Book Review
■私の戦後60年■ 不破 哲三 著
高度経済成長期の生活用品が充実していく資本主義の恩恵の中で育ったた私には、「日本共産党」
という名称と主張には馴染めませんでしたが、「不破哲三」という人の発言と存在は印象に残っていました。
とはいえ、私は「日本共産党」という“東側”に固執する集団の頭領くらいに思って軽んじていたのが実態でした。
しかしその根拠のないイメージは、単なる私の先入観にすぎなかったことを、この本を読んで思い知らされました。
この本は日本共産党議長だった視点からつかんだ、戦後60年間の日本政府や世界の問題点を
(おそらくは引退していく自分の置き土産として)後世の若い人に向けて、わかりやすく明瞭に指摘しています。
この本の価値は、「共産主義」という戦後日本のアメリカ追従型の資本主義から
浮いていた存在ゆえに(体制側でなかったがために)、その時代の問題の風雨に直にさらされ、
それゆえに問題の核心を明瞭に捕らえる視点(特に国際的な視点)を得られていたことにあります。
(そうした貴重な存在を軽んじていた)私自身の目から鱗が落ちる思いがしました。
ソビエトや中国、北朝鮮などの共産主義国との連携や軋轢の歴史も興味深いですが、
なによりアメリカに追従するだけの自民党政権の情けない60年の外交の姿をあからさまにしている点は、
これからの社会を担っていく若い日本人が基礎知識として持っていなければならない重要な内容を示しています。
特に「非核三原則の有名無実化」と「プラザ合意」についての記述は、勉強不足の私にはショックでした。
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〜プラザ合意についての記述から抜粋〜
「なぜ、日本の国民だけが、こんなに低い金利で我慢させられているのでしょうか。
実は、これは、日米関係のなかで、アメリカの財政赤字削減を応援するために、
人工的につくりだされた仕組みなのです。(略)
そこで日本は、公定歩合をいつもアメリカより3%程度低いところに設定する、という仕組みを受け入れてしまった、
というのです。しかもその理由がふざけています。
これによって、日本の機関投資家がアメリカの国債を買うように仕向ける、というのです。
〜1990年の日米首脳会談の内容から抜粋〜
もっと大きな問題に、“日本は毎年これだけの公共事業をやれ”ということをアメリカから押し付けられた、
という問題があるのですよ。(略)
その時の首脳会談で、“日本は、今後10年間に430兆円の公共事業投資を行う”ということを
約束させられたのです。
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「東京湾横断道路」や「首都機能移転」などの構想は、このアメリカの要求を満たすために
まず歳出ありき、で考えられた公共事業だそうです。その結果現在日本の負債は
国民一人当たり1600万円にものぼり、日々増加しています。(借金時計) (グラフ)
あまりの馬鹿らしさに言葉もでません。
ぜひ、今度の衆議院選挙の前に、多くの人にこの本を読んでもらいたいと思います。
それで「日本共産党」に票をいれろ、などと言うつもりはありません。
むしろ「自民党」に投票しようとしている人にこそ、この本を読んでもらいたいのです。
選挙民自らが、自民党政治の共産党側から見た側面を知った上で、これからの日本を考え、
自民党体質の清濁あわせて引き受けるつもりで「自民党」に投票(するなら)してもらいたいのです。
最後に、この本で不破氏にインタビューした角谷浩一氏(私より6つ年上なだけ)のあとがきから
この本の意味について語っている文章を抜粋しようと思います。(ほぼ同感なので)
そして、多くの人がこの本を手にとってくれることを願っています。
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不破氏が本書で語る内容は、決して情緒的ではなく、データと資料によって織り成され、
積み上げられたものである。専門家の中には、不破氏が提示したデータや意見に対して、
さまざまな感慨や反論を抱く人も多いだろうが、少なくとも、私には新鮮に感じられた。
同時に、本来立ち止まって検証すべき事象に対して、政府や政治、政党や、政治家、
ジャーナリズムが、見抜けなったり、頬かむりしたり、追求しそびれていた時柄が
あまりに多いことも痛感した。
政治は歴史に対して、あるいは過ぎたことや終わったことに対して
「しょうがない」を言ってはいけないのではないか。
何度でも検証し、振り返り、間違いを正し続けるべきものではないのだろうかと、
不破氏の話を聞きながら、何度となく考えた。