6月29日(2)

OLYMPIC NATIONAL PARK


 道に迷ったとは思わなかったが、気持ちは焦る。早くビジターセンターに戻りたい。そうじゃなくても時間が無いのに。「分からないけど、もう少し先へ進もう」と、森へ入る。人が歩ける通路にはなっているので、トレイルからは外れてはないだろう。少し行くと傍らの巨木に、説明ボードが表示されていたので少し「ホッ」とする。「客が来る証拠だよ」と、妻に言いながら自分でも納得。

 他の人とすれ違うようになったのは、それからまだ10分くらい歩いてからだった。ようやく元の場所に戻って来た。所要時間は約50分。感覚的には「殿堂」の倍くらいに感じた。センター横のトレイル地図を見ると、ネイチャー・トレイルの方が長いのは一目瞭然。早く見てしまおうと、案内をよく見ないで出発したのが裏目だった。しかし、今となると、せっかく遠くまで来たのだから、長い方も見ておいてよかった気もする。スゴいポイントも確かにあった。赤黒いアラスカトウヒSitka Spruceなど、巨木と言う点では「殿堂」よりも迫力だった。

 ビジターセンター内を少し見学してから、駐車場横の切株の椅子に座り昼食に。奥にはピクニック・エリアもあったが、蚊が多いのでこちらを選択。虫除けスプレーが効いて、歩いてる時は刺される事はなかったが、パンを食べてると他の虫も寄ってくる。素早くジャムを塗ったりポテサラを挟んだり、食べるのも虫を払いながら速攻で。自然の中で長閑に、なんてのとは程遠いランチになってしまった。

 午後になってもセンターには続々と車が訪れる。駐車場のアチコチで、体育座りで頭を伏せてる子供がいる。やはり遠いのと、カーブの連続で、車酔いになる子供も少なくないようだ。虫との戦いを制し、パン3枚づつを食べた我々は、2時チョイ過ぎにビジターセンターを後にした。

 帰り道は、センターから主要ポイントまでの距離を確認してきたので、参考にしてもらいたい。10分弱で巨大切株のポイント(センターから5.5マイル)。オタク系のバイク野郎が立ち話してるので写真撮るのに邪魔。今頃、やって来たのは日本人グループか?しかも、あんな格好で。エントランス通過(10.7マイル)、お土産PEAK6(13.5マイル)、101号合流(18マイル)、空は晴れてるが雲が多い。森を抜けると、エアコン無しだと暑くなってきた。2時55分、フォークス着(31マイル)

 フォークスはそのまま通過して、原っぱの街道へ。幸い前に速い車が1台いたので、その後に付いて常に10〜15マイルオーバーで走れ、3時半前にレイク・クレセントに着いた。時間が無いので、長居するつもりは無いが、有名なポイントなので写真くらい撮りたい。湖沿いのポイントは数箇所あるが、復路は山側を走るので停まり難い。カーブも多いので、湖側の小さなPに停めるのは対向車に注意が必要だ。一番広いパーキングは湖の中間くらいにあり、ここは両側に停車エリアがある。エリアは往路(湖側)に7〜8箇所、山側(復路)には2箇所だけだったと思う。尚、湖沿いはリミット35〜45マイル。山側には小さな滝も見えた。

 湖を過ぎると、ポート・エンジェルスまではまた良い道。途中、公園内の他のポイントへの看板も幾つかあり、料金も既にホーレインで払ってるので、チケットを見せれば入れるが、時間が無いので先を急ぐ。オリンピック公園の総面積は埼玉県とほぼ同じで、とても1日で回り切れるものではない。海岸地域、温帯雨林、山岳地帯と、景色や気候まで様々な顔を持っているので、本当なら2〜3日じっくり過ごしたい所だ(野球が無いのがネックだが)。

 ポートエンジェルスには4時前に到着。市街地に入る前の丘からは海沿いの町が一望できた。空は晴れてるが風は冷たい。今日は野球観戦の予定は無いが、明日はシアトルに早目に戻りたいので、シアトル行きのフェリー乗場があるブレマートンBremertonの近くで一泊したい。だとしたら、回れるポイントはあと一箇所くらいだ。ハリケーン・リッジHurricane Ridgeか、スクイムの砂州(公園外)かどっちへ行くか迷ったが、山の景色はだいぶ見てきたので海を選択した。体力的、時間的な事を考えても山登りはキツイだろう。その前にまず今夜の宿を確保しなくては。

 ポートエンジェルスの市街地を通ってる時に、「今、AAAがあったよ」と妻。運転中の私は「本当?ちょっと、紙を見てよ」と、印刷してきたAAA所持地のリストを確認させた。「やっぱり、この町には無いね」と妻。AAAのロゴが入ってる(推薦とか言う意味)ホテル等もあるので、見間違いだったようだ。

 4時半、スクイムの手前で給油。公衆電話もあったので、レジで両替してもらうが、オバサンに「どこまでかけるの?」と聞かれ「ブレマートン辺り」と言うと、「それじゃ足りないから、もう少し崩しなさい」とクオーター(25セント硬貨)を12枚も。自分でも調べてきたホテルと、AAAで貰った旅行ガイドに載っていたホテルに直接電話するが、繋がると何故か切れてしまう。「公衆電話ではダメなのかなぁ?」と思ったが、5〜6回目でようやく繋がった。しかし、電話の使用法をオバサンに聞きに行こうと思っていた直前で、適当にかけていたので、どのホテルにかけたか名前が出てこない。焦る。それでも、相手が親切だったのか何とか予約出来た。ブレマートン手前の、シルバーデ−ルSilverdaleのホテルだ。「8時ごろ行きます」と言うと「どこにいるの?」と聞かれたので「ポートエンジェルス」と答えると、「まあ遠くから」と言われた。1時間くらいで行けると思っていたが、想像よりも遠いのか?ちょっと不安。

 妻と運転を交代し、スタンドの裏から農道を通り、スクイム市街へ。大して下調べもしてなかったが、とにかく海沿いに出たい。大まかな地図を頼りに小さな市街地からスクイム-ダンジネス線Sequim-Dungeness Wayを左折。公園と一緒の名前だからなんとかなるだろう。景色は草原と畑になった。たまに牧場もある。

 北へ北へと進んだが、交差点(建物は何も無い、草原の中)で公園へ向かう標識が。海とは逆方向になっていたので、無視して海側へ行ってしまう。別荘地なのか?わずかな集落があり、道の反対側は断崖絶壁、眼下には澄んだ海が広がっていた。行きの飛行機の窓からも見えた、砂の半島が遠くまで伸びている。長さとしては全米一の砂州だそうだ。路肩に車を停め写真を撮ってると、散歩中の中年夫婦が電柱に鷹がいるのを教えてくれた。

 崖の下は砂浜だったが、下りるのは大変そうだ。砂州を真近で見たいので、ちゃんとしたルートから、ダンジネス公園Dungeness State Parkを目指す。グルッと丘を回されるように公園入口へ。中へ入っても駐車場までクネクネと徐行で進む。途中、自転車の少女2人組を追い抜く。パーキング着5時半過ぎ。高い木に覆われているので海は全く見えない。時間が遅いからか?無人の案内小屋で園内マップを貰い、海まで続くトレイルを歩く。ホーレインとは全く違う種類の森だが、こちらも立派な森だった。

 この地域はダンジネス国立自然保護区域Dungeness National Wildlife Refugeとなっていて、コクガンBlack Brant、ハクトウワシBald Eagleなど多くの野生の鳥や、アザラシ、エルク(へらじか)Elkなどの哺乳類も生息しているそうだ。7〜800メートルほど下り坂を歩いたが、帰りが怖い。途中、さっきの自転車の少女達に追い抜かれる。やがて木々の間から海が見えてきた。森を出る手前で小さな展望台があり、双眼鏡も1つだけ置いてあった。なんと無料。砂州と先端の灯台は良く見えたが、沖は霞んでるので、対岸のビクトリアVictoriaは山並がなんとか分かる程度。展望台はそのすぐ下にもあった。

 崖沿いの坂道を下りて砂浜へ。さっきの少女達は服のまま海へ入って遊んでいた。砂州の付根は幅100メートルくらいはあるだろうか?中央に流木が積み重なって、それもズーっと続いていた。遥か沖まで伸びた砂州は、遠くに10人以上が歩いてるのが確認できた。灯台までは片道5マイルもあり、徒歩では3時間ゆっくりかかるそうだ。陽はまだ高いがもう6時過ぎだ。もっとゆっくりしたかったが20分ほどで引き返す。

 帰りは家族連れと一緒に坂を上がったが、太ったお母さんが大変そうだったので、森に入る前に引き離し、森の中ではまた私達だけ。「ガサガサ!」「何かいる!!?」鹿か?エルクか?はたまた熊か?期待と緊張が交差したが、次の瞬間「な〜んだ」現れたのは小さなシマリス。アメリカでリスは何度も見ているが、シマリスは初めてだったかな?途中、隣の乗馬コースの馬も見られた。

 やはり、帰りは結構な上りだった。喉が渇いたので自販機でジュースを買って出発。再び私の運転。スクイムの農道からオリンピックの山々が良く見えたが、山頂は黒い雲がかかっている。やはりハリケーンリッジはやめて正解。山の位置で東西南北くらいは分かるので、地図も見ないで101号まで出たが、もっと東の方に出るつもりだったのに、さっきのスタンドよりも西に出てしまった。時刻は7時を過ぎた。1時間でシルバーデ−ルまで行けるだろうか。

 7時25分、分岐で州道104号へ。予想してたよりも山道だ。大部分は2車線で、登坂車線もあったので、乗用車や大型トレーラーを何台も追い抜く。でも、フッド・カナル・ブリッジHood Canal Bridgeの手前で写真を撮っていたら、殆ど全車に追い抜かれる。橋は思ったよりも古かったが、やはりこれだけの長さの橋を渡るのは壮観だ。水面スレスレを通ってるので目線は低いが、島や入江の景色も素晴らしかった。

 橋を渡りフッド運河Hood Canalを越えると、そこから先はキットサップ半島Kitsap Peninsula。大陸側とオリンピック半島に挟まれて、とても複雑に入組んだ地形をしている。すぐに州道3号になり右折。海沿いの景色が一変また森の中に。下り坂に入ったと思ったら、すぐに工事渋滞になった。なかなか動かなかったが、こんな時間になっても一生懸命働く、アメリカ人の意外な一面を見ることが出来た。停車した横の家は「Dog」の看板があり、入口に大きな犬小屋型のポスト。ブリーダー?単なる犬好き?渋滞はかなり続いていて、工事は2〜3箇所で行われていた。渋滞としては、反対車線の方がより長かったように思う。

 3号は途中から、高架のハイウェイになりスピードも出せるようになった。8時を過ぎてしまったが、ようやくシルバーデールの手前までやってきた。ホテルへは州道303号で下りても行けそうだったが、3号から直接行く事を選択。しかし、地図の書き方が悪く、303号と一緒の方面に行かなくてはシルバーデールへは行けなかったようだ。仕方ないので次のニューベリーヒル通りNewberry Hill Rdで下りて、逆方向に乗りなおす。一つ目で下りて大通りへ出ると、予約したシマロン・モーター・インCimarron Motor Innsの看板が見えた。大体の場所は分かっていたが、思ってたよりも賑やかな市街地だったので、迷ったら探すのは大変だったかもしれない。

 玄関横に車を停めて中へ。フロントではお婆さんのスタッフと、何故この人が?と思わせるような、いかにも田舎の爺さんがいた。お婆さんは、早く手続きを済ませたがってるようで、T/Cでの支払いは不可。爺さんはコーヒーを飲みながら、「ガハハハハ!」と笑い何か言っていたが、全く聞き取れなかった。部屋は2階の一番奥で、裏口からの方が近い。

 今夜は野球を見に行く予定は無いが、もし天候などの関係で、旅行の初期段階にオリンピック方面へ来ていたら、観戦したかもしれなかったチームの球場が近くにあるので、暗くなる前に見に行く事に。妻の運転で出発。バックリン・ヒル通りBucklin Hill Rdを東に向かうと、右手にはダイズ入江Dyes Inletが広がっている。地図で見ても湖のように大きい。その後、道を間違え、シルバーデール市街との間を何回か行ったり来たりするが、その間に妻はMt.レニアが見えたそうだ。私は見てないので「ホントぉ?見間違いじゃ?」と言ってみるが、妻は「絶対見た」と言っている。まあ、天気も良くなっていたし、位置的にも見える事は不思議ではないんだが…

 けっこう暗くなってきてたので、試合も無い球場周辺など、「誰もいなくて危険かなぁ」と、ちょっと思っていたが、近くまで行って林を抜けると、なんとナイター照明が明々と灯っていた。すぐ横の駐車場は8割くらい埋まっていた。球場の方へ歩いていくと、試合が終わったばかりなのか、歩いてくる人がたくさんいた。グランドでは外野に輪が出来ていて、ワインレッドのユニホームの選手達が監督の訓示を聞いていた。ネットで見たブルージャケッツのユニホームではないようだ。体つきも少し小さい。数少ない残ってる観客に「彼らは高校生ですか?」と尋ねると「そうです。14歳から17歳までのプレーヤーです」と教えてくれた。どうやら、この人達は選手の親らしい。「ここは、キットサップ・ブルージャケッツのホーム・グランドですか?」と尋ねると、2人のお父さんは「そうだ」と嬉しそうに頷いた。

 今シーズンからウェストコースト・カレジエイト・リーグWest Coast Collegiate Baseball Leagueに、新たに加わったキットサップ・ブルージャケッツKitsap Bluejackets。公式サイトには「ブレマートンに野球が戻ってきた」と大きく書かれていた。この地域には、1940年代にブレマートン・ブルージャケッツBremerton Bluejacketsと言うノースウェスト・リーグ所属(当時はクラスB)のプロ球団があったそうだ。

 キットサップ・カウンティー・フェアグラウンズKitsap County Fairgroundsと言う、ロデオ会場なども入ってる運動公園の中に出来た新しい野球場は、椅子やカップホルダーも見た事がない新しいデザインの物で、清潔感があり現代的。周りにはホームプレート側を背中合わせに4つの野球場が配置されているが、使われてない他の3つも照明が灯っていた。リトル.リーグやソフトボールもさぞ盛んなのだろう。訓示はけっこう長く続いていたが、その間にマウンドを整備し始めたのは女の子だった。

 帰りにバックリン・ヒル沿いのアルバートサンズAlbertsons(スーパーマーケット)で、海苔巻きを買ってホテルに戻る。腹が減ってたので風呂の前に夕食。日本のスーパーで売ってるように、割り箸も醤油も付いていたが、カッパ巻きのキュウリはシャキシャキしない。海老ロールはチーズ、アボガド、変な色のトビッコ入り。まあ、地方のスーパーに海苔巻きがあるだけでも良しとしよう。風呂に入り12時就寝。


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