ピル−−男性に知ってほしいこと
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やさしくないな、その偏見。

 ご存じのように日本は世界に冠たるピル後進国です。
低用量ピルが認可されても、その状況はあまり変化していません。
日本がピル後進国なのは、ピルの認可が大幅に遅れたとか、ピルの普及率が低いからだけではありません。ピルについての偏見が、非常に強いからピル後進国なのです。

 ピルについての偏見は、男性女性を問いません。日本がピル後進国を脱するには、女性だけでなく、男性にもピルについての正しい認識を持っていただくことが大切だと考えています。男性のみなさんにピルのことをもっと知ってほしいと思い、このページを作ってみました。

ピルは人生の薬/
妊娠の不安、わかりますか?/
自然であること/
副作用について--ピルを頭で飲む/
ピルと利権/
環境ホルモンについて厚生省がとった異例の英断/
性道徳について/
STDについて
ピルについての賛否両論(別ページ)


ピルは人生の薬              ▼次へ/▲前へ /先頭へ

新しい洋服を買ったときウキウキするようなうれしさを感じます。
季節の移ろいを感じたとき生きていることを実感します。
仕事をやり終えたとき、しみじみとした充実感にひたることができます。
人生の幸せは、このような一コマ一コマの積み重ねではないでしょうか。
これは男性でも女性でも、同じでしょう。
でも、その時、虫歯がうずいていたらと想像して下さい。
新しい洋服を着るうれしさも吹き飛んでしまうと思います。
虫歯で気が滅入る日は人生の中で何日あるでしょうか。そんなに多くはないですね。
でも、もしそれが10年間続いたとしたら、あなたはそれに耐えれますか。
女性が月経や妊娠で辛い思いをする日を合計すると、10年近くになります。
生理痛で憂鬱な日を過ごす女性は非常に多いのです。
私は高校時代に思ったことがあります。
ある私の友人は、明るくて賢い女性で、普段は充実した高校生時代を過ごしていました。
ところが、生理日の彼女は悲惨です。痛み止めを飲んでも効かない痛みに、じっと耐えるしかなかったのです。生理痛のほとんどない私は、36カ月の高校生活を送っている。けれども彼女の高校時代は30カ月しかないのではないかと、思いました。毎日が楽しいはずの高校時代。なんとも不公平だなあと心から同情しました。でも、それは高校時代で終わることではなく、ずっと続いていくことなのです。
もし彼女が生理痛から解放されるためにピルを飲みたいと言ったら、誰にそれをやめさせる権利があるでしょうか。誰にもないのです。当然のことです。でも、この当然のことが当然でない。これが、日本がピル後進国たるゆえんなのです。
東京都職員共済組合青山病院産婦人科の早乙女智子医師らの調査によると、ピルの処方を受けた女性の38%が月経困難症や月経不順の改善などの副効用にも期待していました。副効果だけが目的の女性も22%いました。ピルを単なる避妊薬ととらえるのは間違いです。ピルは女性が女性であるために制約されてきた自分の人生の百パーセントを取り戻す薬でもあるのです。

妊娠の不安、わかりますか?  ▼次へ/▲前へ /先頭へ

もちろん、ピルは避妊薬でもあります。男性は、ピルでなくても避妊はできると考える方が多いようです。たしかに、その通りです。でも、ほんとうに確実な避妊ができていますか。ほぼ100%の避妊法は、ピル・IUD・不妊手術の3つです。この3つの避妊法の普及率と中絶率の関係について調べた調査があります。結果は感動的なほどきれいな逆相関になりました。つまり、効果的な避妊法が普及していない国ほど、中絶率は高いのです。
その調査には日本は含まれていませんが、調査対象のどの国よりも日本はそれらの効果的避妊法普及率が低いのです。日本で中絶が多いのはある意味で当然のことなのです。
日本における年間中絶数は約33万件と発表されています。しかし、実際の数はその倍近くになるのではないかと推測されています。先進国として異常な多さです。にもかかわらず、避妊に根拠のない自信を持っている男性が日本には多いのです。男性にとって、失敗もあるさ」で済ませれることも、女性にとってはそうはいきません。たとえ妊娠しなくても、妊娠の不安に憂鬱な日々を過ごした経験を多くの女性が持っています。だから、ピルで確実に避妊したいと思うのです。
不安な中に日々を過ごすこと、中絶の悲しみを背負って生きること。それは虫歯があなたの人生の中のある日を憂鬱にさせることとは、比べものにならないほど「生きていることの質」を低下させます。
 野蛮な国は国民を"身体"として捉えます。そこに欠けている視点は、心を持ちそれぞれの人生を生きている存在としての人間です。医師も往々にしてこの野蛮な視点に取り込まれます。目の前の人間としての患者が見えなくて、病気だけみてしまうのです。これを読んでくださっているあなたはどうでしょうか。あなたがパートナーの体を思いやる優しさを持っているならば、彼女の"生きていること"を思いやる優しさも、もってほしいと思います。

自然であること        ▼次へ/▲前へ /先頭へ

ピルは女性をホルモン漬けにしてしまう不自然な薬ではないか、という声を聞くことがあります。自然を人工的に変えてしまうことに抵抗があるというのです。
現代人は科学技術の発展だけでなく、その負の側面を知っています。負の側面にいらだちを感じているといってもよいでしょう。遺伝子組み替え食品に不安を覚え、自然食品に親しみを覚えるようになっています。自然であることへの強い郷愁に駆られているのです。しかし、自然は快適なものではありません。私たち現代人の生活は、自然をコントロールすることによって得られているのです。人間の体についてもそうなのです。私たちの周りにある薬の大部分は、合成された薬品です。現代人はこの合成された薬のおかげで、現在の生活の質を維持できています。この薬がなかった時代、人々の人生は暗く悲惨なものでした。つい50年前まで、結核で若い命が数多く失われていました。これをそのままにしておくのが、自然であるとは誰も思わないでしょう。
このように書くと、ピルは病気をコントロールするのではなく、自然な生理をコントロールするものでわけが違うという反論をなさる方がいるでしょう。それは一見真実のように思えます。でも、はたしてそうでしょうか。自然の状態で女性あるいは動物の雌は、どのような一生を送るかといえば、実は妊娠・出産を繰り返すのです。現代の女性は2人程度の子どもを産んで、他の時期には妊娠しない状態を維持しています。これは実は非常に不自然なことなのです。人間に、そしてとりわけ現代人には、生理痛で苦しむ方が多くいます。これはこの不自然と関係があると考えている方がいます。もしそうだとすれば、妊娠に近い状態を作り出すピルは、実は女性の本来の自然を取り戻すことなのです。
現在のピルには天然ホルモンに近い製剤が開発されてきています。女性が自然を失ったために払わされている代償を埋め合わせてくれるもの、それがピルではないかと私は考えています。

副作用について--ピルを頭で飲む 
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ピルに副作用はないかといえば、副作用はあるのです。服用初期には吐き気などの副作用が現れることがあります。しかし、中用量ピルに比べれば、ぐっと小さくなっていますし、慣れてくればなくなります。
優しい男性の皆さんが心配しているのは、もっと重大な副作用があるのではないかということではないかと思います。ピルにそのような副作用の恐れはないかといえば、これもあります。ピルの服用により、血栓症などある種の疾患のリスクは明らかに高まります。その代表的なものが血栓症です。パートナーがピルを服用すれば、血栓症になる危険性は高まるのです。しかし、血栓症にはピルを飲まなくてもなるときにはなります。ピルを服用していない人で1万人あたり0.5人に血栓症が発症します。ピルを服用していると、血栓症になるリスクは3.53倍になるという報告があります。したがって、ピルを服用していると1万人につき2人程度は血栓症になります。これを多いと見るか少ないと見るかですが、妊婦ではもっと多くの方が血栓症を発症します。血栓症が発症しても、死亡率はそれほど高いものではありません。血栓症での入院患者2883人中、死亡したのは120人というデータがあり、4.2%程度の死亡率と考えられます(Mellemkjaerら)。ピル服用によって死亡する確率は、1万人中0.08人という計算になります。約12万人に1人死者が出ることになります。たしかに、その1人にあなたの愛する人が当たらないという保証はありません。しかし、12万人に1人という死者の数は、交通事故やその他の病気で死亡する確率と比べれば決して大きなものではありません。車に乗れば交通事故で死亡する可能性があるから、車には乗るなという方はいないのではないかと思います。以上の話は、血栓症に限った話です。ピルには子宮体癌などを減らす効果があります。それを差し引きすると死亡率は変わらなくなります。ピル服用者の死亡率が高いという信頼できるデータはないのです。
しかし、もし交通事故にあったら車に乗らねばよかったと思うのは人情です。血栓症になったらピルのせいだと思うかもしれませんし、ピルを飲まねばよかったと後悔するかもしれません。それはそれで、理解できます。もしも後悔すると思うなら、ピルを飲むのは止めた方がいいでしょう。ピルは頭で納得して飲んでほしいと思っています。
ピル服用者で血栓症になり、死亡する方は必ず出ます。そして、それをマスコミが大きく取り上げるかもしれません。これは実は奇妙なことなのです。喫煙者が肺ガンで死亡する例は、山ほどあります。でも、それで大騒ぎすることはありません。何故こんな差が出るのでしょうか。私には不思議でなりません。この不思議さは、女性がピルを服用することに反対する一部の男性にも、感じます。パートナーの喫煙については何も言わないのに、ピルは健康に良くないと言う・・・。奇妙だと思いませんか?

ピルと利権      ▼次へ/▲前へ /先頭へ

「製薬会社と産婦人科医が儲けのためにピルの宣伝をしている」などと悪口を言う方がいます。たしかに、製薬会社の価格設定は高すぎるのではという気もします。でも、自由競争ですからピルが普及していけば、価格は下がるでしょう。むしろ高い価格設定でピルの普及にブレーキをかけているとみることもできます。
産婦人科医にとってもピルは儲けの種になりません。検査は別にすると、薬ではほとんど利益は出ないのです。産婦人科医1人あたり月に12件程度の処方数になっているという報告があります。これで利益が出るわけがありません。
むしろ、ピルの普及をおそれているのは産婦人科医かもしれないのです。人工妊娠中絶の経済効果は、500億円から1000億円とみられています。日本中の産婦人科医は、1万人ですから、医師一人あたりにすると500万円から1000万円になります。1999年3月、イギリスのBBC放送は、日本でピルが認可されない理由を医師の中絶ビジネスの利益を守るために、ロビイストがピル=非常に有効な避妊方法の承認を妨げているからだと報じました。この推測の当否は別にして、「産婦人科医が儲けのためにピルの宣伝をしている」という批判はまったく的はずれなものです。

環境ホルモンについて厚生省がとった異例の英断
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いわゆる環境ホルモンの存在は、センセーショナルな話題として世界を駆けめぐりました。意外な化学物質が、生物のホルモンバランスに影響を与えていることが明らかになっています。意外な物質が生物のホルモンバランスに影響を与えるのであれば、ホルモンそのものであるピルが環境を汚染するのではないかという素朴な疑問が生まれてきます。
この素朴な疑問に乗じて、ピルの解禁に反対してきた団体があります。その団体はたびたび厚生省に要望書を提出してきました。その文書を読んでみると、環境ホルモン=内分泌攪乱物質=極低濃度毒性=低用量ビルというかなり強引な論理?が展開されています。ところが、立論の出発点となるべきピルが環境ホルモンとして作用する恐れがあるという「事実」は、2点しか示されていないのです。すなわち、イギリスの汚水処理場の排水中で飼育していたニジマスやコイに雌の卵黄形成を促すビテロジェニンの血漿中濃度の顕著な増加がみられたという報告が1点。低量の合成卵胞ホルモンで魚のビテロジェニンの血漿中濃度上昇がみられたという実験報告が1点です。前者については、汚水処理場の排水ですからさまざまな科学物質が含まれており、何が原因であるか特定できていません。
環境ホルモンとして疑われている物質は70ほどあります。そのなかにピルの成分は含まれていません。ピルの成分が環境ホルモンだとする考えは、専門家からみればかなり突飛な発想にうつったはずです。ところが、厚生省は英断をもってこの問題を検討させ報告書にまとめさせたのです。その報告書はここです。
報告書は、現時点で環境ホルモンと判断することはできないと、常識的な結論を下しています。ざっと経過は以上の通りです。
この経過は、日本ではあまり知られていません。しかし、外国人の目から見ると非常に奇妙なことだったようです。ピルの認可に環境ホルモン問題まで検討する国はあり得ないことです。しかも、確たる根拠もないのに。このようなことから、厚生省への圧力を感じ取る人もいたのかもしれません。それはともかく、ピルは環境ホルモンかもしれないという議論はマスコミに取り上げられ、一人歩きを始めました。男性は、環境ホルモン問題にはことのほか関心が深いようで、ピル不信を産む原因の一つになっています。
ご存じと思いますが、男性・女性の尿中には大量の性ホルモンが含まれています。これが環境ホルモンとして作用しないという証明はありません。だとすれば、トイレに行くたびに罪悪感を感じなくてはならないことになります。ピルは環境ホルモンの恐れがある、だからピルの認可に反対、服用は禁止しろという議論はいかがなものでしようか。

性道徳について     ▼次へ/▲前へ /先頭へ

かつてピル反対論者の本音は、ピルを解禁すれば性が乱れるというものでした。今でもそのような偏見を持っている方は、少なくないと思います。
夫や恋人といった特定のパートナーと性的関係を持っていること、これを不道徳というのは、SEXそのものを否定的にしか見ることのできない特殊な方だと思います。私はそういう方を聖人として尊敬します。聖人は山にでも籠もって、仙人のような生活をしていてほしいものです。ところが、町に隠れ聖人が結構たくさんいるようなのです。これはタチが悪い。自分についてはぜんぜん聖人であることを求めないのに、女性に対しては聖人であることを求める輩です。女性が性的関心を抱くことさえ、快く思わないらしいのです。実は日本の男性には、程度の差はあれこの隠れ聖人が非常に多いように思います。もし、あなたがピルに躊躇する気分があるなら、自分の心の中のどこかに隠れ聖人が住んでいないか考えてみて下さい。そして、あなたが隠れ聖人であるなら、ぜひほんとうの聖人になって下さい。そしたら、あなたを尊敬してあげます。しかし、自分自身が聖人になれないのなら、女性にそれを押しつけるのは止めてほしいですね。女性が性的な関心を持つことは不道徳なことではないのです。
性が乱れるというとき、不特定多数の交際相手を持つようになるという意味があります。
ピルでそのようになるというのは、実にばかげた話です。ピルが広く普及している国で、不特定多数の性関係が多いかと言えば、全くそんなことはないと思います。ピルがほとんど普及していない日本の若者の性意識と、たとえばアメリカのそれを比べてみて下さい。アメリカのマジョリティは、日本と比べて実に素朴で健全な性意識を持っています。ピルが普及している国は、性が乱れているなどという妄想は全く根拠がないと思います。
それは当たり前のことです。不特定多数の交際相手のある女性は、ピルで避妊しようとはしません。病気が恐くて、コンドームなしにはSEXできないからです。一方、「道徳的な」関係を持っている女性は、ピルで避妊できるのです。ピルで避妊している女性こそが、健全な生活をしている女性なのです。事実、日本で低用量ピルを服用している女性は、援助交際の高校生ではないのです。知性的でしっかりした生活をしている女性の間に、ピルが普及していっている事実もこのことを裏付けています。ピルを服用している女性を偏見の目で見るのは、あなたの妄想の産物でしかありません。

STDについて            ▲前へ /先頭へ

ピルはHIVなど性感染症の予防になりません。だから、ピルが普及すると性感染症が広がるという議論があります。しかし、ピルの普及している国に性感染症が多いという事実はありません。どちらかといえば、むしろ逆なのです。
コンドームがなぜ性感染症の予防に役立っていないのか。その理由は簡単です。コンドームで性感染症を防ぐには、いつでも使う、始めから使うの2原則が守られねばなりません。つまり、安全日危険日に関わりなく使うこと、必ず挿入前に装着することが大切です。ところが、この2原則を確実に守っているカップルは実はそれほど多くないのです。とくに夫婦間において、この2原則は無意味に近いものがあります。
コンドームで性感染症は防げますが、コンドームで性感染症の広がりは防げないのです。危険な性交渉は持たないこと、お互いのSTD検査で身を守ること、こちらのほうがより大切だといえましょう。
コンドームで性感染症の拡大を防げるという幻想は、かえって性感染症を拡大させる危険性さえもっています。誤解がないように、もう一度繰り返すと、コンドームはその使用場面において、性感染症を防止できます。そして、そのような必要があることもあるでしょう。しかし、極端に言えばピルを認めない政策を採っても性感染症拡大防止策にはならないのです。少しややこしい話ですが、個人衛生的観点からみたコンドーム使用と公衆衛生的観点からみたコンドーム使用は、別次元の問題なのです。にもかかわらず、これをごちゃ混ぜにして議論し、ピルが性感染症を拡大するかのような立論はためにする議論であると思います。   

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