ゼミレポート

       「中国WTO加盟について」

趙軍ゼミナール
細川 和紀


目 次

1.序論
2.WTOとは
3.中国WTO加盟への道
4.日中貿易の現状
5.中国WTO加盟後の日中貿易予測
6.総論
◇参考文献・資料


1.序論

現在、日中両国間での貿易量は年々拡大する傾向にあります。しかも、貿易量から見た両国の関係は極めて緊密であり、お互いに交易における重要な存在であることは確かであります。特に現在、中国はWTO加盟に向け自由貿易体制へとそのスタイルを変貌させようとしています。これは新たな日中貿易関係の構築に向けてのターニングポイントに差し掛かっているのだと感じ。私はこの両国間における貿易の現状、問題点、中国WTO加盟後の将来に向けた日中貿易についてこの研究で追求していきたいと思い、この論文に於いてそれを導き出せるよう試みてみました。
第1章として当序論。第2章「WTOとは」では中国WTO加盟を考える前提としてのWTO自体について簡単な概要等の説明。第3章「中国WTO加盟への道」では中国がWTOに加盟するというところに至るまでの沿革等。第4章「日中貿易の現状」では現在進行している日中貿易の全体像。第5章「中国WTO加盟後の日中貿易の予測」では中国がWTOに加盟した後の日中貿易について。そして最後に第6章「総論」に於いて当論文のまとめと致しました。

2.WTOとは

 先ず、本章では中国WTO加盟を考える上での土台であるWTOというものについての概要等を説明したいと思います。

(1)WTOの概要

 世界貿易機関(WTO)は1995年に活動を開始しました。WTOは最も若い国際機関の1つですが、第二次世界大戦後に設立された「関税と貿易に関する一般協定(GATT)」の後進に当たります。

 WTOは、国家間貿易についての世界的なルールを扱う唯一の国際機関です。WTOの主要な機能は、貿易が可能な限り円滑に、予測可能に、そして自由に流れることを確保する事です。また、そうすることによって、より希望に満ちた、平和な、予測可能な経済世界が実現します。WTOでの決定は一般的に全加盟国のコンセンサスによってなされ、そして、それらは各加盟国の国会で批准されます。貿易摩擦はWTOの紛争解決手続きに移され、そこでは協定と約束の解釈、そして、当該国の貿易政策をそれらに整合的なものにすることを如何にして確保するかに焦点が当てられます。この様にして、貿易紛争が政治的、軍事的紛争に拡大する危険を減らしています。

 貿易障壁を削減することにより、WTOの体制は、人々と国々の間のその他の障壁も打破しているのです。

 この体制は、多角的貿易体制と呼ばれており、その中心がWTO協定です。この協定は世界の大多数の貿易国により交渉され、署名され、各国の国会で批准されたものです。この協定は国際的な商取引の法的な基本的ルールです。基本的に、これらは加盟国の重要な貿易上の利益を保障する契約です。この協定はまた、万人の利益のため、各国の貿易政策を協定の範囲内にとどめるよう政府を拘束します。

 WTO協定は各国政府により交渉され署名されたものです。しかし、その目的は、モノ及びサービスの生産者、輸出者、輸入者が営業活動を行うことを助けることにあります。

 WTOの目標は、加盟国の人々の福利厚生の向上にあるのです。

 その目標に向けて、WTOでは現実的な行動として、

・貿易協定の運用
・貿易交渉の場の提供
・貿易紛争の取り扱い
・各国の貿易政策の監視
・技術支援と訓練プログラムを通じた開発途上国の貿易政策の支援
・他の国際機関との協力

を行っています。

(2)組織

 WTOは世界貿易の90%以上を占める130ヵ国以上の加盟国を有しています。現在30ヵ国以上が加盟交渉中であり、その中には中華人民共和国も含まれています。

(3)開発途上国

 WTO加盟国の4分の3以上は開発途上国あるいは後発開発途上国です。WTOの各協定にはこれらの加盟国に対する特別の規定が設けられています。特別の規定には次のような事項が含まれています。

・協定や約束の実施に関する期限の延長
・貿易の機会を増加させる手段
・途上国の貿易上の関心を考慮するよう全ての加盟国に求める規定
・WTOでの活動、紛争解決、及び技術的基準の適用のための基盤整備に対する支援。

3.中国WTO加盟への道

 まもなく中国が正式にWTOに加盟しようとしているが、中国は1986年にWTOの前進であるGATT加盟を申請したので約14年を経て、ようやくWTO正式加盟を迎えようとしています。しかし、ここまで加盟へ時間がかかった背景としてはやはり、1989年に中国の北京で起こった天安門事件の影響が大きいです。この事件が原因で加盟交渉が中断し、しばらく交渉は再開されませんでした。1998年に入り中国は作業部会(Working Party)で工業品の関税について、平均関税率を大幅に引き下げるオファーを出し、交渉が再び進展し始めました。しかし、加盟交渉が大詰めとされていた2000年12月7 日まで3日間続いた世界貿易機関(WTO)の中国加盟に関する多国間作業部会は、加盟条件交渉で残る懸案のうち、非関税障壁の改善、知的所有権保護の強化などで一部進展があったが、中国に途上国待遇を認めるかどうかなどの難題はほとんど手つかずのままで、交渉全体の「原則合意」には至らなかった。未だ加盟交渉での具体的結論が出る日は定かではないです。
 WTOに加盟するためには、中国は今後も徐々に関税の引き下げや市場開放などの各種貿易制限を撤廃していかなければならない。

4.日中貿易の現状


 この章では日中貿易に関する現状を数値化しさらに、問題点などを取り上げてみました。

(1)現状数値

 現在、中国の貿易における輸出入総額は3250.6億米ドル(1997年現在)と50年前と比べて約170倍の増加を示しています。輸出入総額は年を追うごとに拡大しており、増加傾向は今後も続いていくものと思われます。日中の貿易関係は中国の対日輸出額が2629747万米ドル、輸出総額に占める割合が16.05%で第3位。対日輸入額が2454679万米ドル、輸入総額に占める割合が20.02%で第1位と他の国と比較した場合、米国と並び重要な貿易相手国であるということが言えます。

 大蔵省の貿易統計によると、99年上半期の日中貿易においては、対中輸出は106.8億米ドルで前年同期比11.1%増、対中輸入は191.2億米ドルで同7.2%増、対中輸出入額は298.0億米ドルで同8.5%増となっております。
99年上半期の対中輸出商品の構成についてみると、

・電気機器(24.9%)
・一般機器(21.8%)
・化学製品(12.6%)
・輸送機器(3.7%)
・精密機器(3.4%)

これら5品目が対中輸出全体に占める比率は66.4%に達しました。

(2)中国における不透明な投資制度

・外資企業に対する二重の相反的待遇、すなわち「超国民待遇」(税率、外貨使用、輸出入の権利、乗用車購入などに於いて、自国企業よりも優遇)と「次国民待遇」(輸出および国内販売の制限、原材料の供給、価格、経費徴収における差別待遇)が挙げられます。
・外資企業の直接投資に関する制限や地域制限などは、長期において外資企業の不満の種と言えます。
・知的所有権を保護するための法律が不備だったため、一部の外資企業は、コンパクトディスクやコンピュータソフトなどの海賊版の横行などでマイナスの影響を受けています。

(3)海賊品

 近年中国での偽ブランド生産額が年間1300億元前後に膨れ上がっていることがわかりました。これによる国の税収は年平均250億元以上の損失を出しています。

 偽ブランド品は市場にあふれ、企業が苦心して創り上げたブランドという無形資産を侵害し、対策資金を増加させました。そのため企業の利益は減り、企業としての生き残りにも直接の影響を与えています。

 被害を受けた146企業に対して行った調査結果では、偽ブランドに、正規ブランドの販売量の半数を占められたのは23企業、100%を占められたのは11企業。正規ブランドの568倍を売り上げた偽ブランド品もあったそうです。

 偽ブランド品が反乱することは、市場の秩序を乱し、国民の経済活動にも大きな悪影響を与えます。また、投資環境も悪化させ、国内外の投資家が退去していくという事態にもなりかねません。もし、このような商品が海外に流出する事にでもなれば、中国製品の信頼も失われてしまします。WTO加盟が近づき、偽ブランド取り締まりが緊急の課題といえるでしょう。

5.中国WTO加盟後の日中貿易予測

 この章では中国WTO加盟後に起こるであろう近未来的予測を述べてみました。

(1)全般的貿易予測

 WTO加盟に伴い、中国は関税引き下げや非関税措置の縮小・廃止など市場開放を進めなければならなくなり、これは、諸外国・地域の中国市場へのアクセスを改善し、同対中輸出の拡大をもたらしていくものと予想されるが、国・地域別の受益の度合いは、その対中輸出の規模と商品構成により大いに異なってきます。

 つまりは中国の主要な供給者である先進国の受益は大きく、中でも日本が最大の受益者になるであろうとみられています。

 その理由として

・従来、中国の輸入品に対する関税率は諸外国と比べて高く、輸入制限などの非関税障壁も多数存在します。中国がWTOに加盟すると、関税率の引き下げと非関税障壁の撤廃を行わなければならなくなるので、日本の対中輸出はこれによって大きく拡大すると予想されます。
・特に電気機器、一般機器、化学製品、輸送機器、精密機器というこれら5品目はいずれも関税率の引き下げや非関税障壁の撤廃などによるメリットを受けやすいため、中国がWTOに加盟した後、日本の対中輸出はこれによって大きく拡大する見通しです。
 中国が早い時期にWTOに加盟できれば、日本の対中輸出は、98年の200.2億米ドルから2001年には約20%増の240.3億米ドルまで拡大すると推計されます。
・制度面では特にWTO規則に基づき、外資企業に対する相反的待遇や、直接投資分野に関する制限や地域制限などの不透明な投資制度を撤廃したり、外資企業に「内国民待遇」を付与したり、知的所有権の関連法規を整備したりする事により、海賊版製品メーカーの取り締まりを強化しなければならなくなります。従って今後、中国の投資環境はWTO加盟によって大いに改善され、日本企業の対中投資もこれによって大幅に増加するものと予想されます。

以上が挙げられます。

(2)日中貿易摩擦

 中国の対外貿易経済協力省は2000年12月18日、国内ステンレスメーカーからダンピング(不当廉売)提訴されていた日本と韓国製の輸入ステンレス冷延鋼板に対し、ダンピングの事実があったと認定する「クロ」の最終決定を」下した。これに対し日本のメーカーからは「発動の基準が不明確」との声が上がっています。中国が最終決定で日本製品を「クロ」と認定したのは初めてです。中国はWTO加盟に伴い、反ダンピング措置を多用する可能性が指摘されており、これがその手始めとなる措置であったとも考えられます。

 中国はWTOに加盟すると、高率の関税によって国内の製造業を保護することが出来なくなります。関税引き下げによって中国の国内産業が大きな打撃を受けた場合、中国政府が反ダンピング措置を多用し産業を保護するのではとの懸念が先進国間で高まっており、中国の決定に注目が集まっています。

 これは特に日中間に関しては今後大きな影響を及ぼすものと考えられます。日本と中国は現在、輸出入でお互い大きなウェイトを占めており、対中輸出額世界第1位の日本とすれば、今後この問題が「日中貿易摩擦」という形に発展していく可能性は大いにあるものと考えられます。

(3)ビジネスリスク

 中国経済が計画経済から市場経済へ、供給不足経済から供給過剰経済への移行や、国有企業の経営難の深刻化などを背景に、日本企業の対中ビジネスにおけるリスクも多く出てきます。中でも市場変化のリスク、政策・制度変動のリスクと、ビジネス相手である中国企業の信用リスクが特に注意すべき点であります。

 中国市場の魅力は大きいが、しかし、中国市場には「落とし穴」も待ち受けています。
・一人あたり所得水準がまだ低い
・競争が激しい
・市場が供給不足から供給過剰へとシフトしている
などが代表的なリスクです。

 生産財を含む多くの製品の生産者は、供給過剰に悩まされています。これから対中進出企業にとっては、中国市場の需給状況とその見通しに関する調査はこれまで異常に求められて行くであろうと思われます。

 中国の抱える多くの問題の中で最も深刻なのは、国有企業の不振に他なりません。近年、中国政府は民営企業、特に私営企業の発展に力をいれており、外国企業のうち、郷鎮企業や私営企業などの民営企業と合弁または合作企業を作るケースも増えています。しかし、郷鎮企業や私営企業などは体力などの面において千差万別であり、「ワンマン経営」や中間管理者・技術者の欠如などの問題もよく指摘されています。これらの企業を相手にビジネスを行う際は、その信用・経営状況及び政府からの支援などについての調査がもっと必要になって来るとおもわれます。

6.総論

 12億の人口を抱える世界最大の市場であり、市場の拡大が世界で最も期待できる中国がWTOに加盟することで、その開放度が飛躍的に上がるということであり、中国のWTO加盟自体が世界経済に与える影響は大きいです。

 日本は以前より対中貿易に於いて非常に大きな割合で関係を持ち続けてきました。それは中国のWTO加盟以後も変わることがないと思われますが、しかし、既に欧米企業による対中進出は日本企業以上に進んでいることも事実であります。これ以上日本企業が欧米企業に対して遅れを取ってしまうと、市場占有率や知名度の観点から言っても確実に劣勢に立たされてしまいます。

 中国進出を労働コスト削減・市場開放・WTO加盟ムードに便乗した一過性のものにするのではなく、これまで以上の中国国内への関心、もっと長いスパンで対中進出、そして、その後の戦略プランを熟考していく必要が大いにあると思われます。如何にして先に中国という巨大な国家、市場に潜り込めるかが勝負なのです。

 それと重要なのこととして、日本の対中進出企業が一番勘違いしてはいけないことは中国市場が如何に巨大であろうとも商品を中国の人たちがすんなり受け入れて購入してくれるわけではない。ということです。あくまでも市場ニーズがあってこそ商品が売れて、うまくいって“千万”“億”単位の人々が商品を購入した場合に初めて市場規模の巨大さを認識できるのであります。

 以上のように様々な日中特に中国側の実情を鑑みると決して中国WTO加盟以後の日中貿易は楽観視出来るものでは無いと思われます。かといって、現在これだけ緊密な状況にある日中貿易関係がすぐに崩壊するということはとても考えられません。これからもお互いが何よりも、より良い信頼関係を気づいていくことが必要だと思います。将来的にEU等に対抗する巨大なアジア自由貿易圏を実現するためにも日中間のさらなる緊密化は必須課題であると思われます。お互いに同じ東アジアの同胞であるという意識がもてるようになることが今後の世界貿易状況を予測した場合、一番理想の日中貿易関係であると思います。

◇参考文献・資料
・参考文献

「WTO加盟で中国経済が変わる」 著者 海老名誠、伊藤信悟、馬成三 
出版社 東洋経済新報社

・参考ホームページ
中国情報局 SERCHINA(http://www.searchina.ne.jp)

・参考資料
「日本経済新聞」 2000年12月8日(金曜日)日刊、2000年12月18日(月曜日)日刊
                         発行所 日本経済新聞社

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