<終猟に際して>

猟銃のメンテナンス

北海道の猟宿で猟銃を分解して組み立てられなくなって困っているハンターが居た。何か不具合いがあって調べていたのだろうが、周りの人も他人の銃では迂闊に手も出せなし、分解の途中で細かい部品を気付かずに紛失していることも良くあるので本人が直すしかない。仕方なく翌日の狩猟を休んで150キロ離れた町の銃砲店行きになったようだった。ライフル銃のボルトを分解して元へ戻らないであせるハンターの話は良く聞く。一寸した要領が判っているだけで簡単なことでも判らないと携帯電話で銃砲店を呼び出して教えてもらっても構造を理解していないので上手くいくとは限らない。こんなことにならないように猟期が終わったところで猟銃の手入れを始めよう。この過程で自分の所持銃を扱う要領だけは熟知しておきたい。特に最近は新しく猟銃の許可を受けることが大変面倒になった。「狩猟には1挺あれば充分だろう」・・・「今所持している猟銃を廃銃にしてからにしろ」・・・・「猟期に何回狩猟に出かけて何頭獲ったか」など所轄の担当者から容易には許可しない姿勢で迫られると新たに猟銃を購入する意欲も萎える。 そこで、今持っている猟銃を大切に長く使おう。といっても猟場で使っていると結構傷みも出てくるものだ。しかし、一般に日本のハンターの猟銃は発射弾数は極めて少なく稼動部分の磨耗による損傷よりもメンテナンスの不良による老朽化が目に付くので自宅で出来るクリーニングを中心としたメンテナンスを心掛けよう。私は専らライフル銃による猪鹿猟を長年続けてきた。狩猟を始めるに当たって最初に所持したのが「サコー61R 300H&H」であった。未だ初心者教習射撃制度などなくてデパートの売り場に猟銃が並んでいた時代だ。その時からライフル銃銃身のクリーニングが研究の対象になった。しかし、いくら考えても決定的な方法はなくブロンズブラシとアンモンニア系のソルベントで残滓を掻き落として綿パッチを贅沢にたくさん使って汚れを拭って油を付けて終わることで、正直なところ、この程度のことで銃身内壁にこびり付いた残滓が全て取り除かれたとは思えなかったが、薬室からライトで照らした銃身内部を銃口から除くと銃身内壁がピカピカ光るのを見て満足していたものだった。

やがて、銃身内部を細かく観察できる米国製の銃身内視鏡が手に入り、改めてクリーニングを終えた銃身内部を銃口から薬室まで細かく目視できるようになったとき、今までのクリーニングが如何に杜撰であったかと驚かされたものだった。 その後、自適の暮らしが送れるようになって、狩猟に集中しながらも毎年米国へ赴き銃器メンテナンス用具のメーカー各社のクリーニング用品開発や営業の担当者と色々と意見交換するようになった。最初はどのメーカーの社員も自社の製品の優秀さを吹聴して薦める。製品サンプルや資料の入手も楽になり、米国で売られている殆どのクリーニング用具を試して自分なりに評価することが出来た。実際に自分で使ってみて疑問に感じた点についてメーカーの担当者に直接尋ねることにしてきた。人の話を受け売りする射撃場で見る銃マニアや利害の絡む銃砲店の話は聞かないことにして、自分の足で情報を集めることだ。20年近く毎年会って親しくなってお互いに遠慮がなくなり、こちらの質問も鋭く製品の欠点に触れてくると、先方もつい本音が出てくるものだ。米国ではクリーニング用具だけでも販売シェヤー拡大のための熾烈な競争が日夜続けられている。営業マンに良く見せられる資料に製品別の市場占有率表がある。ソルベントであれば何処の会社の何が一位であるか年度別に一目でわかる。勝った負けたの世界である。しかし、よく売れている製品が必ずしも良いとは限らない。価格,販売方法、広告宣伝力 等々 品質以外の要素も影響してくるものだ。ここで、猟銃を所持して実際に狩猟をしている我々日本のハンターの立場で見ると,実際に使ってみて検証の結果を判断基準にせざるを得ない。こうすることで一つ一つのメンテナンス用具を選ぶ理由が明確になってくる。そこで気付いた事は次の事柄である。

1.ブランドに惑わされない。

2.人の話を鵜呑みにしない。

3.ハロー効果に乗せられるな。

4.流通戦略の犠牲になるな。

1.  ブランドに惑わされるな

有名大手メーカーの会社の成長過程を見てみると,会社が大きくなる切欠になったコア商品が必ず見つかるものだ。一種類のソルベントが爆発的に売れて社名も製品名も全世界に知れ渡り大会社へ成長した会社は会社規模が大きくなると更に売上高の拡大を図るために販売商品の種類を増やす必要に迫られる。設備投資も大きくなり従業員も増えてくると年々売り上げ規模を拡大しないと銀行も融資しない。無限の成長を期待されるのが会社の宿命みたいなものだ。ブランド名が知られているの同ブランドで次から次えと関連商品を売り出してくる。現在の大手のメンテナンス用具メーカーの殆どは化学薬品のソルベントから洗い矢、綿パッチにいたる雑貨まであらゆる製品を網羅している。確固たる流通ルートが構築されてくると新製品を出せば自動的に銃砲店の店頭に並ぶことになる。国際見本市のメーカーの展示場で業者がメーカーの示す商品名が印刷された注文書に仕入数量を書き込んでいる姿が見られる。1社に纏めて注文して購入金額を大きくすると、金額に応じて仕入れ価格が大きく下がる仕組みで問屋や小売店の販売意欲を掻き立てる。 この業者の店に行くハンターこのブランドのメンテナンス用具しか目に入らないことになる。 私が雑誌「狩猟界」で新製品を紹介していたとき、記事に興味を持った読者が、これらの商品を米国旅行中に現地の銃砲店で購入しようとしたが殆どの店に置いていなかったと聞いたのは、私の情報が早かったので、米国市場では新製品を売る前に旧製品を売り払うセールをしている時期であったり、私の選ぶ基準が有名ブランドでなくて品質や機能本位で選び、実際に使ってみた上での評価記事であるからだ。こうした無名の優れた製品を加えて、それぞれのパーツ毎に色んなメーカーから集めて最良の猟銃メンテナンス用具を揃えることが必要である。このようにして見付けたメーカーでも一つの製品が有名になると方々の商品に手を広げて面白くなくなるケースもある。

 

2. 人の話を鵜呑みにしない。

銃身のクリーニング方法には色々とあるのでハンターは自分独自の判断で行っていると思う。ライフル銃を購入したときに一緒にクリニーング・キットを買って店主に使い方を習ったままの人も居るだろう。ところが、何の世界にも教え魔のような人は居るもので、何が良いとか教えられることが多い。教える人は何処かで聞いてきたとか、ネットで見たとかその類が多い。

 射撃場で素知らない顔して、クリーニング法を教えている人の話を聞いて、その人の銃身を内視鏡で見たところ至る所に銅色が歴然と残っていたことがある。銃口から覗いただけでは判らない。本人には何も言わなかったが、この程度まで銃身内壁にコビリ付いた銅は電気分解で浮かして取り除くのが銃身を傷めなくて確実だが、流す電流調節が微妙で米国の開発技術者と何度も意見交換した問題であるが効果のある方法である。銃砲業者の話には利益追求の必要性が真実を歪曲させ、マニアの話には思い込みがあると考えて自分で検証する習慣をつけよう。昔なら何百万円出しても手に入らなかった精度の高い銃身内視鏡や弾速計が猟銃一丁程度の価格で購入できる時代であるので最低限の検証のためのデバイスは備えておこう。

2.  ハロー効果に乗せられるな。

簡単に言うと「一つが優れていると全てが優れていると錯覚すること」が無いように気をつけよう。 或るメーカーのソルベントが卓越した性能を有していることで、他の洗い矢や綿パッチまで全てがソルベントに認められているのと同等の高いレベルの商品である考えないことだ。 多くの商品構成の中には何の特徴もない商品が紛れ込んでいる場合が多々あるので見抜く力を付けたい。それぞれの商品ごとに最良と思われる製品を色んなメーカーから探し出して揃えよう。これは簡単なことのようだが実際は難しいことだ。メーカーは消費者をハロー効果で顧客の「囲い込み」を考えているからだ。小売店は商品をばらばらに仕入れては問屋への支払いも金額が纏まらないし、仕入の価格交渉も不利になる。客には全て有名メーカーの製品であるので文句はなかろう、との姿勢である。 米国の銃砲店で店の置いてないものを、あれが欲しい、これが欲しいと言っても相手にしてもらえないのは当たり前のことだ。

 

4.流通戦略の犠牲になるな。

最近、米国へ行き思うことは十数年前の米国のショットビジネスの世界と今では随分変わったと感じる。特に、9・11以降は激変に近い変わり様だと感じる。ビジネスの仕方だけでなく心のもち方の変化も大きいのではないかと思うことが多い。以前は各社がそれぞれが別々に販売ルートを築いていたのがグループ化されて集約されるケースが普通になった。例えば、ATKは日本で知られているRCBS,Federal,Speerなどの有名なメーカー十数社をグループ傘下に収めて各メーカーの販売、広告、広報、流通を纏めてコントロールしている。展示会ではグループで広い面積を占有して傘下のメーカーのブースを収容して華やかな展示で人の流れを惹き付ける。メーカーが一社で狭いブースで細々と展示するよりは遥かに豪華で集客力が増す。クリーニング用具ではAUTER社がATKグループである。ATKに口座を持つ問屋や小売店は1冊の分厚いATKのカタログ集から色んな分野のメーカーの製品を選んで注文すれば手間も省ける。自然にグループに入っていないメーカーの商品に疎くなる。私は米国のバラレル・スミス(銃身交換専門の銃砲加工店)へ銃身交換を依頼していた時期があった。銃身交換を終えたアクションを送り返してくるときにクリーニングの方法も丁寧に書いてくることもある。米国ではライフル銃身は消耗品でマッチグレードでも送料込みで600ドルの世界である。安いのなら300ドルでもある。業者としては精々傷めて何度も交換して欲しいのが本音であるが、日本からでは大変だろうと長持ちする方法を丁寧に教えてくれるが、日本では手に入らないソルベントや小物の名が書いてあったりする。仕方が無いので米国のメーカーと直接話をするようになったが、米国では日本の銃砲所持規制の厳しいことが知られていて、ライフル銃など持つ人は稀で需要がなく、市場拡大の期待が出来ない日本の市場には興味が無いと言う。 業者ではなく、猟暦の長い現役のハンターで、狩猟雑誌のアウトドアー・スポーツライター&ポートグラファーと言うことで懇意になり、有名無名のメーカー各社から興味の或る商品や情報の提供をうけることが出来るようになった。 

こうしたことを念頭において、来月から具体的にライフル銃のクリーニング方法について考えてみたい。

                                                   来月に続く・・・