色が広がった。遠くにミシガン湖も見える。試合は見え難いのだろうが、風景を眺めるには二階席の方が良い、などと慰めを言いながら1塁側の階段を上がる。まだ上がる。通路には近いが、もう後ろから3列目だ。日陰だからとても寒い「本当に8月なのかよ」しかも、昼間なのに。

 座席にまだ余裕があるうちに一回りして写真を撮る。2階席はポールからポールの内野部分だけで一周する事は出来ない。名物の風車も、目線の高さで見るととても大きい。

 2階席でこれほど上の方だと、グランドから遠過ぎて、試合前の緊張感はあまり伝わってこない。ボストンの先発はアローヨBronson Arroyo。彼には悪いが、ビッグ・ネームが揃うボストン先発陣の中では一番格下。そして、Wソックスの先発スチュワートJoseh Stewartは全く聞き覚えの無い名前。後で調べると、昨年5試合に登板しただけで、今期はこの日が初登板の投手だった。両先発だけを見たら、見る側としては外れのカードなのだろう。後は接戦になって高津が出る展開になる事を願うしかない。

 ボストンは初回にラミレスManny Ramirezが連夜の爆発で3点を先制。1塁側は日陰のせいか?かなり空席が目立つ。同じ2階席でも暖かい3塁側に皆かたまっているのだろうか。

 また一方的にやられるのだろうか?と思ったが、今日はWソックスもすぐに反撃、コネルコPaul Konerkoの2ランが飛び出した。しかし、2回表またもラミレスにタイムリーを打たれて5-2。ここまで見て、あまりの寒さに一時席を離れることにした。はじめは3塁側に移動しようと思ったが、コンコースに出ると、多くの人が日向ぼっこをしていたので、私達もその一角に避難。上ってきた広い通路の最上部は、日当たりが良く、それに広い。日向と日陰では驚くほど過ごし易さが違う。

 寒いスタンドには当分戻りたくなかったので、しばらくその場所にいたが、その間コンコースの店も一通り覗いてみた。1階とは違い、特に変わった店舗は無く、グッズとフードの店が何軒かあるくらい。スタンド方向の壁一面には、歴代のWソックスの選手たちがプレーしている大型写真が。あのシューレス・ジョー"Shoeless" Joe Jacksonの時代から、アプリングLuke Appling、フィスクCarlton Fisk、トーマスFrank Thomasと細かく年代毎に並んでいて、1塁側から3塁側、壁の端から端まで続いている。全く初めて見る写真も多く、赤が基調のユニホームを着ていた時代もあったとは正直ビックリした。

 コンコースに出てくる人は徐々に増えて、唯一あるアトラクション、ピッチングのスピード競争のコーナーは列が出来るほどの人気。70マイルを投げる女性も登場して盛り上がっていた。私達は、それを見ながら、日当たりの良い壁際に陣取って、焼きタマネギのホットドッグ(美味い)、ソーセージなどを食べたりしていたが、途中から人が増えてきて居心地が悪くなっていった。野球なんか全く興味無さそうな、いかにも観光客っぽいアメリカ人も結構多い。スタンドへの通路からスコアボードを覗くと、イニングは5回で8-5でボストンがリードしていた。

 試合を見ないでコンコースにいるのも飽きてきた。2階ではやる事も、見る事も限られるので下に行こうと、スロープを下りる。中間層の入口には「ここは300番台のチケットですよ」(2階は500番台)と言う表示があり、係がチケットチェックも行っていた。「この券ではロウアーレベルには入れないだろう」と思いつつも、更に下へ。やはり、1階の入口では警備員風の制服の係が、やはり入場者のチケットを確認し「ここは100番台だけだ」と通さないようにしていた。「どうせ駄目だろう」と思ったが、警備員の前に行くと、彼は「その傘は何だ?」と聞いてきた。「あ、これ?」と、ミニガサを広げて見せてやり、「高津の応援に使うんだよ。これはヤクルト・スワローズと言う日本のチームだよ」と帽子を指すと、彼は傘を手に取り、笑いながら「そうか、そうか」と感心していた。笑うとデブ屋のマッスルそっくり。そして、チケットも見ないで「ほら、通って良いよ」と通してくれた。ミニガサの御利益はスゴい。

 私達が1階コンコースに出ると、丁度、バリテックJason Varitekがホームランを打って、ベンチに帰るところだった。歓声も直に体に響くような感じで、通路とは言え1階にいる方が雰囲気を味わえる。熱気のせいだろうか、こちらだと日陰でもそれほど寒さを感じない。通路での7thイニング・ストレッチも悪くない。

 1階は超満員なので、空席を探すのは諦め、主にゲームは通路で立って見ていたが、時々は移動して外野方面へも行ってみた。スコアボード下にあるシャワーコーナーでは、こんな陽気だと言うのに、子供が水浴びをして遊んでいる。大人でも上半身だけシャワーを浴びている人は結構いるようだ。そのすぐ隣(右中間あたり)にあるグッズ店に入ると「Cubs Suck」とカブスを皮肉ったTシャツを着ている中学生くらいの男の子がいたので、思わず「これ、どこに売ってるの?」と尋ねると、彼はビックリした顔で「外の車だよ」。球場の前で車で商売してる店のようだ。彼はここでは高津のTシャツを買って出て行った。

 Cubs Suckシャツは昨日も着てる人がいたが、青地で一見カブスの普通のTシャツっぽいのだが、微妙にロゴも変えてあってイイ味出してるのだ。この手のグッズはレッドソックスとヤンキースの間ではよく見かけるが、Wソックスから見たカブスと言うのも、ある意味カタキなのかもしれない。カブスも好きなチームだが、面白いので出来れば手に入れたい。

 Wソックスは7回、8回と1点づつを返し、9回もランナーを出していたが、最後はクローザーのフォークKeith Foulkeに抑えこまれ試合終了。高津は今日も出番無し。ボストン10-7シカゴ 勝ち投手アローヨ 負けスチュワート セーブ フォーク ラミレス4打数3安打5打点 バリテック5打数3安打2打点 カプラーGabe Kapler 4打数2安打1打点(以上ボストン) コネルコ4打数1安打2打点 ハリスWillie Harris 5打数2安打 ロワンドAaron Rowand 4打数3安打 グロードRoss Gload 5打数2安打2打点(以上シカゴW)

 終了後の混雑の中、私達は場外の売店に急いだ。しかし、カブス・サックTシャツは見当たらない。今日は道路の向こうにも、シートを広げて商売してる業者がいたので見に行ったが、ここにも無い。沿道にバッグ1つ置いて商売してる業者の中に、似ているシャツを持っている人もいたが、デザインが微妙に違う。本物?は背中にも大きく「Cubs Suck!」と書かれているのだ。仕方ないので格安で売られていたコッチBilly Koch(高津からクローザーの座を奪われ放出される)の背番号T(10ドル)だけを買って駅へ向かった。駅は大混雑で道路まで人が溢れていた。揉み合い押し合い、改札を抜けるまでに10分くらいかかった。

 超満員だった電車も、ループを過ぎグランド駅に付く頃は、かなり楽になった。タバコを買う為に、前にも寄ったトーキョー・ホテル横のキャッシュ・ショップへ入る。しかし店内は微妙に改装されていて、10ドル以上ならカードも使えると言う事なので、水とファンタも一緒に買った。現金はなるべく減らしたくない。店主らしき髭のオジサンが名刺をくれたが「Ben'z Wine&Spirits Liquor is my business.」と書いてあるので店自体変わったのか?前は酒屋という感じではなかったが。

 部屋に戻る前に、ホテルと同じ並びにあるハーレー・ダビッドソンHarley Davidson Chicagoへ寄った。紹介するまでも無く、世界的なバイクメーカーだが、1階は主にグッズを販売していて、革ジャン、スタジャン、Tシャツ、ステッカーなど、ロゴ入りの渋くてカッコイイ商品が何十種類も並んでいる。店内も広くてとても綺麗で、比較的値段も高めだ。ミシガン湖とダウンタウンが描かれたシカゴ店だけのオリジナルTシャツもあり、妹へのお土産にタンクトップを買った。しかし、カードはアメックスしか使えないそうで、残り少ないT/Cで支払う。

 5時過ぎに部屋に戻ると、電話のランプが点滅していた。「留守電かな?」と思ったが、使い方が分からないので、テレビで「インフォメーションチャンネル」を見る。しかし、項目に「支払い欄」があったので見てみると、朝使った電話料金が想像以上に高い事に気付く。メッセージはノアさんからで「またかけるとの事」次にこちらからかける時は公衆電話にしなくては...

 少し休んでから買物に出かける。まず、オハイオ通りOhio St沿いにあるESPNゾーンへ入る。ESPNは有名なスポーツ専門チャンネルで、野球や他のスポーツの実況中継は勿論、スポーツニュースを見る時も、たいていこのチャンネルだ。毎日放送してる「スポーツセンター」は、一昔前の「プロ野球ニュース」を一回り大きくしたような番組で、日本でもCSなどで視聴出来るので、私も妻も番組のファンだ。

1,2階吹き抜けの店内はとても賑やかで、ゲームスペースは列が出来るほど大盛況。中央の放送ブースは幾つものモニタや機械が並んでいた。隣のグッズコーナーは比較的落着いた感じで、カブス、Wソックス、ブルズ(NBA)、ベアーズ(NFL)のグッズ中心に、ESPNオリジナルとして展示販売されていたが、値段は高めだ。ここは見学のみで店を出た。

 まだ、お土産も自分達のものも欲しいので、少し歩いてラサール通りLaSalle Stのスポーツ・マートSportsmartへ行く。途中、ロックンロール.マクドナルドRock'n Roll McDonaldsの前を通ったが、建物は取り壊されていて、敷地内は工事中だった。新築するのだろうか?

 スポーツ・マートは前回の旅行で来た時と、店内は殆ど変わってなかった。野球関連の物は1階に集中している。一応、2階3階も見に行くが、やはり1階だけで十分だった。カブスやWソックスのグッズは、球場内のショップよりは当然安いのだが、今回は露天で売られていたものも大分見てきたので、そこと比べると決して買得とまでは思えない。値引きされたロアイザの背番号T(17ドル)だけを買った。露天よりも少々高かったが、あちらには無かったので仕方ない。本来なら現在在籍している選手を買うべきなのだろうが、元々Wソックスは背番号Tの種類が少ないようで、「日本で買えない」と言う前提だと、このくらいの選択肢しかないのだ。

 帰り道にあったジュエル・オスコJewel-Oscoと言うスーパーマーケットで買出し。市街地にある割には結構大きな店で、品揃えも良い。ありがたい事にカップラーメンまで売っていた。マルちゃん製だが、シュリンプ味、チキン味と言うことでアメリカ仕様なのか。それから旅行者の事を考えてか?果物はバラ売りしてたので、バナナとプラムを買う。ハムと惣菜もグラム売りなので、少しづつでもOKだ。それから、ピーナツとヒマワリの種は、袋にWソックスとカブスのロゴが入っている物があったので、土産用に数個買った。レジの女性は、まず名札を指して「私は○○です」と自己紹介して微笑む。店の方針なのか?そう言う人なのか?なかなか良い接客だ。

 ホテルには7時前に戻った。リグレーフィールドのTシャツを着ている私(妻はガルシアパーラT)に、エレベーターで「今日勝ったか?」と見知らぬ人が尋ねてくる。「カブスは今いないよ」と言いたくなったが、「負けたよ」(Wソックスが)と一応答えておく。道を歩いている時にも同じ事を聞いてくる人がいた。

 部屋に戻ると、またノアさんからメッセージが入っていた。窓を開けると、外からサックスの心地よい音色が聞こえてきた。1つ向こうの通りにあるタマネギ屋根の建物辺りから聞こえてくるようだ。今夜はブルースのライブに行くので、その前にパンとサラダで腹ごしらえ。

 8時になり部屋を出る。出かける前にノアさんに電話しようと、ホテルの周りで公衆電話を探す。しかし、すぐには見付からないのでフロントで聞くと、「エレベーター横の階段を下りて」と言われる。地下には公衆電話だけのスペースがあった。電話するには静かで良いが、これじゃ誰にも分からないのでは?ノアさんは明日の11時に迎えに来てくれる事になった。

 オンタリオ通りOntario Stを西に向かうと、やはりタマネギ屋根の前で、サックスを吹いてる黒人青年がいた。立ち止まって聴いている人も数人いる。徐々に深くなっていく闇に響く音色。ナイトライフに出かけるのには持って来いの伴奏だった。近くにはブルースの聴ける店が何軒かあるが、スケジュールを確認して、前回同様ブルー・シカゴBlue Chicagoに行く事に決めていた。やはり地元中心に活動している女性ボーカルに、本場の味を聴かせてもらいたい。偶々なのだろうが他の店はアコースティックやディスコショーの予定だった。

 ブルー・シカゴの前では、太い両腕にタトゥーを入れた男が立っていた。チャージは先払いだと言うことを思い出す。これは入場料みたいなものだ。「カードは使えるか?」と尋ねると「すまんね。現金だけだ」見かけによらず声は優しい。7ドル×2人分で14ドル取られる。また現金が無くなった。開演まで30分くらいあるので、店内はまだ疎ら。奥のステージから2つ目のテーブルに座りビールを注文。私はパブスト、妻はコロナ、小瓶をラッパ飲みするのが定番のようだ。助かる事に、こちらではカードでOKだった。その代わりウェイトレスにはチップをあげる必要がある。

 10分前になると、ミュージシャン達が1人2人とステージに上がり、楽器やミキサーのチューニングをはじめた。奥には楽屋があるのだろうか?出入りが頻繁になり、舞台周辺は少しだけ慌しくなった。その横で、すごく太ったオバさんが、ゆっくりと歩いている。「この人がサラ?まさかなぁ」でも、関係者なのかな?誰かのお母さんかも?オバさんは足が悪いようで(アメリカ人によくいる、太り過ぎで膝を痛めてる)、疲れてしまったのか空いてる椅子に座ってしまった。

 9時を過ぎて演奏が始まった。今日の出演者はビッグ・タイム・サラ&BTSエクスプレスBig Time Sarah & BTS Express。BTSと言うのはビッグ・タイム・サラの事だろうから自分の専属バンドを持っているという事か。でも、ステージにいるのは男性だけで、ギターの男が歌っている。2人のギター担当が交互に2〜3曲歌って、そのうちの1人が客席に向かって「みんな!そろそろサラの歌が聴きたいか!?」と尋ねる。まだ、満杯じゃないので客席は小さく「イエー」。彼はもう一度「サラの歌が聴きたいか?!」、今度はやや大きめに「イェーイ!」ドリフの長さんみたいだが、私達も勿論叫んだ。

 「えっ、やっぱりこの人なの?」横のテーブルに座っていた巨漢のオバサンが、ステージに上がり、歌い始めた。元々は小柄な人なのだろう、頭だけすごく小さい。なんとなく小錦を小さくしたような感じだ。顔も少し似ている。でも、歌はとても素晴らしかった。渋くて味のある声だ。彼女はやはり長く立っていられないようで、ステージには彼女が座る椅子が置いてある。

 来場者はどんどん増えてきた。明日が休日と言う事もあるのだろうが、音楽ファンと言うより暇つぶしの観光客も多いのか?ステージを全く見ないで、大声でお喋りしているグループもいる。「誰か注意すれば良いのに」と思ったが、他の客はちょっと睨み付けるくらいで、店員も知らん顔。サラも平気な顔で歌い続けている。しかし、次の曲に行く前に、サラが店内にいる女性客数人をピックアップすると、彼女たちは少し恥ずかしそうにしながらステージに歩み寄った。女子大生くらいの若い人が2人と、夫婦で来ていた40代くらいの背の高い奥さん。それと20代後半のウェイトレスだ。サラの指示で、みな伴奏に合わせてヒップをフリフリ。最初はみな恥ずかしがっていたが、すぐに音楽に合わせてノリノリでフリフリしてた。男性客は興味津々で見ていたが、お喋りグループもこの時はステージに釘付けになった。そして、最後にサラが「手本を見せるわよ」と言う感じで、立ち上がりクルっと後ろを向くと、巨大なヒップを大きく振りはじめた。すごいスピードで縦に横に前後に、他の人の動きとは比べ物にならない。足が悪いとは思えない動きだ。盛上がりの中、次の曲はトゥッティ・フルッティーTutti Fruttiと誰もが知っているナンバーで、更に観客を引き付ける。勿論、フリフリも加えながら。さすが、噂のショーマンシップだ。

 店は満杯近くなってきていて、4人掛けの私達のテーブルもウェイトレスに相席を頼まれた。勿論「良いですよ」と承諾すると、お洒落な黒人のカップルが席に着いた。最初のステージが終了すると、クリス・タッカー似の彼の方が話しかけてきた。「こう言う音楽好きなのかい?」と聞かれたので、「好きだよ。生で聴くことは滅多に無いけど。旅行者なんだ」と言うと「僕達もそうだよ。クリーブランドから来たんだ」と言うので、取り合えず知ってる事を言ってみようと「クリーブランドに住んでるの?インディアンズだね」とバットで打つポーズをすると、2人とも笑って「そうそう、インディアンズだ」と頷く。「タダノ(多田野数人)と言う日本人投手を知ってるかい?」と尋ねると、「いや、残念ながら知らないなぁ」と言う答え。黒人にしては、と言うと失礼だが、話し方もとても落着いていて育ちが良さそうに感じた。

 ウェイトレスが来て私達の空瓶を片付けながら「お代わりは?」と聞いてきた。2杯飲んだが、昨日の事もあるし、「もういらない」と答える。妻ももう飲みたくないとの事。カウンター横では立ち見客も出てきたので、「悪いから帰ろうか」言うと「飲まないと居づらいしね」と妻。帰る前にサラと写真を撮ろうと、彼女のテーブルに。サラは「日本から?アリガトアリガト」テーブルに置いてあるCDは持っている物だったので、「他のは無いの?」と聞くと、「店で買ってよ。ブルー・シカゴのショップにも置いてるから」とオン・クラーク店の方角を指した。体系や顔つきから見て、もう現役としては高齢なのだろう、と思っていたが、後日調べるとまだ50才なのだそうだ。健康に注意して、まだまだパワフルなステージを続けて欲しいものだ。

 帰る途中、ハードロック・カフェの向かいの雑貨屋に寄る。絵葉書など土産用の小物でも買おうと思ったのだが、シカゴをイメージしたTシャツ(3枚10ドル)や帽子(6ドル)まで安く売ってたので思わず買う。お土産には最適だ。

 時刻は11時になろうとしていたが、通行人も多く街はまだまだ賑やかだ。女性同士、子供連れも結構見られるので、危険な雰囲気は全く無かった。観光用馬車もまだ走っている。馬も遅くまで大変だ。


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