〜印象に残っている文章〜

■生きること学ぶこと■  広中 平祐 著

「逆境と人間」から抜粋

こんな言葉がある。フランスの有名な数学者ポアンカレがいった、

「創造とはマッシュルームのようなものだ」という言葉である。

マッシュルームは、キノコの一種である。

キノコというと、日本人の私はすぐ松茸を連想してしまうのだが、

すなわち、松茸のようなものが創造だ、とポアンカレはいうのだ。

 

松茸は、周知のように、地表下に菌根と呼ばれる根をもっている。

この根は、きわめていい条件が与えられていると次第に円形に広がりながら発達していく。

ところが、この好条件がいつまでも続くと、根だけが発達してキノコをつくらずに、

ついには老化して死んでしまうのである。 

植物に詳しい知人の話によると、実に五百年にわたって根だけが発達し、枯死した松茸があるらしい。

では、どうするか。

発達してきた根に、ある時点で、根の成長を妨害する条件が与えられなければならないのである。

その妨害条件は、例えば季節の変化による温度の上昇あるいは下降といった

外界の条件であったり、また、松やにとか、酸性の物質とかの物質的条件であったりするようだ。

このような条件が与えられると、その妨害にもめげずに生きるために、

根は胞子という形で種子をつくって発達を続けようとする。

そうして、やがて松茸となるのである。

(略)

創造には、まず、松茸が地表面下で根を広がらせていくような蓄積の段階がなければならない。

だが、いつまでも蓄積だけを続けていては、松茸がキノコをつくらずに枯死してしまうように、

人は創造することなく、生涯の幕を閉じなければならなくなってしまうのだ。

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