SEVENTH HEAVEN scene:3
#2 Come Home U 〜夫、妻の里家、ジュール家へ〜



ある日届いた1通の招待状。
その白い封筒には、ジュール家のエンブレムが透かしになって入っていた。
「ねぇ、アスラン」
「・・・ん?」
リビングで相変わらず新しいハロを作ることに没頭しているアスランは、キラの問いかけに適当なあいづちを打つ。
それにかまわず、キラは続ける。
「・・・この前さ。再来週の週末はディセンベルのおうちへ行く約束してたよね。ごめん。僕・・・ちょっとキャンセルさせてもらってもいいかな」
「え?」
その一言は、アスランの注意をひきつけるには絶大な効果があった。
義理堅いキラの約束の優先順位は自分が一番、そして先に入っている約束が絶対だ。
そのふたつの条件を充たしているハズの自分との約束がひっくりかえされるほど重要な意味を持っている用事とは一体何なのか。
アスランは聞かずにいられなかった。
「んー。ちょっとマティウス市へ行かなきゃいけなくなったんだよ」
歯切れ悪そうに紡がれたその恋人の言葉は、更にアスランの苛立ちを煽るには十分すぎるものだった。
その都市は、昔の同僚である銀髪の男が治めているコロニー群だった。
アスランの元から姿を消したキラが、しばらくの間身を潜めていた場所でもある。
あまりプラントに知人の居ないキラが、マティウス市へ行く場所があるとすれば(しかもアスランとの先約を反故にしてまで)ひとつだけだった。
「・・・ジュール家なのか・・・」
銀髪の同僚の不遜な笑顔が脳裏に浮かぶ。
いくらキラを保護していてくれたとはいえ、そして、最終的にはキラの居場所を教えてくれたとはいえ、イザークが半年もの間、自分にキラが生きていることを隠していたという事実をアスランはまだ赦した訳ではなかった。
「・・・・俺も行く」
翡翠の瞳を座らせてそう呟く恋人に、キラは慌てる。
「え?でも・・・」
「大事なキラをひとりでやれるか!」
キラが大切そうに握っている封筒を取り上げる。
「あ・・・こら、アスラン!!」
ジュール家のエンブレムと百合の花が淡く浮かび上がる便箋には、綺麗な文字が綴られていた。
「・・・何か勘違いしてない?」
それを読み進めていくうちに、アスランは確かに自分の勘違いに気付いた。
「そりゃ、実家なんだから、イザークだって居るかもしれないけど」
ぽつりとキラは呟く。
「・・・僕を招待してくれたのはエザリアさんだよ。久しぶりに顔が見たいって」
キラの言葉どおり。
文末には、優美な文字で『エザリア・ジュール』と、イザークの母であるジュール家の女主人の名前が綴られていた。


「・・・こんにちは。お招きありがとうございます」
「キラちゃん!!おかえりなさい!!」
玄関の扉が開かれると同時に、エザリアはキラの元へと駆け寄る。
我が子同然に抱きしめると、その頬にキスを落とした。
「エ・・・エザリアさん!」
慌てたようにキラは身を固くする。
「・・・母上。一応、お客の手前ですよ」
苦い顔をしてイザークは母親を嗜める。
「あら。いいじゃない。キラちゃんに逢うの、久しぶりなんだから」
動じなかったのは女主人だけではない。
「お世話になります」
にっこり微笑むと、その客人もカサブランカの花束を女主人へと渡す。
白い大輪の百合がエザリアの微笑を豪奢に飾った。
「ありがとう、アスラン。お久しぶりね」
エザリアはその香りをしばし楽しんだ。
強硬派評議員だったエザリアにとって、アスランは上司パトリック・ザラの息子であり、彼が生まれた時からよく知っている間柄だった。
「お久しぶりです。小母様もお元気そうで何よりです。・・・その節はキラがお世話になりました」
まるでキラを自分の妻だか所有物のように言うアスランの物言いにイザークはかちん、と来たが表情には出さない。
エザリアはその言葉には気づかなかったのか、それとも浮かび上がった疑問の方が大きかったのか、そのことについては一切言及しなかった。
「キラちゃんが一緒に連れてくるって言ったお友達って・・・アスランだったの?」
「え?・・・あ、はい」
子供のようにキラは素直に答える。
「そうなの。ふたりがお友達だったなんて、知らなかったわ」
エザリアは不思議そうにそう言った。
「俺が一時期、月に留学していた時の幼馴染なんです。キラは」
「あら。キラちゃん、月に居たの。知らなかったわ〜」
ジュール家において、キラの生い立ちや家族関係など個人的なプロフィールは一切伏せられていた。
戦争中にパトリックの片腕だったエザリアが敵軍のエース・パイロットであった"ストライクのパイロット"の存在を知らぬ訳がない。
それがキラであったことを悟らせないために、とのイザークの配慮だった。
「・・・えーと」
知らぬが仏、と残りの3人は思ったが誰ひとりとして口にはしなかった。



*** ひとこと ***

本当に少しだけですが・・・・。予告編です。
3つの短編が収められているわけですが、どれもシリアス色よりもギャグ色の方が濃くなってしまったような・・・。
新婚さんの甘いムードが漂いっぱなしの1冊ですが、お手に取ってていただけると幸いです。

なお、こちらの本の内容については、これ以上のサイト上への掲載予定はありません。
申しわけありませんが、イベントもしくは通販をご利用のうえ、本をお手にとってくださいますよう願いいたします。
通販はOff Lineコーナーにて承っております。


2005.05.22 綺阿


©Kia - Gravity Free - 2004-2005