らくらくISO9001講座



  <ISOの現在>
ISO9001の主役は「ごく普通の中小企業」

アイソス 2006年3月号
創刊100号記念特集 「ISOの過去・現在・未来」 100人寄稿
掲載原稿

 「ISOを維持していてもこれ以上改善効果は期待できない。手間と費用がかかるばかり だ」
 管理レベルが高く、早い時期にISO9001を取得した企業の中には、本音ではこう思って いる組織も多いのでは。このことでISOの今後に危機感を持っている方も多いのでしょう ね(だから、「システムの形骸化を防ごう」なんて話しになる)。でも、ISO9001は元々常識 レベルを保証するシステムだから、レベルの高い企業が満足しないのはやむを得ないか もしれません。しかも、シンプルな仕組みだから、大きな会社では、経営全体に展開する のには限界があります。

 では、ISO9001は役にたたない?
 そんなことはありません。本当に役にたたないのなら、これほど普及はしません。

 日本のISO9001登録企業は約50,000社です。その中では、上のようなレベルの高い企 業や大企業はほんの一握りに過ぎません。ISO9001のメインユーザーは「ごく普通の中 小企業」です。トップ企業ではなく、世間一般の企業がISO9001を必要としているから、こ の仕組みが広まったのです。審査機関もその他の関係者も、一部の優れた企業を中心 に発想するのではなく、メインユーザーである普通の中小企業に目を向けることが必要 です(それがISO業界の顧客志向だ)。「トップ企業で効果がなければ、システムとして価 値がない」なんてことはないのですから。

 では、「ごく普通の中小企業」はISO9001に何を求めているのでしょうか。
 この手の質問をすると、「安く簡単に認証が取れること」などと答える方が必ずいます が、それは筋違いです。言い方は悪いのですが、顧客の情報不足に付け入って粗悪品 (使えないシステム)を売り付けるのは、まるで○○商法。そんなところに顧客満足はあり ません。
 「ISO9001を取って良かった」という経営者に話を聞くと、たいていは「人」の面で会社が 変わったと話されます。例えば、「社長がいちいち指示しなくても、各責任者が判断する ようになった」とか、「部門間の連携が取れるようになった」とか、「個人がバラバラに判断 していたが、一定の基準ができた」などです。ほとんどの経営者は「いかにして従業員を 思うように動かすか」ということで悩んでいますから、この点が改善されれば、QMS導入 の大きな成果となります(もちろん、ストレートに利益に繋がればもっと良いのですが、例 は多くないですね)。
 また、多くの製造業は、「検査のつじつまが合わない」「検査で不良を検出できない」「納 期が守れない」「同じトラブルが続く」など、初歩的な問題を抱えています。こういう部分 に、QMSを使って取組めば、長年の悩みが解消できます。こうして、厳しい顧客と付き合 ってゆけます。
 一方、サービス業では、はっきりとした検査に当たるものがなく、業務の質が個人任せ である点が悩みの種です。これが、QMS導入によって、業務が整理され、守るべき品質 が明確になることで、仕事の質が揃ってきます(QMSの効果は、やはり人の問題です)。

 ISO9001を本当に必要としているのは、このような基本的な問題に悩む、普通の企業で す。ここでは、プロセスアプローチの理屈も、高度な品質管理手法も、新たなマネジメント システムの開発も、(それはそれで重要ですが)当面は必要ありません。ISOの専門用語 や、ISO業界内輪の理屈を振り回しても、役に立ちません。望まれているのは、実質的 な、組織の活性化や、現場の改善です。
 そのためには、まずコンサルタントが、個々の企業の課題に向き合い、QMS導入を通 じて解決に向けて誘導することが必要ですね。ただ認証を取らせるだけのコンサルティン グは論外です。大きな企業でやっていることをそのまま取り入れようという発想も、問題 の解決に繋がりません。

 審査機関も、中小企業の目線で、そして経営者の視点で、優先すべき問題点を拾い出 し、改善を促すことが必要です(審査員は大企業のサラリーマン出身が多いから、これが 案外難しい)。
 このように、メインユーザーである普通の中小企業に目を向け、そこでISO9001が改善 ツールとして生かされるのであれば、この仕組みはまだまだ拡大します。ISO9001を必要 としている多くの中小企業のためにも、そうあってほしいものです。



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