〜印象に残っている文章〜

■荘子■  福永 光司 著

「危ういかな人間」より抜粋

危ういかな人間!人間とは常に狂乱と破滅の危機を己れ自身の中に包蔵する、

この上なく危険な存在ではないか。

多くの人間はこの危険の上に安坐して、忘れられた危険を己の健全さだと信じ込んでいる。

(略)

なるほど、人間は第三者的な立場に立つばあいは理性的にふるまいうる。

あるいは傍観的な一般者として発言するばあいは理性的にふるまいうる。

しかし、自己がその渦中におかれ、己れ自身が決断を迫られるばあいには、

人間は必ずしも理性的ではない。

理性的でないばかりか、しばしば恐れとためらいとに心ひるみ、無暴と短気に思慮を失う。

羞恥と悔恨がその後につづき、自責と自己嫌悪とが理性への憧れを嘲笑する。

(略)

荘子は人間の心のもつ、このような崩れやすさと不安定性に注目する。

そして、これらを周到に把握することなくして人間関係の恒久的な安定や

国家社会の揺るぎない秩序を考えようとしても、

それは砂上の楼閣を築くようなものではないかと考える。

 

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