Book Review
■〈民主〉と〈愛国〉■ 小熊 英二 著
今の社会(政治家・官僚・識者・世論)の言論・活動をみるにつけ、
現在の日本は敗戦から教訓として何か学びとっているのだろうか?という疑惑が私の中で大きくなり、
この問題を主題に書かれた本をいろいろ読まなければならないと強く感じている。
この本は敗戦の原因と、その教訓を生かすことのできない戦後日本の原因・その関連について
丹念に調べ上げ、驚くべき情報量を備えた総括的な本となっている。
見た目は800ページ強の、ぶ厚つく高価な本だが、〈序文に書かれているとおり)文体は非常に読みやすく、
私のように、戦後の政治や思想・文学などの知識が、頭の中にバラバラに入っていて
相関性が見えていない者にとって、それらを生み出した原因と結果の大きな流れのを整理統合してくれる。
戦後論というと、最近では「厭戦平和主義」か「アメリカに押し付けられた社会制度からの脱却自立論」の
二極化しつつあるように思われるが、戦争当事〈加害・被害)者だった軍・政治家など上層部と民衆のなかで
〈戦後誕生世代がほとんどとなった現在では、見えにくくなってきている)多様で複雑な見解が存在し、
戦後生まれの権力者・識者の示す単純な二極化論議よりも
はるかに豊かで実際的な意見が多数、捻出されていたことが理解でき、その知恵を知るだけでも
この本を読む価値がある。
(それゆえの“本の厚み”なので、おじけずに多くの一般の人に手にとってもらいたいと思う。
ただ、大東亜戦争の経緯くらいは頭に入っていないと、この本の総合力の魅力がわかりにくいと思うので
半藤一利氏の「昭和史」あたりを前知識として読んでおくほうがいいかもしれない。)
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あとからネットで著者を調べると、自分と5つしか違わない年齢であることに驚いた。