整備新幹線評価論
- 先入観にとらわれず科学的に評価しよう -
■はじめに
整備新幹線の是非については、正確なデータによってではなく、思いこみや先入観に基づいて議論されている面があるようです。鉄道を取り巻く環境は、国鉄改革以降の10余年の間に大きく改善されており、何年も前に考えられていた整備新幹線計画と現在のそれとでは全く異なる状況にあるのです。そのことは必ずしも正確に認識されていないのではないかと思われます。
人々の活動の広域化に伴って、都市間の交通量が一貫して増加してきていることや、国鉄改革を契機として鉄道経営の効率化が進んだことなどを背景として、需要や採算面において大きな状況改善がみられます。また、地球環境・エネルギー問題への対応の必要性、生活の豊かさやゆとりの創出、安全で快適なモビリティの実現など、鉄道整備に対する社会的な要請も高まっています。
これからの時代に向けての社会資本整備は、真に優れた事業が厳選されて進められるべきであり、そのためにはすべての事業が公平に評価されなければなりません。整備新幹線も、先入観にとらわれることなく、新たな時代においての必要性を科学的に評価することから議論を始めるべきです。整備新幹線に賛成か反対かにかかわらず、正確な状況認識に基づいて公正な議論を行うことが国民全体にとっての利益につながるはずであると考えます。
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■本書の内容
●新幹線プロジェクトの評価方法
これまで採算性に問題のあるとされてきた整備新幹線ですが、他の公共事業よりはるかに採算に優れていることを確認するとともに、そもそも採算性で評価することの意味について述べています。事業者の立場からの評価基準である採算性は、国民の立場からの評価とは異なることを理解した上で、国民の立場にたって評価するにはどのような視点が必要であるかを考えてみましょう。
●需要と採算性
整備新幹線の需要と採算に関する状況は以前に比べて著しく好転していることを、統計データをもとに示していきます。また、日本の国土構造は新幹線に適しており、整備新幹線が計画されている各地域は世界的にみても高速鉄道を整備するのに十分な都市規模や需要が備わっていることも説明しています。
●整備財源
これまで整備新幹線に投入してきた国の事業費は、一般に想像されているよりもはるかに小さいものであり、整備新幹線の進捗が遅いのは、財源が硬直化しているからであることを国の予算額の具体的なデータを用いて述べています。
●国民生活にもたらされる効果
新幹線は、利用者の利便性の向上、安全性・快適性の向上、余暇活動の機会や行動範囲の拡大など、国民生活の豊かさやゆとりある社会の実現に貢献する社会資本です。以前は、国土開発や地域格差是正などの効果が強調されることが多かったのですが、広域的な交通行動が日常化した現在においては、日々の国民生活に直結した日常的で身近な交通施設になっています。このような視点から新幹線の効果を整理するとともに、それらの評価方法について考えます。
●環境・エネルギーと安全性
鉄道が環境・エネルギー面で優れた交通機関であることは周知のことですが、日本の鉄道分担率が世界各国との比較において高く保たれていることには新幹線が大きく貢献していることをデータによって説明しています。また、新幹線による自動車交通量の削減効果は、都市内での交通対策などと比較しても相当大きなものであることを示します。さらに、交通機関として最も重要とも言える安全性の面において新幹線が極めて優れたものであることについても説明しています。
●地域交通との関係
新幹線か在来線かの二者択一が必要であるかのように言われたこともありましたが、将来の交通ネットワークのあり方を考えたときには、それぞれの役割を活かしていくべきであり、実際にそれが可能であることを在来線のデータも用いながら示しています。
現在の整備新幹線をとりまく状況は、以前とは大きく異なっています。思い込みや先入観にとらわれず、将来に向けての必要性を客観的・科学的な視点から評価してみましょう。
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■目次
- 新幹線プロジェクトの評価方法
- 公正で正確な評価を - 整備新幹線の採算性は他の公共事業よりもはるかに良好
- 新幹線は運営黒字 - 赤字・黒字の定義を正確に理解しよう
- 誰のための採算性? - 「採算性」は国民に目を向けた評価基準とは言えない
- 採算性の議論も正確に - 「整備新幹線は採算性に問題」は根拠不明の単なる決まり文句なのでは?
- 需要と採算性
- 需要と採算をとりまく環境は大きく改善している
- 都市間交通量は大きく増加した
- 整備新幹線沿線地域は人口希薄地域ではない - 日本の地方都市は、欧州の主要都市クラスの人口規模
- 需要予測のための基礎知識 - 需要の内訳と予測の信頼度について考えよう
- 需要予測をしてみよう - 都市間交通の需要予測は比較的明快
- 既存の需要予測を検証してみよう - 近年の需要予測は過大に行われていない
- 高速鉄道の収益構造は大きく改善されている
- 整備財源
- 「財源問題」は「財源硬直化問題」>
- 整備新幹線は従来型公共事業なの?
- 鉄道整備と公的財源
- 国民生活にもたらされる効果
- 新幹線による便益の種類
- 利用者にもたらされる便益
- 活動の可能性を表す滞在可能時間
- 期待所要時間で表す都市間交通の便利さ
- 間接的に生じる効果
- 環境・エネルギーと安全性
- 交通モードと環境・エネルギー
- 環境・エネルギー面での新幹線の効果
- 想像以上に大きい新幹線の自動車交通削減効果
- 新幹線の高い安全性
- 地域交通との関係
- 新幹線と地域交通
- 地域交通の利便性向上を図る
- 在来線経営の考え方
- 在来線の意義と将来の可能性
- 新幹線を軸とした地域交通のネットワーク
- あとがき -新しい時代の高速鉄道ネットワーク整備に向けて-
- 参考文献・データソース
- 整備新幹線の概要
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■整備新幹線評価論 -先入観にとらわれず科学的に評価しよう-
- 総ページ数
- 定価
- 発行日
- 2000年10月20日 第1刷(初版)発行
- 2001年07月31日 第2刷(装丁刷新版)発行
- 著者
- 中川 大(なかがわ だい) 京都大学大学院工学研究科教授
- 波床 正敏(はとこ まさとし) 大阪産業大学工学部教授
- 編集・発行
- ピーテック出版部
- 〒607-8495 京都市山科区日ノ岡鴨土町45(コスミック内)
- TEL: 075-502-1861
- FAX: 075-502-1862
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