この世界の創生と共に、二振りの剣が生まれる
ひとつを『光の剣』
ひとつを『闇の剣』
剣は主を選ぶ
『光の剣』は『暁の王』を
『闇の剣』は『夜の王』を
ふたつは対であり
ふたつはひとつ
それは、あわせ鏡の『昼の国』と『夜の国』と同じ
長い戦いの末、
『夜の王』、『暁の王』に討たれん
彼の君、『夜の国』にて永き眠りにつかん
主なき剣たちもまた、しばしの間、眠りにつかん
それを護る者あり
『光の剣』は『明星の君』に
『闇の剣』は『夕星の君』に
君の護る剣、眠りより覚めれば
いつの日か主の元へ還されん
『暁の王』
『夜の王』
『明星の君』
『夕星の君』
時満ちれば必ず出逢う
約束の・・・ラグナロクの日
それは、定められた運命-------。
空白の王国
『光の剣』は夜毎にアスランに失われた過去の時間を見せた。
古の戦いを。
そして・・・失っていた記憶を。
あの日と同じ鳥がキラの肩に居る。
毎夜、塔の最上階にある自分の部屋を訪ねてくるアスランを、キラはもう拒まなかった。
「・・・普通、使い魔っていうのはもっと目立たない鳥を使うもんだ」
アスランは苦笑する。
鳩、鷹、烏・・・・。
魔法使いが自らの使い魔とするのは、大抵、何処にでも居て、周囲に違和感を感じさせない鳥だ。
こんな、一羽でも目立つ色の小鳥を使うだなんて、聞いたことがなかった。
「・・・別にいいだろ。人の趣味にけちつけないでよ」
ぷい、と彼はアスランに背を向ける。
「・・・『キラ』」
そう呼ぶと、魔法使いの肩が揺れる。
それを見逃すアスランではなかった。
「君・・・全部想い出しちゃったの」
自分がアスランに本当の名前を告げたのは、たった一度だけ。
あの森に閉ざされた塔の上で、この小鳥をもらった代償として彼に強請られたあの時一度だけだった。
彼が、その名で自分を呼ぶということは、消した筈の当時の記憶を想い出したということに他ならなかった。
震える声のキラを、アスランはそっと抱きしめる。
「・・・想い出したよ。全部」
やはり自分の予想は正しかったことをアスランは悟った。
「あの『魔女の森』の塔に居た君が・・・どうしてこんな所に・・・」
しかし、キラは口をつぐんだままだった。
「・・・逢いたかった。幼いあの時、俺はまだ君への気持ちが分からなくて。まさか・・・『俺の運命の人』だとは思わなかったから」
躯を離そうと、キラは小さく身じろぎをする。
しかし、アスランが腕を緩める様子はない。
「・・・君には関係ないだろう」
「関係あるよ。俺を身ごもった時・・・母は預言者から告げられた。俺が・・・『光の剣』の主、『暁の王』の転生だと」
剣は、『光の騎士』・・・後に、姉姫を娶り、『光の国』の王となった『暁の王』の生涯をアスランに見せた。
その真実は、同時にアスランに酷く重い宿命を背負わせた。
けれど・・・この愛しい人ともう一度と出逢う為に必要な代価だったとしたら、安いものだったのかもしれなかった。
鳶色の髪を梳くアスランの瞳には優しい色が湛えられている。
「剣の眠りを護り、魔王と共に『夜の国』へと下った『夕星(ゆうづつ)の君』。
君なんだろう?・・・『暁の王』である俺が本当に愛した人は」
細い肩に手をかけ、強引にこちらを向かせる。
「・・・君は、信じているの?僕らがあのふたりの生まれ変わりだということを」
アスランを見あげるすみれ色の瞳は・・・初めて出逢ったあの日のように、美しい色だった。
「すみれ色の瞳の姫君が欲しいな。・・・あの塔に幽閉されている、囚われの・・・夕星(ゆうづつ)の姫君が」
「いくら君が『暁の王』だとしても・・・勝てる保障なんてないじゃないか」
腕に受けた衝撃に顔を顰めるアスランは、躯を起こそうとするが睨みつけたアメジストに阻まれる。
「来ないで!・・・帰るんだ。君の世界に」
アスランはその時初めて・・・キラの真意を理解した。
「姉さんを・・・頼む」
アスランが最後に見た顔に浮かんでいたのは、儚い笑みだった。
「僕らが・・・あのふたりの生まれ変わりなんだとしたら・・・やっぱり待ち受ける未来は悲恋なんだよ。きっと」
「・・・・キラっ!!」
すべてが白い閃光に包まれ・・・そして消えた。
*Comment*
プロローグはふたりの子供時代のお話で、以外に長くて入りきらなかったので・・・・思い切り話の途中を抜粋しました。(苦笑)
掲載したのは既にお話の中盤です。
実はアスランとキラが出逢うまでにもいろいろと紆余曲折はあったりして・・・。(笑)
でも、一番書きたかったアスキラのやりとりシーンなので、雰囲気だけでも伝われば嬉しいです。
このお話は、本編とはまったく設定の違うパラレルです。
ファンタジー系のお話をよく読まれる方には設定がヌルいと言われるかもしれませんが(汗)あたしのお脳ではこれが限界でした・・・。
プロットを考えたのが去年の夏だったので、DESTINYキャラはひとりしか出てきません。
その人が夜の王・・・魔王だったりします。
だれかは・・・・本を見てのお楽しみということで。
ごらんのとおり、キラの性格はけっこうキツ目です。
元々は優しい子なんだけど、いろいろなものをひとりで背負わされているが故に、こうなってしまったものと思われます。
でも、流されてばかりのキラよりもあたしは自分の運命に立ち向かっていくキラの方が好きだったりします。
こういう世界観もお楽しみいただければ幸いです。
2005.Aug 綺阿。
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