1 MIDIピアニストに関するQ&A
1 「MIDI」って何のことですか?
2 MIDIピアニストって、たくさんいるんですか?
3 機械を使って音楽的な表現なんかできるんですか?
4 あなた自身は自分の演奏を「すぐれた演奏」だと考えているのですか?
5 なぜ、ふつうのピアニストのように指で弾かないのですか?
6 なぜ、ショパンやリストでなくモーツァルトなどを弾くのですか?
7 MIDIピアニストが普通のピアニストよりすぐれている点がありますか?
8 MIDIピアニストの泣き所は何ですか?
9 ピアニストのかたがたのMIDIデータについてどう思いますか?
10 伴奏の演奏におけるMIDIピアニストの利点は何ですか?
1 MIDIって何のことですか?
Musical Instrument Digital Interface の略で、
日本では社団法人・音楽電子事業協会
が管理している、電子楽器のための通信規格です。
この規格にのっとって、
何番の音色の音で、どういう強さでどんな高さの音を鳴らすか、
また、いつ消すか・・・など、演奏に関する必要な命令を作り、
電子楽器に送りこんでやれば、電子楽器は命じられた通りの音を出すわけです。
ある曲を演奏するために、こうした命令を一連のものとしてまとめたものを、
「MIDIデータ」または「MIDIシーケンス」などと呼びます。
MIDIピアニストは、コンピュータを使って
MIDIシーケンスを作る作業を通じて
自分の演奏を制作します。
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2 MIDIピアニストって、たくさんいるんですか?
うーんと、よく知りません(笑)。
というのは冗談ですが、自分を「MIDIピアニストだ」と言っている人は
石田の他にはほとんどいないみたいです。 もっとも、 20年ほども前にMIDIの規格ができて以来、
この方法でピアノ音楽をつくった人は たくさんいましたし、今も趣味でやっている人はたくさんいます。
また、電子ピアノなどには、 必ずピアノ曲を演奏するためのMIDIシーケンスが入っていて、
デモ曲の演奏に用いられています。 誰かが「仕事として」そのMIDIシーケンスを作っているのです。
(おそらく電子ピアノを弾いての一発録りですが。)
ですが、今までのところ、
この方法で演奏する人でクラシック曲の「演奏家」として認められた人は
一人もいないのだと思います。
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3 機械を使って音楽的な表現なんかできるんですか?
「できる」と私は考えています。
MIDIによる演奏は、
弾く強さ・タイミング・持続の長さをまったく自在にコントロールできますし、
音色の問題についても無限の可能性を持っていますから、
鍵盤楽器の音楽に関する限り、
この演奏方法は、生楽器の演奏と
まったく同等の可能性を持っていると言ってよいのです。
したがって、生演奏の名演をしのぐような演奏を実現する可能性も
当然に持っています。
「機械的でない人間臭い演奏」をしたければ、 音のタイミングのずらしだろうが、テンポの微妙なゆれだろうが、
和音のばらけだろうが、まったく思い通りに実現できます。 ただ、いたずらに演奏を崩して
「人間臭さ」を追い求めてもしょうがないわけで、 音楽的により美しい表現のための
アクセント、リズム感、ダイナミクス、表現上必要なテンポのゆれ・・・ などを追求して行けば、
おのずと人間的かつ美しい演奏にたどり着くことになると私は考えています。
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4 あなた自身は自分の演奏を「すぐれた演奏」だと考えているのですか?
そう思っていないのに演奏を発表する音楽家がいるのでしょうか。
もちろん、他の多数のピアニストの皆さんの演奏にもそれぞれ美しさがあると思っていますし、また、聴いてくださったかたが私の演奏をどの程度に美しいと思ってくださるかどうか、どの程度によい演奏だと思っていただけるかどうかは、聴いてくださったかた自身が決めてくださればよいことです。その意味で、あなたにとっての価値は、あなたがお決めになるしかありません。
ただ、私は自分が「こう弾くのがよい」と思う演奏を制作して、発表しています。それだけです。
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5 なぜ、普通のピアニストのように指で弾かないのですか?
私は指ではうまく弾けないからです。というか、限界があるからです。
「こう弾きたい、こう鳴らしたい」というイメージはあっても、
現に指のコントロールが思うように行かなければ、
思うような演奏にはなりません。
ですから、普通のピアニストは、指の訓練のために膨大な時間を
費やさなければなりません。
MIDIピアニストは、自分の思う演奏を実現するための
技術的な問題はすべて機械にまかせることで
指の訓練をする時間をはぶき、
ひたすら自分の音楽性を磨くことに専念している音楽家なのです。
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6 なぜ、ショパンやリストでなくモーツァルトなどを弾くのですか?
まず、モーツァルトが最高の音楽だと思うから、いちばん弾きたいからです。
18世紀ごろの音楽が、自分の音楽性にもいちばん合っています。
また、モーツァルトのころのピアノは今のピアノと
音色や構造が非常に違っているため、
現代のピアノで演奏するのには、さまざまな問題点があります。
それらの問題点が、MIDIによる演奏ならば生ピアノよりも
むしろ乗り越えやすいので、
この方法で演奏する意義が大きい、ということもあります。
逆に言うと、ショパンやリストは、現代の生ピアノに向いている音楽です。
これらの作曲家の作品は、
MIDIによる演奏で「まずまずそれらしい演奏を作る」のは
非常に容易である反面、
すぐれた生ピアニストの演奏を越えるのは、
逆に非常に難しい種類の音楽だと私は考えています。
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7 MIDIピアニストが普通のピアニストよりすぐれている点がありますか?
あります。もちろん問題はMIDIピアニスト本人の資質になりますから、
一概には言えませんが、方法そのものが本来的に持っている利点は
たくさんあります。
最大の利点は、まず、
「演奏者が納得するまで演奏を磨き続けられる」ということ。
つまり、心残りになるような問題点がまったくなくなるまで、
演奏者はどの一つの音の鳴り方に至るまで、修正を加え、
自分が信じる完璧の演奏になるまで演奏を練り上げることができるのです。
つぎに、それと関連して、「集中力の持続が格段に容易であること」
があります。ピアノ曲を弾くという行為は、次から次へと非常に多くの音を
一人で弾かなければならないので、
演奏者は超人的な集中力を必要とします。
ことにモーツァルトのように、たった一つの音の弾きそこないでも
致命的な影響をおよぼす音楽では、
演奏者に求められる集中力は並大抵ではありません。
MIDIピアニストは、時間をかけて一つの演奏をていねいに作りますから、
集中力の持続という点で、格段に有利なのです。
最後に、やはり、「メカニックな意味での技術的制約がない」
ということが挙げられなければならないでしょう。
どんなに「こう弾きたい」と思っても、指で弾くのでは限界がある場合が
少なくありません。MIDIピアニストの場合は、「こう弾きたい」
と思った弾き方に至るのに、指の動きがついて行かない、
というような次元の問題は縁がありませんから、
その意味で、技術的制約を受けずに音楽演奏作りに専念できるのです。
おそらく、以上の三つが重要なものでしょう。
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8 MIDIピアニストの泣き所は何ですか?
イジワルな質問ですね。しかし、率直にお答えしましょう。
一口で言えば、使う楽器が「生ピアノとは違う」ということから来る、 さまざまな制約があります。
最も大きいのは、弦どうしの共鳴から生じる音色的な魅惑が 再現しにくいということです。
また、音色・音質そのものも、 現時点では生ピアノを演奏してCDにレコーディングしたものに比べると、 かなり劣っていると思います。 MIDIピアニストのCDは、今のところ、音質に関しては、 1960年ごろの出来のよくないレコーディングのようなレベルか、あるいは、もっと悪いのかも知れません。
しかし、この点は、楽器の進歩・改良によって、 どんどん解決に向かうはずです。
将来のMIDIピアニストは、もっとよい成果を上げられるようになるでしょう。
それから、現代のスタインウェイやベーゼンドルファーなどのピアノが持つ
モダンな音色は、 モーツァルトやその時代の作曲家が夢想だにしなかったものです。その上、モーツァルトの時代のソナタは、さまざまな音色の鍵盤楽器(フォルテピアノ、チェンバロ、クラビコードなど)による演奏を想定して書かれていました。したがって、
書法的にも、モーツァルトなどの音楽は、 音色や響きの魅惑に依存することなく、
音の強さ・長さ・タイミングの制御によって描かれる「フォルム」 によって語る音楽になっています。
以上から、モーツァルトなどを演奏するのであれば、 電子楽器で演奏することが、スタインウェイなどで演奏する場合よりも不利だという根拠は、ほとんどないと考えています。
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9 ピアニストのかたがたのMIDIデータについてどう思いますか?
何人ものプロやアマチュアのピアニストのかたが、
ご自分のサイトでMIDIデータを公開されていますね。
それらは、多数のアマチュア作者のかたがたが
MIDIピアニストと同じ方法で作られた演奏に比べると、
格段にすぐれていると思います。
しかし、では、かれらが生ピアノを使ったときの演奏に比べると、どうか?
私は、格段に劣ると思います。
かれらはMIDIデータを作るさい、クラビノーバなどの電子ピアノを演奏して、
その演奏を記録し、データにして公開されているわけですが、
クラビノーバは、生ピアノよりもずっと弾きにくい楽器ですし、
かれらが生ピアノを弾くさいに武器にしているタッチによる音色変化なども
忠実に再現できるとは言えません。
前述のようなMIDIデータ制作方法を「リアルタイム録音」 などと呼びますが、
この方法では、どこまで行っても、 生ピアノを弾いた演奏には及ばないのです。
したがって、MIDIピアニストの立場からは、 ライバル視する対象にならないと考えています。
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10 伴奏の演奏におけるMIDIピアニストの利点は何ですか?
ここでは要点だけを挙げます。
1 独奏者の楽器のピッチに正確に合わせられる。
とくに現代のピッチとことなる時代の楽器を用いる場合に便利。
2 比較的低いコストで制作できるので、たくさんの奏者のかたが、練習にも演奏にも、
場所や会場に制約されず、便利にいつでも伴奏を受けられるようになる。
3 したがって、手軽な演奏機会をたくさん作ることができるようになる。
4 十分に打ちあわせを行えば、独奏者の解釈に合わせた伴奏をあつらえられるし、伴奏の改良も旧作をベースとして行っていくことができる。
などです。これらの特長が十二分に発揮され、 音楽演奏が今よりはるかに身近なものになれば、 生ピアニスト・チェンバリストの活躍の場も むしろ広がっていくのではないかと 考えています。
今のところ、伴奏演奏者としての石田の仕事は、プロジェクト「リコーダーJP」における「チェンバロ伴奏」の制作という形で展開しています。
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