★はじめに
Doshisha College Song 通称カレソンについていろんな人がいろんな角度から研究調査し、発表してきた。
いわく、ヴォリーズの作詞経緯であったり、原曲“ラインの守り”についてであったり、多岐にわたっている。
私は、いままであまり触れられたことのない、男声合唱編曲について述べてみたいと思う。
★グリー愛唱曲集
同志社グリークラブ愛唱曲集「One Purpose」という大冊がある。
1997年(平成9年)に、クラブ創立100周年を控えて、SA氏率いる愛唱曲集編集委員会がまとめた労作である。
カレソンの譜面には編曲者についてこう書かれている。
「D. B. Towner編曲」。
上掲書にはSA氏の筆になる「同志社のうた解説」があり、カレソンも冒頭に、特に歌詞について詳細記述があるものの、編曲については全く触れられていない。
★タウナー
D. B. Townerとは誰か。
今やネットの時代。少しキーボードを叩けばたちどころにその経歴が明らかになる。
Daniel Brink Towner(ダニエル・ブリンク・タウナー)は1850年ペンシルベニアに生まれ、1919年にミズーリで死んだ。その生涯は一貫して教会音楽、なかんづく讃美歌の作編曲と教育と歌手活動に捧げられた。
★タウナー男声合唱曲集
著書の一つに「Towner's Male Choir」【→参照】という男声讃美歌集がある。1894年シカゴで出版された。
収載された125曲のうち1曲を除いてすべて男声合唱曲。
この曲集は当時良く使われたとみえて、同志社のみならず関学グリー愛唱曲中にもこの曲集から採られたものが多い。
タウナー自身の作曲が45曲、編曲5曲(6曲?)のうち、特に編曲の中にわれわれに馴染みの深いものが2曲ある。
一つは「That Beautiful Land」つまりあの「希望の島」であり、もうひとつは今から述べようとするカレソン。掲載名は「Make Jesus King」である【→参照】。
出版年は1894年(明治27年)なので、この楽譜が年を経ずして同志社に伝えられ、この旋律にヴォリーズが歌詞を付けて同志社の校歌としたとして何ら不思議はない。ちなみにイェール大学の学生歌Bright College Yearsが書かれたのが1881年と云われる。
★Make Jesus King
まず楽譜上部のテキストをすべて採録すると、
Make Jesus King(曲題名)/
Written for the student's foreign missionary movement of the American Intercollegiate Young Men's
Association, Northfield Mass., 1888(作詞為書き)/
E. Brock(作詞者)/Carl Wilhelm.(作曲者)/ Arr. D. B. T.(編曲者)
譜面下部には、
Copyright, 1889 by D. B. Towner.(著作権者)
とある。
これが紛うことなくカレソンと同一なのである。下記異同点を除いては。
★異同校訂(T=Towner's Male Choir、O=One Purpose)
【下記異同表参照】(最初の1拍小節は不完全小節なので次の小節を1小節とする。念のため)
★和声上の問題点
和声上の問題点というより、私の思うところ、「タウナー編曲」と銘打って引用した以上、強弱記号や表情記号はさて置き、音高は一音たりとも変更すべきではない。(その意味から音の長さも目を瞑ることにする。)しかし残念なことに前項でお分かりのように2ヵ所にわたって音高の異同が見られる。音高が異なるということはそこの和声が異なるということであり、編曲者名を明記した以上あってはならないことである。7小節のバスの音などは「One Purpose」版ではTopTenorとの間に明らかに完全8度平行という和声学上の禁を犯している。何らかの理由で変更したのなら、曲集編集委員会の責任において「再編曲」を明記すべきだろう。しかし1955年私が同志社グリークラブに入った時貰った譜面が既にこれであった。愚考するに、変更する「何らかの理由」は、ない。
★タウナー編曲明記の責任
私の入部した時点でも指揮者には古い「Towner's Male Choir」が引き継がれていたことがわかっている。(その譜面は現在MK氏が保管されている。)しかしその所在を確認して「One Purpose」作成時に校訂した痕跡は残念ながら見られない。
6、8、12小節のような「音がある」のか、「休符」なのかということは、新しく付けられた歌詞のニュアンスによって起りうるという反論があるかもしれない。しかし音高の変更はあってはならないことである。原編曲の存在が明らかになった以上、放置すべきではなく、@歌う上では同志社グリークラブをはじめとする同志社関連でこの男声編曲を歌う諸団体すべてが正しく歌うよう努めること。A譜面では男声版の原点視される同志社グリークラブ愛唱曲集再版時には「Towner's Male Choir」を顧慮すること が大切であろう。
★雑音
“雑音”とは言い過ぎかもしれないが、「私たちは先輩からこう引き継いできた」、「これの方が歌い慣れ、歌いやすい」、「16分音符なんて一瞬の音だし構わない」、「5小節など“この和音もあり”だろう」等々はある種の言い訳若しくは強弁であって、正当な意味を持ち得ない、と私は確信する。
★混声合唱版へのささやかな言及
同志社学生混声合唱団(CCD)50周年で作られた「Chanter Standard」編纂時に問題になったことがある。それは「wander」の「-der」のアルトの音がDかFかの議論である。
ただ混声版は男声版と異なりかなりいろんな編曲バージョンが存在する。そのうち同志社内で出版されたものでは2種類存在することがわかっている。(ただそれぞれその原典となった編曲については現時点で明らかになっていない。)同志社歌集に掲載されたもの(-F)とキャンプソング集「Sing Along」に載ったもの(-D)の二つである。CCDでは「Sing Along」に載ったものを伝世してきたが、問題発覚後議論が沸騰した。検討の結果、最も古いと思われる、学校法人同志社が発行した譜面に準じて(-F)に統一した。原譜と考えられるものを最大限尊重するのは歌う人間にとって大切な義務だと考えたからである。
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