〜印象に残っている文章〜
■精神科医のノート■ 笠原 嘉著
強迫的心性とは、人生につきまとう不確実性、予測不可能性、曖昧性を
極小にすべく人間がつくりあげる完成度の高い、心理的防衛機制だといえよう。
不確実性、予測不可能性、曖昧性は必ずしも外部からやってくるとは限らず、
自己のうちからなる情動や衝動からも来るから、
その防衛は外に対しても内に対しても敷かれなければならない。
そこに生じるのは、曖昧性を排するための単純にして明快な生活信条、ないしは様式の設定であり、
それによって整然たる世界を構成しうると考える空想的万能感であり、
予測不可能性を排するためのなんらかの呪術の利用であり、不確実性の高い生活領域へ不参加と、
それによる生活圏の狭隘化である。
例えば、白ー黒、善ー悪、正ー邪による二分論で内外の出来事を整理し、
どちらともつかぬ中間様態を許容しない。
物事は自分の気のすむように完全に仕上げられねばならず、
自分の統制下に自分の秩序にしたがって配列されなければならず、
中途半端は放置できない。
(略)
(強迫的心性は)第一に、そもそも黒白つけがたい曖昧さにみちた生の現実を殺してしまう。
第二に、攻撃性の突発がある。(略)
第三には、自分さえ気がすめばよいという自己中心性、他者への真の配慮の欠落である。
第四は、先に述べた無気力反応であり、社会的関与の放棄である。
一般に強迫的心性は、真面目人間の不道徳、仕事好きの無気力、潔癖家の不潔、
といったパラドックスをしばしば生む。