みんなの[力]で
新しい未来を素敵にできればいいね。









キッチンからシンが戻ってくると・・・准将殿はソファで転寝をしていた。
ソファにもたれたまま、午睡に入ってしまった彼がうつらうつらするたびに、鳶色の髪がゆらゆらと揺れる。
毎日、過酷なスケジュールをこなしているのだ。無理もない。
邪気のない寝顔は、それまでシンが彼に抱いていたものとは全くかけ離れた、子供みたいにあどけないものだった。
その時、ソファの上に置きっぱなしだったキラの携帯電話が震え始める。
マナーモードにしているため、音は鳴っていないが、振動にもキラは気づく気配もない。
起したほうがいいのだろうと思ったが、彼は熟睡している。
その寝顔はあまりに無邪気で・・・声をかけるのもためらわれた。
「・・・・・」
シンがひとりおたおたしているうちに、携帯は留守電へと切り替わってしまう。
小さなディスプレイに表示されている名前はレドニル・キサカ。
シンの知らない名前だった。
「・・・ま、いいか」
その人物からの電話は何度か続いたが、キラが起きる気配は全くない。
それから三分ほど、携帯電話は沈黙を守り続けていたが、再び震え始める。
ディスプレイに表示されたのは、今度はシンもよく知る人物のものだった。
また、知らない名前だったら放置しておこうと思ったものの、おそらく、この名前からの電話には出たほうがいいだろうと、本能が告げる。
まだ起きないキラの傍らから電話を拾い上げ、通話ボタンを押す。
「・・・も」
『もしもし』の一文字しか言わないうちに、元上司の声の怒鳴り声が聞こえた。
「キラっ!おまえ、今、何処に居る!?」
「・・・・・・」
思わず、シンは腕をのばして耳から携帯を遠ざける。
耳鳴りに顔をしかめていると、上司の怒鳴り声は続く。
「おい?聞こえてるのか?キサカさんが俺のところに連絡が取れないと慌てて電話してきたんだぞ!おまえは、軍議をすっぽかして何処に居るんだ!」
「・・・それ、マジ?」
それは、ひょっとするとものすごーくマズいのではなかろうか。
シンは、やはりキラを起こすべきだったと激しく後悔する。
「・・・シンか?」
どうやら、アスランはようやく電話に出たのがキラではないことに気づいたらしい。
幾分か声のトーンがおさえられる。
流石に、恋人の声と元部下の声とを間違うことはなかったらしい。
(そもそも、シンとキラの声を間違う人など居ないし、恋人の声を他人と間違っては、恋人失格だ)
「あの人、そこで寝てますよ。ぐうぐうと」
「・・・・・・」
電話の向こうで、ふかーい溜息が聞こえる。
「そうか。ならいい。あと十分で向かえに行くから、キラを頼む」
「・・・って、アンタ会議は・・・」
アスラン・ザラは現在、オーブ軍一佐だ。
当然、軍部の幹部が召集されている会議に、出席しないですむ訳がない。
「キラの方が大事だ」
そう、言葉を残して、電話はぶちっと切られた。


「すまないな」
リビングに姿を現した元上司は、オーブの軍服姿だった。
ザフトの紅があれほど鮮やかに似合う人だったのに、アスランはそれをあっさりと捨ててしまった。
メイリンはもう見慣れたと言っていたが、シンにはどうしてもそれがうまく受け入れられない。
それは、自分がオーブに移住してからも同じだった。
「キラ、帰るぞ」
「・・・うーん」
ゆさゆさと躯を揺さぶられても、子供のようにむずがるが、キラが目を開ける気配はない。
ひとつ溜息をつき、アスランはキラの耳元に唇を寄せる。
「・・・キーラ」
おそらく、彼限定にしか使わない甘い声。
しかし、その秘密兵器も眠さの前には勝てないようだった。
「・・・仕方ないな」
起こすことは諦めたのか、アスランは眠ったままのキラを横抱きにする。いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。
キラが細いからなのか、それとも彼らが恋人同士だからなのか。
不思議と違和感がない。
眠っているキラは無意識なのだろう、なじんだ体温なのかアスランの首に手を回す。
「騒いで悪かったな」
「いえ・・・オレも・・・連絡せずにすみません」
「おまえは悪くない。悪いのはこいつだ」
アスランは視線で恋人を示す。
「・・・別に、義務みたいに、毎日会いに来なくてもいいって言っといてください」
「シン?」
翡翠が眇められる。
「・・・・この人、忙しいのに、わざわざオレに逢いに来てくれてんでしょう?」
ぶっきらぼうにシンはそう言った。
「・・・・・・」
本当ならば、キラはこんなところに毎日顔を出していられるほど暇ではない。
キラの躯を心配し、アスランも無茶はするなと何度もキラに言ったのだが、そのたびにやんわりと拒否されていたのだ。
『僕が好きでやってることだから』と。
おそらく、たしなめられるのが嫌で、誰にも行き先を告げずに此処へ通っていたのだろう。
今回はそれが裏目に出てしまい、失踪騒ぎとなってしまったのだ。
「・・・言うだけ言ってみるよ」
アスランはふっと笑う。
おそらく、強情な恋人は、自分の言うことを聞きはしないだろうと思いながら。


「・・・まったく。行き先くらい、ちゃんと言えば、大騒ぎしなかったのに」
警備付の黒いリムジンの後部座席。アスランは細い躯を自分の膝に横たえる。
広い車内は、キラが横になってもまだ余裕があった。
アスランが溜息をつきながら、それでもまだ瞳を閉じたままのキラにそう言うと。
「・・・言ったところで、また嫌な顔されるだけだもん」
不意に返事がかえってくる。
「・・・起きてたのか」
聞こえているとは思わなかった。
顔にかかる長い前髪をはらってやると、美しい紫が姿を現す。
「今、起きたんだよ」
照れくさそうにキラは言った。
しかし、アスランは気づいていた。抱き上げたとき、キラが目を覚ましていたことに。
「義務みたいに毎日会いに来なくてもいい・・・だそうだ」
一応、彼は『眠っていて聞いていなかった』ことになっているから、さきほどシンから受け取った言葉をアスランはそう伝言する。
「よかったな。晴れて、両想いみたいだぞ」
くしゃりと、鳶色の髪を乱すと、キラはふっと微笑んだ。
「・・・・うん」
おそらく、素直でないシンが、キラに対して自然にふるまうようになるには、まだ少し時間がかかるだろう。
しかし、頑なだった彼の心は溶けた。
いけすかない上司と認識されていた自分に心を開いたように、時間が経てば、シンはキラに心を開くだろう。
恋人が他の男を想って浮かべる嬉しそうな顔に、アスランは少しだけ嫉妬した。
が、かつての自分たちのように剣を向け合ったキラとシンとが漸くたどり着いた和解だ。
それを祝福しない訳にはいかないだろう。
アスランは、嬉しそうに微笑む恋人の髪に指を絡めた









DESTINY50話その後のエピソードで300%捏造です。(笑)
つまり、あたしなりのFinal Plusだったりします。
そういうわけで、この本のタイトルは[Destiny's Children7]ではなく[Destiny's Children Final Plus]とさせていただきました。

いろんなキャラクターの戦後を書くというのがこの本のテーマだったため、アスキラだけではありません。
シンとキラの和解、キラとカガリ、ラクスとアスラン、そして、ホーク姉妹。
いろんなキャラクターが登場します。
そして、マリューさん、ネオ、バルトフェルドなど、けっこう本編ではあまり描かれなかったオトナの話もちょこっと交えてみました。

あとは・・・自分が課題としていた、マリューさんがタリアの子供に逢いにいくシーンや、生き残ったレイのその後の人生など・・・。
本編ではまったく取り上げられなかったお話をオムニバス形式でたくさん詰め込みました。

本当は、ディアッカとミリィだとか、イザークとラクスだとかの話も書きたかったのですが、時間がなくて断念せざるを得ませんでした。
もうちょっと丁寧に書きたかった感もありますが、正直、これがあたしの限界なんだろうな、と思いました。(苦笑)
少しでもお楽しみいただければ嬉しいです。
長らくつづいたシリーズは、この本で終わりとなります。
おつきあいいただきまして、ありがとうございました。


2007.Apr  綺 阿

©Kia - Gravity Free - 2007