初めてのスキー

よくあるお恥ずかしい話です。

むかぁーし、彼女と生まれて初めてのスキーにゆきました。はじめて見るスキー場はとても新鮮でした。んで、 彼女はボーゲンで滑れるのですが、こっちは生まれて初めて長い板をつけられて大パニック状態。 僕は、彼女に少しだけ止まる練習、ボーゲンを教えてもらい、あと3時間ほど一人で初心者コースで滑る練習をしていました。

けれど、ずっと一人で滑っていてさみしそうだった彼女に「大丈夫だから」と引っ張られて、ぜんぜん滑れないのにリフトに乗って上まで行きました。 ほとんどリフトの営業終了時間くらいに乗ったので、リフト待ちもありませんでした。 生まれて初めてスキー場のリフトに乗って見る景色は、一面の銀世界でいたく感動!リフト降り場付近からの眺めは、ほんとにもう最高の気分!!でした。

が、しかし、もう既に4時半を過ぎていましたので、薄暗くなりかけていました。 滑り始めたら、上のほうの斜面はものすごく急で(今思えば初級者斜面)10mも滑れなくてこけて、もらいもののボロボロの板がはずれてはまたつけるという繰り返し。 仕方がないので、直滑降で降りようとするも、バランスを取ることもできず、転倒、板がはずれてはつける繰り返し。 生まれて初めてつけたスキー板だから、つけるのもおぼつかないので時間が過ぎるばかり。

ついに、日が暮れはじめてきました。 ものすごく急で恐ろしい斜面ばかりが続き(初級者斜面)、横の彼女もいらいらし始めているのがわかってきたので、こちらもあせるばかり。 何度もトライするも、汗だらけになろうとも、さっぱり滑れず。 彼女と二人、途方にくれてしまいました。

気がつけば、数人が僕のまわりでうまい滑りを見せつけてくれています。 僕のすべりを観察するかのように、先へいこうともせずに、ずっと僕と彼女のちかくにいます。 ちくしょーと思いながらも、必死に斜面と格闘していると、その中でも体格のいい人がやってきて、「ここから、この調子で下山すると完全に日が暮れて、コースが見えなくなります」と話しかけてきました。 よく見るとまわりの人たちは5.6人とも同じスキーウエアを着ていました。 それも、 「PATROL」の文字が背中についていました。 なんと、スキー場のコースの最後を見回りをしている人たちだったのです。

日が暮れるといわれても滑ることができないので、仕方がないので歩いて下山しようとして「板を担いで下まで歩いて下山します」というと、 「歩いておりたら1時間以上かかってしまい、コースがまったく見えなくなってしまって遭難してしまいますよ」といわれました。
もうまわりはサングラスをかけているかのように薄暗く、時間は5時をとっくにを過ぎていました。 困ってしまって、
「リフトは・・・」というと、「もう営業時間は終わって、とまってしまっています」と言いにくそうに言います。
ぼうぜんとしている僕の横にいる彼女も、どうしていいのかわからず、同じようにぼうぜんと立ちつくしています。 滑れないのにどうやって降りればいいのか、ひょっとして遭難してしまうんじゃないか、 えらいところに来てしまった、こんなことになるなら、来るんじゃなかった、スキーなんてやらなきゃよかった、そんな思いが一瞬のうちに心をよぎりました。

言葉を失ってしまっている僕たちに、その体格のいいパトロールの人が、「僕がおんぶしますので、板をはずしてください。 板は別の隊員に持ってもらいますから」といいました。 ええっ、おんぶするっていったって、その時の僕の体重は、今までの体重人生のピークの75kg!正確な表現では、

75kgのおとこをおんぶするなんて・・・・。 「重いです、75kgくらいあります」と、われながら本当にカッコわるい言葉だなぁと思いながらいうと、 「えぇっ!!75kg!?うーーん、 でも、仕方がないので、休憩しながら滑ります」と力強く言います。 もう空には星が輝きはじめ、暗闇が僕らのまわりに降りてきていました。 僕には、もうなにも選択肢は残されていませんでした・・・。

そして、彼女がいる前で、板を外し、彼女のいる前で、ストックを預け、彼女の目の前で、その彼氏の僕がパトロールの背中におんぶされる・・・。 何回か休憩を取り、下に降りてきたときはもう真っ暗寸前でした。 ゲレンデを照らす水銀灯のあかりが、なんともかなしくもまぶしかったのが、今でもはっきりとおぼえています。

あぁ思い起こせば、僕の初めてのスキーデビューは、救助されることからはじまったのです。 それも、彼女の目の前で、スキー場のパトロール隊員の背中におんぶされて・・・。
あのあと、宿舎に戻る二人には会話がありませんでした・・・・。 <終>