このエッセイは、以前、日記に書いてあったものを加筆訂正したものです

とある秋の日曜日、僕は大通りをバイクにのって、スピードを出して走っていた。

ふと、道路の端から1mくらいの車道の方に、何か物体があった。

通り過ぎざまちらりと見ると、それは傷つき飛べなくなった鳩だった。

僕はおもわずびっくりしつつも、通り過ぎてしまった。

そして、かわいそうだけどどうするか と思ったあと、車にひかれる前に別の場所に移してあげよう と思い、思い切ってUターン禁止の警察署前でUターンをし、その鳩の所に戻っていった。

鳩は、まだひかれてはいなかったようで、僕は少し安心をした。

けれどかわいそうに、骨が折れているようで、人間で言う横座りの状態で、動けない様子だった。

けど、意識はまだしっかりしているみたいで、僕を見て、くちばしを少しぱくぱくさせていた。



「おそらくもう飛ぶことは出来ないだろうし、動くことも出来ないだろう。けれどこのまま車にひかれてはかわいそうだから、横の公園のところの花壇においてあげよう」

そう思って、動けなくなった鳩をそっと両手で拾い上げると、やっぱり骨が折れているような感触があった。

そして、できるかぎりやさしく鳩を花壇の所に移してあげた。

悲しいことだけど、これ以上何も出来ないと思った僕は、その鳩に向かって「治してくれる人が来ればいいけど」とつぶやいた。

そうすると、その鳩は僕を見て、また口をちいさくパクパクさせていた。

僕は後ろ髪を引かれつつ、またバイクに乗ってその現場を立ち去った。



なぜか、ものすごく悲しい気分になっていた。

おそらくその鳩は死ぬだろうことがわかっていた。

たとえ、獣医さんに連れて行ったとしても、おそらくなすすべはないだろう。

痛みに耐える鳩の姿を思い出すと、ほんとうに悲しかった。




そのあと、目的地にたどり着いた僕は、喫茶店でコーヒーを飲むことにした。

時間が余っているのと、なぜか心を落ち着けたい気分だったから。

席は空いていたので、明るい席を見つけて座ると、ようやくすこし落ち着いた気分になった。



そして、持ち歩いている本を読みながらコーヒーを飲んでいると、テロの戦争のニュースが流れていた。

鳩が一羽傷ついているのを見るだけでこれだけ悲しい気分になるのに、戦争はそれ以上の悲劇を起こすんだろうと思うと、また悲しくなった。

鳩のことが頭からあまり離れず、読んでいる本も頭を素通りしてゆく感じだった。



しばらく時間が経っていた。

ふとした一瞬の出来事だった。

小さな白いものが僕の方に飛んできた。

「蚊か?」と思って、僕は身を少しよじった。

けれど、それはあきらかに「蚊」ではなかった。

僕の右肩の方に向かってきたと思ったら、すぐに視界から消えてしまった。

僕は、何が起こったのかわからず、その場で飛んできた白いものを探した。

まわりのお客さんや店員さんが、きょとんと僕を見ていた。

いくらまわりを探しても、白いものは見つからなかった。。。




釈然としない気持ちでまた本を読み始めたけれど、よく考えてみたら、おそらくそれは鳩がなくなったことを知らせてくれたのでははないかと思えてきた。

どうもその白いものは、1,2cm程度のかわいくて白い光の玉のようだった。

一瞬だったけど、ふわふわと僕の右の肩にとまろうとしていたように思える。

けれどもそれを確かめるすべもなく、僕はそのまましばらくぼう然としていた。。。

それは午前10時過ぎの明るい喫茶店での出来事だった。



お昼を過ぎて帰り道、僕はその鳩を移した公園の花壇の所に行ってみた。

鳩は静かに横たわっていた。

僕は、なぜか涙があふれてきた。

ただ、むしょうに悲しかった。

そのままにしておくのはあまりにも忍びなかったし、また、ヘタに埋めるのもあやしまれてしまうので、僕はコンビニに行き、買い物をし、ビニール袋をもらって公園に戻り、その鳩を人目の触れぬようにそっと袋の中に入れてあげ、焼却炉のそばにおいてあげた。

そうするとなぜか僕の気持ちも、すこし救われたような気がした。


余談だけれど、ときどき、バイクで走っていると、鳥の羽がひとつ前から落ちてくることがある。

そのたびに僕は、あの鳩が守ってくれているのかなと思って、スピードを控えて走るようにしている。

そういう気持ちがあるせいか、交通事故をすることなくいられているのかもしれない。

 

けれど、あの白い光の玉は、なんだったんだろう。。。


 

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このエッセイは、以前、日記に書いてあったものを加筆訂正したものです

2003/9/28アップ