Book Review
■大本営参謀の情報戦記■ 堀 栄三 著
これは貴重な本である。
太平洋戦争時の参謀経験者で、ここまで戦況を冷静に把握していた人間はわずかであろう。
それだけに戦時・戦後の日本にとって、かけがえのない教訓となる言葉に満ちている。
憲法9条改正や自衛隊問題を語るならば、まず、この本を読んでなければ話にならないだろう。
日本の今の閣僚などの中央司令部のシステムでは、現代においても場当たり的な指令や、
(山本七平の指摘する)“空気”まかせの決断、あるいは責任のがれをすることに変わりがなく、
ゆえに判断を誤り、あの戦争の時とまったく同じように、
最前線におもむく人々がそのツケを命で払わされることになる。
上層部に何の進歩もなく信頼がおけないゆえに、私は一切の再軍備に同意しかねる、と思っている。
いまでも、兵器増強のような再軍備が必要だとは全く思っていない。
ただ、著者が以下に指適している“優れた耳”の能力を磨くことに同感であり、そこに力を注ぐべきである。
同時に、再軍備やら憲法改正やらを言う前に、まず硬直化して幼稚な外交を改善し、能力を高めるべきである。
それなのに、残念ながら
“優れた耳”どころか“目”までもが、アメリカを通してしか見れない(聞こえない)のが日本の現状であろう。
目と耳を持たなかったために、かつてナチスドイツを妄信し、産業大国アメリカとの戦争にろくな準備もなく
(「バスに乗り遅れるな」という合言葉のもとに)飛び込んで玉粋した。
今も目と耳を持たずにアメリカを妄信し、(「バスに乗り遅れるな」と)軍備を増強すれば、
どういう未来が待っているか明らかである。
(そもそも、この「バスに乗り遅れるな」という言葉が蔓延すること自体が、トップの思考不能を現していよう。)
***
日本の防衛方針が専守防衛ということであるなら、情報を措いて最重要なものはないはずである。
昔ドイツで読んだある本の中に
「ウサギの戦力は、あの速い脚であるのか、あの大きな耳であるのか?」
という設問があった。
答えは、いかにウサギが速い脚を持っていても、あの長い耳ですばやく正確に敵を察知しなかったら、
走る前にやられてしまう。だからウサギの耳は、ウサギにとって自分を守るための
最重要な戦力だというのである。
米軍が調査書で挙げた五項目は、まさに日本が耳を持たないウサギだったことの証明に他ならない。
ますます複雑化する国際社会のなかで、日本が安全にかつ確乎として生きていくためには、
なまじっかな軍事力より、情報力をこそ高めるべきではないか。
長くて大きな「ウサギの耳」こそ、欠くべからざる最高の"戦力”である。