Book Review
■日本はなぜ敗れるのか■ 山本 七平 著
この本は戦後30年経ってから小松真一氏の「虜人日記」を遺族によって見せられた山本氏が
一切の美化や誇張がみられない貴重な記録と評価し、自らこれに基づい日本論を展開したものだ。
こうしたタイトルの本は多いが、著者自身がフィリピンでの戦闘を体験し、
戦後一貫して、日本人と日本軍の特質の研究に努めてきた山本氏の指摘は鋭く具体的だ。
「日本人は自虐的すぎるのだ」と、戦争の敗因追及を封じ込めようとする人々には、まず
この本で山本氏が挙げている問題点への解決策と実行を、ひとつでもやってみてから発言してもらいたい。
この本が指摘する問題は戦後60年が経ったいまでも、日本の社会の基底にうごめいている。
今、日本の軍事力を高めて、力によって国際社会での主導権を有利にしようという勢力が台頭しつつあるが
この本で指摘されている性質が改善されないままである以上、どこへ進もうとも日本は再び敗北するだろう。
最大の理由は、「過去から学ばず、反省なきこと」である。
「自分の思い込み」と「客観的状況判断」を混同し、自分に都合のよい風にしか物事を受け取らない。
過去にあった同様の事例をろくに研究せず、根拠のない「自分だけは間違える筈がない」という思い込みで
事態に飛び込んでは同じ失敗を重ねることを繰り返している。
具体例はこの本の端から端まで書いてあるので、関心のある方は入手して読んでもらいたい。
最近の事例で言うなら、カルロス・ゴーン氏が日産で行った改革は
この本が指摘していることの実践に限りなく近いと思われた。(NHKの番組で見た限り)
日本人同士では、馴れ合いやしがらみにまみれて、内輪の論理で閉じられた社会に安住し、
その狭い社会のルールが通用しない外の世界を見ようとせず、閉じられた楽園を保守することに始終してしまう。
その間に、外の世界では時代が変化して(浦島太郎)状態になってしまっているにもかかわらず、
外と中のギャップが取り返しがつかなくなるまで、(自らの痛みを伴う)自己変革をすることができないのだ。
戦後60年たった今でも、そうした日本の根本原因を改善できないでいる日本人の性質は深刻である。
「自虐的」とか言ってる場合じゃない。直すべきことが直せないのは、人間としてあまりにお粗末だ。
まず「過去と現実を直視する」という単純なところから始めなければならないだろう。
自分(達)の考え方・物の見方だけが正しい、という(狭い島国的)態度であるかぎり
自分の抱える問題点も、周囲の状況の変化にも気付くことができず、(変化に対応する)進歩もなく
63億の人間世界の中で、信頼され関係を深めて共存していく知恵が生まれくることはない。