〜印象に残っている文章〜
■自警録■ 新渡戸 稲造 著
第二十五章「理想と実現」から抜粋
一種の思想をもって世渡りを企てる者は、
同じ思想を抱いている人のうちにはもっともよく受け入れられて、
いわゆる調子よく世渡りもできるが、異なった思想を抱いている者、あるいはなんの思想も抱かずに
世渡りをする者に対しては、はなはだ面白からぬ印象を与えるがために、とかく彼此の批評を受けたり、
あるいは、ときにはそれがために迫害も凌がねばならぬことは承知せねばならない。
普通にいう世渡り上手だというのは、ただ無主義で無定見で無思想で、
流るるままに浮かんでゆくを称するのであるが、いやしくもいずれかの主義を抱いた者は、
一時調子のよいことがあっても、浮き沈みのあることは覚悟せねばならない。
また、この反対の勢力の風波に会わなければ、思想も練ることはできない。