大盛りご飯

食欲の秋シリーズ

 以前、ひとり、フェリーで高知県に行き、自転車(MTB)で高知のあちらこちらを旅行したことがあります。桂浜、高知城、坂本龍馬の記念館から、ずっと高知湾湾岸沿いをMTBで走り続け、武市半平太のお墓などを見てきました。そして、そのあと、猛烈な空腹感におそわれはじめてしまいました。それで、ずっと食事のできるところを探していたのですが、なかなかなくて、結局、市街地の近くまで走ることになりました。おなかが空くと、まったく自転車(MTB)をこぐペダルに力が入らないんですね。そしてようやく、ふらふらになりながらも、食事のためにレストランのような雰囲気の食堂を見つけ、入りました。

 このときは、もうすでに餓死寸前だったので、もうなんでもいいからとりあえず、適当に量の多そうな定食のご飯大盛りを頼みました。テーブルのイスに座っていても、もう力が抜けてグニャグニャな状態でした。いまか今かとご飯を待ち続けていたのですが、しばらく待つと、女子高生と思われるアルバイトの店員さんが、定食を持ってきてくれました。その定食の出てきたご飯は、「これが本当に大盛りなのかな」というくらいの微妙なご飯の量でした。

どうしても、胃袋をご飯で目一杯充満したかった僕は、「すみません、これは本当に大盛りなんでしょうか」と聞きました。もってきてくれた女の子の店員さんは、けげんそうな顔をして「そうですけど」と言います。後で考えると、僕はもう、餓死寸前で危篤状態のような顔をしていたと思います。そんな僕の顔つきを見て気がついたのか、「ちょっと待って下さい」といって、調理しているところへご飯をもって帰ってしまいました。おなかが空いて死にそうなときに、出された飯を引っ込められるのを見るって、これほどつらいことはありません。苦痛ににた心境でした。ちょうど、別の店員さんがほかのお客さんへ、ご飯を持ってゆくのを見たのですが、やっぱり、あれはちゃんと大盛りだったようです。なんだ、大盛りだったのなら、いらないことを言わなきゃよかった、って思っていたら、すぐに僕のご飯が帰ってきました。それも、おっきなどんぶりばちに、見上げるばかりの超ウルトラてんこ盛りのご飯を持って・・・

 一目見た瞬間、「こんな大盛りご飯は見たことがない!これは喰えん!いくらなんでも多すぎる!!」と思ってしまいました。が、店員さんは、ひたすら笑顔、笑顔、笑顔それも満面の笑顔!! 空腹で悲惨な顔つきをした僕なら、これくらいは食べることができるだろうと、気を使って、どんぶりばちに変えた上で超ウルトラてんこ盛りにしてくれたようです。とってもこころの優しい女の子だったのでしょう。かわいくって純朴な笑顔を、僕に投げかけてくれていました。その上、ご飯はきちんと押しつけられて圧縮されていました。ご飯3.4杯くらいはあったはず。いったい、僕の胃袋はブラックホールと間違えられているのかなと思いました。けれど、持ってきてくれた店員さんのにこやかな笑顔には僕はきちんと心を込めて「ありがとう」といいました。その店員さんは、至極満足げなほほえみを僕に向けて、ご飯を置くと立ち去ってゆきました。

 そして、一人残された僕は、まじまじと超ウルトラてんこ盛りのご飯をみて、考え込みました。たくさんの考えが頭をよぎりました。どうやって食べよう、食べれるだけ食べてご飯を残すしかないか、でも、店員さんの心はほんとうにとてもうれしい、けど、ほんとうにマジで全部食べたら悶死しそう・・・ でも、やっぱり、喰わなければ男がすたる!え〜〜い!!一か八か、頑張って食べ切ってやろう、と決心しました。そして、必死で食べはじめました。

 真っ白な超ウルトラてんこ盛りのご飯を、上の方から崩れないように食べはじめたのです。でも、食べても食べても、ぜんぜん減らないご飯でした。途中で、涙が出てきました。いきおいよく食べていたので、むせそうになったのです。目に涙を浮かべながら、てんこ盛りのご飯を必死に食べる僕を見て、横のお客(カップル)はどう思っていたのでしょう。もちろん、おかずもおみそ汁もありました。でも、おかずもおみそ汁の量も、ご飯の量が多すぎて、すぐになくなってしまい、最後はやっぱり、ご飯だけを食べ続けることになりました。ただ、ただ、ひたすらご飯だけを食べ続けていました。半分過ぎには、胃袋はとうに限界を超えていたのですが、まだご飯が残っていました。食べても食べても、目の前にあるのはまっ白なご飯だけ・・・

 最後は、何度ものどがつかえ、目を白黒させながらも、なんとか食べ終わりました。こんなにご飯を喰ったのは、生まれてはじめてというくらい食べました。食べる前は、おなかが空きすぎて死にそうだったのですが、食べたあとは、おなかがふくれすぎて死にそうになってしまいました。食べる前も悲惨な顔だったのですが、食べたあとも悲惨な顔だったと思います。えらく、悲惨な食前食後でした。

このあと、少しだけ続きの話があります。
はち切れんばかりのお腹を抱えて(妊婦さんみたいだなぁ)店をあとにすることになるのですが、店の前にとめてあった僕のMTBがなんと、パンクしていたのです。
おもわず、
「きっと、僕のおなかの代わりにパンクしてくれたんだろう」って思ってしまいました。

で、店の人に「自転車屋はどこにありますか」って聞いたら、「自転車だったら早いけど、歩いていったら1時間はかかるよ」っていわれてしまいました。さらに、悲惨な食後の出来事でした。