〜印象に残っている文章〜
■もの食う人びと■ 辺見 庸 著
「バナナ畑に星が降る」より抜粋
安い毛布、棒状のせっけん、ビニール袋入りの砂糖を、都合七セット買った。
バナナ畑を漕いで、エイズ孤児や孤児を引き取っている家に配って歩いた。
私の発意ではない。キリスト教系国際救援団体「ワールド・ビジョン」で働く
ウガンダ人青年フレッドのアドバイスに従ったのだ。
「驚いたり、嘆いたりするだけならだれにもできる」
そういうフレッドにむっとして、やりつけないことをした。
いたたまれないほど、それこそ神のように感謝された。
事前に連絡がいくらしく、エイズ孤児を多数抱える学校では父兄会まで動員し、
日盛りに立ちのぼる地面に整列させて、何時間も私の来るのを待っているのだった。
気恥ずかしさを噛み殺して私は「来訪記念植樹」までやってのけた。インチキな神様になった。
「皆、参っているんだ。勇気づけなきゃ」
フレッドがためらう私をしかる。偽善を悩む余裕なんかないんだよ、という目つきで。
「文庫本あとがき」から抜粋
理屈ではなく、私は国家というばかげた幻想を
生身に1ミリグラムといえども嵌めたり重ねたりすることができない。
あらゆる種類の錯覚のなかで、
国家に自己を重ねる錯覚(最近ひどく増えているように思われる)を、
私はためらいなく敬遠する癖がある。
国家単位でものを発想してはならない。
このことは私の生命線である。