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経理マンの心得 - 会社の会計を引き受けるということ

仕事柄、クライアントから経理マネジャー候補の面接を依頼されることがあります。しかし、会社の会計を引受けるという覚悟がこちらに伝わってこないこともよくあります。それでは会社の会計を引受ける覚悟・知識・経験とは何を意味するのでしょうか?

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会社財産を保全し負の財産を抑止する

  •  第一に、会社財産を保全し負の財産を抑止する(Safeguarding of Company Assets)という覚悟です。請求すべきものは直ちにもれなく請求し、請求書単位で記帳して入金状況を把握し、入金されるまでフォローする。発注も購入もしていないものについて請求を受けても支払わない。同じ請求書について重複支払をしない。仕入先毎の仕入実績を把握しておき、値引交渉の材料とする。あなたが自ら事業を行っているとすれば必ず実行しているはずのことですね。これを実行するためにはアクションに結びつけられる形でのデータ管理が必要です。これらは会社財産の保全の基本で、これを常に実行する仕組みが内部統制(Internal Control)と呼ばれるものです。ところが会社という組織においてはこれらのことは積極的・意識的に行わないと結局行われないままとなってしまうのです。取引量が多くデータ管理が難しくなるという理由のほかに、会社という協同体の利害と、その機能の一部を司る部分組織の利害とが必ずしも一致しないために内部統制が機能しにくくなるという場合もあります。もちろん、例えば営業部がある顧客に対する請求書の発行を遅らせたという場合、営業部という部分組織はその個別利害を前面に押し出してそのような行為を行うわけではなく、会社という全体組織のために長期的観点から行ったという理屈付けを用意しているはずです。しかし、経理部は会社という全体組織の利益を守っていかなければなりません。部分組織が情報の透明性を欠いたまま全体組織の利益を守れるとすれば、社長はいりません。内部統制がうまく機能しているかどうかを常にウォッチし、問題があれば報告し、代替案を提示し、合意を得て、手直ししていくことが必要です。

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事実を事実として認識し報告する

  •  第二に、事実を事実として認識し報告する覚悟です。経理責任者はつねに様々なプレッシャのもとで仕事をすることになります。社内の他部門からのプレッシャ、社長からのプレッシャ、親会社からのプレッシャなどです。経理責任者はどんなプレッシャのもとでも、まず、事実を事実として受け止め、その事実にもとづいて報告し、対処の方法・時期を提示していく姿勢を保持しなければなりません。予算に合わせて実績をねじまげて報告する、予算と実績の差異分析の説明がつかないので実績を予算にあわせる。このような逆立ちした行為は一度行うと脱却することが大変困難になります。実際の取引を記帳しなかったり、架空の取引を記帳したりすることは嘘をつくことと同じですから、特に複式簿記制度のもとでは、必ず他の架空取引を誘発します。正しい状態に戻すためだけでも、もう一つの架空取引を捏造しなければなりません。これらの処理は単純な事務ではありません。伝票の起票、小書き、サポート資料、承認、入力、処理タイミング、これらに関する想定問答そして実際の質疑。これらのすべては秘密と矛盾の要素を含むため、単純であるべき処理が多大の神経を使う高度な処理に変質してしまうのです。このため、架空処理はハイレベルのスタッフに限定して担当させることになりますから、経理事務を高コスト化します。そればかりか、次第にそして確実に社内での経理部の地位を低下させ、部下のモチベーションを失わせていくことにもなります。経理責任者は事実を歪めようとするプレッシャと戦う覚悟をもっていなければならないのです。3年間戦いつづけてもプレッシャが変わらなかったら、その時は、部下に謝って、会社を変わりなさい。そのような転職はあなたのキャリアを傷つけません。

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税法の内容及び手続きに関する基礎的理解

  •  第三に、法人税法・消費税法・所得税法の内容及び手続きに関する基礎的理解は会社の会計を引受ける上で不可欠であると言わなくてはなりません。なぜなら、租税はあらゆる取引に陰のように付き纏い企業の最終的な経営成績を左右する単独最大の費目だからです。税金面からの疑問を発することができること、この役割は社内外を見渡したとき経理責任者に代われる人はいません。疑問を提起し、問題点を要約整理し、必要ならば外部の専門家に相談し、解答が会社の題意に適合したものであるどうかを吟味する。そのための基礎的理解が必要なのです。法人税法を例にとってみると、実効税率を計算できること、そのために事業税・法人県民税・法人市町村民税の税率及び計算メカニズムについて説明できること。租税公課、貸倒引当金・賞与引当金・退職給与引当金の繰入限度超過額、接待交際費、利子に係る源泉所得税・利子割を要素として法人税別表4、別表5(1)及び 別表5(2)を関連付けながら書けること。中間及び確定申告納付期限をしっかり体で覚えていることなどがあげられます。源泉所得税の納付が1日遅れただけで、本税の10%の不納付加算税が課せられます。会社財産の保全はこのような知識が欠けていては不可能です。この程度の素養もない人に会社の経理を任せることができるでしょうか。

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コスト意識を持って経理をする

  •  第四に、コスト意識を持って経理をする覚悟です。経理におけるコスト意識とは、ある数値の利用精度を考えて、満足水準以上のコストをかけない心がけと言いかえることができるでしょう。企業会計原則にうたわれている「重要性の原則」の、実務者版と言ってよいかもしれません。経理人員を一定に保っていさえすれば事足りるわけではありません。例えば、適切な指示によって部下の残業を大幅に減らすことができます。部下を育てるという大義名分のもと、必要な精度を超えて延々と限界効用の低い作業を続けさせるマネジャーが見られます。このようなマネジャーに限って、部下がいい仕事をしても気がつかなかったりするものなのです。また、時期に遅れた報告は報告の価値を減殺します。報告の時間価値と精度のトレード・オフを衡量し、リスクを自分で引受け、タイミングを優先しなければならないこともあります。このような会計精度上のメリハリや会計報告上のリスクテイキングは、データの会計的・制度的意味の明確な理解の上に立って初めてつけられるものです。経理マネジャーが経理においてマネージするもの、その重要な部分がここに含まれていると考えられます。

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ひとつの表計算ソフトを駆使する

  •  第五に、ひとつの表計算ソフトを駆使できることが必要です。表計算ソフトと言えば今やマイクロソフト社のEXCELを挙げないわけにはいきません。EXCELをはじめ表計算ソフトはデータの容れ物であると同時に、これを操作するための関数・コマンド・マクロを備え、そして報告を分かりやすく表現するための書式から成り立っていると言えるでしょう。データを速く正確に要約する。大規模な数億円もする統合管理ソフトがありさえすればどんなデータでも出してみせる、と従業員100人に満たない会社で豪語する人に会社財産の保全は期待できません。必要な場合には自分でソフトを組上げ、コントロール上の弱点を当面補強する道具として提供できること。販売管理ソフトがないから売掛金の管理ができない。仕入管理ソフトがないから支払事務処理で精一杯でそこまで買掛金管理ができない。ソフトがないから、人手が足りないから、時間がないからと言い続ける人に会社財産の保全はできません。

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ポリシー・メイキング、ルール・メイキングと合意形成の能力

  •   最後に、しかし重要なものとして、ポリシー・メイキング、ルール・メイキングと合意形成の能力。これらの能力は欠かせません。これは上に掲げてきた能力の基礎の上に発揮される能力です。今あるリソースを見極めてそれを生かしきったコントロールを社内手続きとして提案し、合意・納得を得ていく。このような観点をもった候補者と、限定条件を挙げるばかりで、できない理由を用意しようとする候補者とが目の前に並んでいるとしたら、あなたはどちらを採用しますか?

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