
皇暦二〇一八年、神聖ブリタニア帝国から独立を宣言したした『合衆国日本』。
かつて、ブリタニア帝国の植民地となり、その国の名を、歴史を、誇りを奪われ、『イレブン』という蔑んで呼ばれた日本人は…大国を相手に戦うことを決意する。
その先陣に立つ指導者の名は『ゼロ』。
一度は大国ブリタニアの前に散ったかと想われた彼だったが…一年の後、彼は華麗なる復活を遂げた。
ゼロは、エリア十一…旧日本だけではなく、ブリタニアの支配下におかれた多数の国の人たちに支持された。
そして…長きにわたる反乱は…黒の騎士団と合衆国日本の勝利に終わり…巨人はついに倒れたのだった。
国民の前で神聖ブリタニア帝国第九十八代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは処刑された。
そして、彼の手足となって各地を統治していた国王の子供である皇子や皇女たちも次々と黒の騎士団の軍門に下りっていた。
第一皇子オデュッセウスや、最後まで抵抗を続けた第二皇子シュナイゼルも…亡き者となっていた。
「…枢木スザク」
肘掛に片肘をつき、頬杖をついて玉座で居丈高にかまえている少年。彼こそが、その手で神聖ブリタニア帝国を倒した反逆者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだった。
ブリタニア国王の皇子である彼は…自ら実の父を殺し、自らの祖国を滅ぼした。
彼が何故、そのような行動を起こしたのかを…スザクは誰よりもよく理解している。けれど…ブリタニアの騎士として生きる道を選んだスザクは、今はルルーシュから誰よりも遠い位置に居た。
「ナイト・オブ・ラウンズ唯一の生き残り」
そんな称号など昔のふたりの間では必要がなかった。
ただのスザクとルルーシュでいた幼い日はもう遠い。
今は…新しい国の王と、彼に滅ぼされた国の生き残りでしかない。
「…選ぶがいい。今は亡きブリタニアの騎士として死ぬか…我と共に生きるか」
そう言って、ルルーシュは玉座にたてかけられていた剣を手にとると、すらりとそれを鞘から抜く。
磨き上げられた長剣はその刃に光を受けて美しく輝く。
白刃をしばらく眺めた後、ルルーシュはそれを跪いたままのスザクの前に投げた。
「…ルルーシュ…様っ…!」
「カレン!」
敵に武器を与えるだなんて…もし、スザクがそれを手にして襲いかかったらどうするつもりだ!と思わず一歩前に進み出るカレンを藤堂が止める。
「……」
そのやりとりを、黒い長衣を纏い、玉座に行儀悪く持たれていたCCは冷めた瞳で見つめていた。
『枢木スザクにギアスの力を使え』
かつて…ルルーシュにそう進言したことがあった。
しかし、彼はそれをきっぱりと断った。
それはギアスの力など使わなくてもスザクが自分の言葉に従うとルルーシュが考えていたからだ。
かつて、神根島でゲフィオン・ディスターバーの効力によりスザクの駆るナイトメア・フレーム、ランスロットの動きを止めたルルーシュだったが…ブリタニア軍の姦計に陥り、進退窮まったことがあった。
ブリタニア軍部は、スザクもろともルルーシュ…いや、ゼロをミサイルの一斉正射により殺そうとしたのだ。
何度も『おまえを犠牲にしようとする軍部の言葉になど従う必要ない!』そうスザクを説得したものの、彼はゼロの言葉には頷かなかった。
その、絶体絶命の窮地にルルーシュは一度だけギアスの力をスザクに使った。
『生きろ!』
ルルーシュがスザクに命じたことは、自分の助命ではなかった。ただ、自分のために生命を大切にしろと、スザクにそう命じたのだ。
絶対服従のギアスの力に抗える人間など居ない。スザクはその言葉に忠実に従い…ギリギリのところでルルーシュに向けていた銃を捨てた。そして、ランスロットのコックピットに捕らえていたルルーシュごと、神根島を離脱したのだ。
たとえ、自分の生命を犠牲にしてもゼロを討つと決意していた自分が、どうして軍部の命令に離反してゼロを逃がしてしまったのか。それは、長い間スザクの心にしこりとなって残っていた。
それが…スザクの意志ではなく、他人を思うとおりに操るゼロの持つ魔力であったということを…彼は後にCCと同じ能力者、VVに教えられた。
スザクはその後、ジェレミア・ゴットバルトのギアス・キャンセラーの力によって、ルルーシュが使ったそのギアスの履歴を消されている。
ギアスの力を行使した痕跡が残っていないということは、つまり、ひとりに対して一度しか行使できない筈のギアスの力を…ルルーシュはもう一度スザクに対して用いることが出来るということだ。その可能性に、ルルーシュだけではなくCCも気づいていた。
(…同じ轍をもう一度、繰り返すつもりか?馬鹿だな。ルルーシュ)
心のうちでCCは呟く。
(それとも…再びあいつにギアスの力を使う覚悟が出来たか…?)
この世界での生活も長くなり、多少は人間らしい感情を学習したCCだったが…やはり、時々どうしても理解できない感情がある。
どんなに側に居ようとも、ルルーシュのスザクに対する気持だけはCCには理解できなかった。
「……」
じっと、真紅の絨毯に跪いたまま、スザクは身動ぎひとつしない。
その場に居た誰もが固唾を呑んでその動向を見守る中、ルルーシュもまた、表情を変えず玉座にふんぞりかえって彼の行動を待っていた。
(…スザク)
心の中で、彼の名前を呟く。
本当は…彼と戦いたくなどなかった。
互いに信じる正義が違ったため、戦うことになってしまっただけだ。その無為な争いに決着がついた今、自分とスザクが戦う理由などどこにもない。
(だから、俺の手を取れ)
ルルーシュは心の中で祈る。
これまで、どこに居るか分からない神に祈ることなど一度もしなかったルルーシュが…初めて、自分以外の誰かの助力を願った。
もし、スザクが自分の意志で自分の手を取らなければ…ルルーシュは彼を敵国の騎士として処刑するか…ギアスの力で自分に服従させるしかない。
ギアスの力を使えば、確かにスザクは自分の言うことを聞く。しかし、それはスザクを自由意志のない『人形』にするということだ。彼は、ルルーシュの願うとおりに彼の騎士になり、彼に愛を囁き…彼を抱くだろう。
(…それはスザクじゃない)
心が伴わなければ、それは人形相手の恋愛と同じだ。
愛するものが側に居るのに…自分は、生涯片想いを続けなければならなくなるだろう。
「……」
ゆらりとスザクは立ち上がり、床に落ちていた剣を手にする。それは…叙勲式の日…かつての主であるユーフェミアに誓いを立てたあの剣だった。
その頃のことを思い出すかのようにきらめく白刃をしばらく眺めた後…スザクはゆっくりと玉座に向かって歩きはじめる。
「…!…」
「待て」
その動きに色めき立つ騎士たちをルルーシュは制止する。
いくらスザクが強かろうと多勢に無勢。最初の一撃さえ交わすことができれば、ルルーシュが手を下さずとも騎士団のメンバーがスザクを殺すだろう。
そして…。ルルーシュ本人とCCしか知らないことだが、彼には他人に絶対命令を下すことの出来る『ギアス』の力がある。その力を使えば、スザクの動きを止めさせることなど簡単なことだ。今まで、ルルーシュがその力を使った人間のように、意のままの操り人形にすればよいのだ。
(あの時、あそこまでおまえが使わないことに固執したギアスの力で…再び枢木スザクを人形にするか?ルルーシュ)
ちらりと、CCはルルーシュに視線を走らせる。無表情を装った顔からその思考はうかがえなかった。
**Comment**
初ギアスはスザルルです。(でも、現在、きあさんは別のCPに萌えています・・・)
何を書こうかと思ったのですが、とりあえず今回は最終回がまだだからこそかける『なんちゃって最終回』です。
多分、このとおりには終らないだろうと思いつつ・・・・。こういうのもヒトツのラストかな、と思っていただけると嬉しいです。
2008.Aug
綺 阿。
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