アイススケート


とある冬の寒い日、仕事で地方へ行ったときに、久しぶりにアイススケート場(鈴鹿サーキット)に行ってみた時のかなしい話です

 ほんとに、久しぶりのアイススケートだった。夕方にもかかわらず、けっこう人がいた。40〜50人くらい、いただろう。みな、家族連れや、カップルや、サークルみたいな若い男女の集団ばかりだった。リンクのみんなは全員、貸靴をはいていた。そのリンクサイトで一人靴を履いていると、自分一人だけがホッケー用の靴をはいているので、スケート場ではとても目立つことに気がついた。通りすがりの人たちがみんな、僕の靴を見て驚いたような顔をして、立ち止まるのである。ほとんどの人が靴だけを見て、「この人はうまい人だと、勝手に誤解するみたいである。チラリチラリと、からみつく視線がすこし気になる。そんなに人が想像するほどうまくないので、困ってしまう。 知らないふりをして、リンクにたつことにした。

 けっこう、久しぶりだったので、感覚を忘れていた。だから、はじめはゆっくりと滑りはじめて、棒立ち状態でとぼとぼ歩いていた。僕を見ている人たちは、「なぁんだ」というような顔をして、僕を見るということもなくなってきた。やれやれと思った。でも、滑っているうちに、だんだんとなれてきて、次第にスピードを上げると、子供たちが一斉に振り返る。カップルやグループできている人もこっちを見てくる。気にせずにずっと滑っていたけれど、なんか監視されているようで、とても居心地が悪かった。正直やりづらいのである。誰かに教えてくれなんて言われると、へたくそなのに教えようがないから、とても困ってしまうので、黙々とひたすら滑ることにした。

 そうしていると、ようやく氷の上にも慣れてきた。ウオームアップが終わったので、次はスピードを上げて、今度は滑るのではなく走るのである。2,3周してふと気づけば、リンクを滑っているのは自分だけだ、ということに気がついた。あとのお客さんはどこに行ったのかなとまわりを見渡せば、みな僕が滑るのを見ているのである。もう、氷に穴を掘って隠れたくなった。

 仕方がないのでゆっくり滑っていると、小学生くらいの女の子の集団が、こっちをずっと見てなにやら話をしていた。あまりにも気になったので、少し聞き耳を立てたらこういう会話が聞こえてきた。「かっこいい人やで!なぁ」
 しばらしくたら、近くに寄ってきた。そして、いきなりの黄色い声
「キヤーどこがやねん!」

 また、どうしてもスピードをつけないと練習にならないので、スピードを上げてブレーキングの練習をし始めた。こうなると最後は開き直りである。じろじろ見られたって構わないやと思って、スピードを上げていきなり止まるのである。舞い上がる氷と派手な氷を削る音がするので、こうなると、見せ物になってしまう。もう、動物園のパンダ状態。一挙手一投足見られ続けるのである。 精神的に開き直っても、やっぱりとてもやりずらい。 じろじろみられると、やっぱりイヤでも緊張する。この練習はかなりスピードを出すので緊張はよくないなぁと思っていたら、スピードが上がったとき、いきなりバランスを崩してしまって、お尻から派手にズデーンと大転倒して「ドカン」という音とともに壁に激突! 立ち上がってまわりを見ると、スケートリンクのお客さん全員がこっちを向いていた・・・ (ToT)