再び手に入れたいと願った。
君を護れる[力]を―――

「・・・あの落下の真相はおまえも知っているんだろう?」
ハンドルを握りながらアスランは呟いた。
疾駆する車の両側に、風景はあっという間に流れてゆく。
風圧で、キラの鳶色の髪が乱れる。
その髪は、夕陽に透け、輝いて見えた。
「もう・・・みんな知ってるんだろう?」
オーブのメディアでも、ユニウス・セブンを落としたのはコーディネイターだと報道していた。
「・・・うん」
小さくキラは頷く。
「・・・・・連中のひとりが言ったよ」
無意識に、アスランがハンドルを握る手が強くなる。
「討たれたものたちの嘆きを忘れて・・・どうして討ったものたちと偽りの世界で笑うんだ、おまえらは・・・って」
そのアスランの言葉に、切なげにすみれ色の瞳が細められ、悲しみに伏せられる。
先の大戦。
キラは、偶然に戦争に巻き込まれた被害者でもあったが、多くの人々を[ストライク]の、そして[フリーダム]の剣にかけた加害者でもあった。
しかし・・・彼が願ったのは平和だった。
戦争を終わらせるために、戦った。
それを・・・『偽りの世界』と言われたことが、ただ哀しかった。
「・・・戦ったの?」
そう言ったキラの眉が僅かに顰められたことをアスランは見逃さなかった。
優しいキラは争いごとや戦いが嫌いだ。
それは、あの戦争が終わってからというもの、尚一層酷くなった。
戦いたくもなかったのに戦わされ、結果として、望まなかったのにたくさんの人の命を奪った。
そして、戦争が終わってから、自分をかばって養父、ハルマ・ヤマトが殺されるというアクシデントが重なり、彼は一度、自分を消してしまおうとした。
キラが以前より、人の生死にナーバスになっていることを知っているアスランは、膝の上でぎゅっと握り締められた手に、自らの手を重ねた。
「・・・ユニウス・セブンの破砕作業に出たら・・・彼らが居たんだ」
シフト・チエンジをして、アスランはカーブの手前で車を止める。
エンジン音が急に静かになる。
塩分を含んだ海風が、ふたりの髪を乱した。
「あの時・・・俺、聞いたよな」
まだ、オーブをウズミ・ナラ・アスハが率いていた時。
ザフトから離れること、父に反旗を翻すことを決意した時。
それは・・・はじめてアスラン自身が自らに戦う意味を問いただした時だった。
『俺たちは・・・・何と・・・どう戦わなきゃならなかったんだ?』
その、苦悩に満ちた声に、キラは笑った。
『それも・・・みんなで一緒に探せばいい』
「でも・・・やっぱりまだ・・・見つからない」
悔しそうに細められた翡翠。
ぎゅっとハンドルを握る手。
そこに、アスランの無念が込められているような気がして・・・少しでも彼の力になりたくて、キラは強張った肩にそっと手を置いた。
「・・・アスラン」
甘やかな声が、自分の本当の名を呼ぶ。
瞳を閉じ、アスランはその甘い余韻に浸る。
ゆっくりと瞼を開くと、心配顔で自分を覗き込んでいる恋人の顔が見えた。
不安を拭うため、アスランはそっと手を伸ばすと、恋人を腕の中へ閉じ込める。
抱きしめた刹那、小さな白い花にも似た甘やかなキラの香りが鼻を掠めた。
「おまえが無事でよかった」
「・・・うん」
ことりと、キラは広い胸へと頭を預ける。
とくん、とくん、と規則正しく響く、アスランの鼓動だけが聞こえる。
「・・・キラ」
軽く合わされた唇。
「・・・っ」
もう、ずいぶん長らく交わしていなかったその行為に、近すぎる距離に、キラの躯が僅かに震えた。
「・・・愛してる」
一度・・・キラが自殺未遂を犯してから、アスランは意図的にその言葉をキラの前で言わぬようにしていた。
大切に思う人たちが、次々と命を落としていった。
狙われたのは自分だったが、結果的に周囲に居た人が犠牲になってしまったのだ。
誰もが、それは不可抗力でキラのせいではないことを知っている。
けれど・・・キラはそのことで自分を責め続けている。
もう二度と、誰も狙われることのないよう、彼は『特別』を作らなくなった。
その時、ラクスもアスランもカガリも・・・遠ざけられたのだ。
そのことに気づいた彼らは、無理にキラとの距離を詰めようとはしなかった。
言葉をかけることも、躯に触れることも、必要以上にはしないようにしていた。
しかし、あんなことがあった後では、不安だった。
だから、アスランは素直に自分の想いを告げたのだった。
「・・・キラ」
細い躯を抱きしめる。
強い腕を、キラは拒まなかった。

すみません!
共闘までを予定していた[Regret]ですが、結局、フリーダムの撃墜シーンまでしか収録できませんでした。
続きは4巻、アスラン視点の[DECIDE]に続きます。
元々予定していたレイメインの[Ray Of Light]は5巻送りになります。
(余力があったら4巻の巻末にでも収録するかもしれませんが)
10/29発売予定です。
ユニウス・セブン落下の後の、夕陽のドライブシーンです。
この後に原作にはないエピソードが続いています。(笑)
時間軸的には、第1話〜第34話くらいなので、1〜2巻と同じになります。
1〜2巻には収録されていないシーンもありますのでお楽しみいただけると嬉しいです。
この本は一応続きモノですが、単品として読んでもある程度内容が分かるように書いているため、同じシーンがキャラの視点を変えて何度も出てくる場合があります。話をスムーズに続けるためには必要でした。(苦笑)ご了承ください。
個人的な萌シーンは、ディオキアでのハイネとアスランの会話シーンと、アスランの復隊シーンかな。
デュランダル議長は、この話ではおもいっきり黒い人なので(笑)その辺りも見ていただけると嬉しいですー。
ま、議長の腹黒さが暴露されるのは[Ray Of Light]かな・・・。
2006.Jul 綺 阿
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