私のコレクションを御覧いただくと、結構ビンテージのラッパが多い事に気付かれると思います。


私はコレクターでは有りませんので、演奏可能なものしか所有していないのですが、一番古い楽器は1913年製と思われるフランスのケノンのトランペットとMarceauのコルネットです。
(1913年はこんな年=http://www001.upp.so-net.ne.jp/fukushi/year/1913.html


1913年といえば、大正初期で、最後の将軍徳川慶喜が逝去し、森繁久弥さんが生まれた年です。自動車もバイクもテレビも電話も、一般家庭には無かった頃に作られた楽器で、ピストンも下バネで管もベルも今の楽器より細く小さいです。
工業技術も稚拙で、音響計測器も殆ど無かった時代に作られたものです。
しかしこの楽器は凄いです。まず音色です。甘く丸くふくよかで色彩感に富んでいます。低音から高音まで大きな音色の変化は有りません。デザインも独自で当時の職人さんの腕前には脱帽です。

その他1920年代から1950年代の楽器を数本所有していますが、どれも現代の楽器とは異なる個性(音色・デザイン等)を感じる事が出来ます。職人さんのハンドメイドで、細部にこだわりを感じるものが殆どです。

しかしながら、初心者の皆さんにはビンテージラッパをお勧め出来ない理由があります。
その理由を列記します。(概ね、総じてという意味ですので誤解無きよう!)
@ バルブコンディションが悪い。
 経年劣化と、当時の素材が現代ほど優秀では無い事が理由です。
 今のXOやヤマハやBACH等のバルブコンディションは秀逸です。
 同等のコンディションを作ろうと思えば、相当な達人によるレストアが必要でしょう。又経年の金属疲労によるピストンの磨耗も有り、これはオールド専用のバルブオイルを使用するか、ピストンを復刻するしか方法が有りません。

A 音程が悪い。吹きにくい。
 同様に経年劣化と、前奏者のクセがあると思います。
 更に当時の設計や加工技術の稚拙さにも要因があると思われます。
B 見かけが悪い。
 これは言わずもがな。傷や修理跡、ラッカーやメッキの剥離が有るのが普通です。
C すぐ壊れる、手入れが必要
 これは当然ですね。かなりのご年配なのですから。壊れるのが普通。メンテナンスには
 場合には購入価格よりお金が掛かるという覚悟で所有する心構えが必要ですね。管の曲がった所や手に触れる部分では金属疲労による亀裂が出来る事があり、パッチ(金属のバンドエイド?)を施さないといけない場合も有ります。


D 希少価値
 往年の名器は人類の宝。オーナーは変わっても大切に保存され、使用出来る環境を維持しないとなりません。ビンテージ楽器=命(大げさですが)と  思えるマニアにこそ、所有して愛でていただきたいと考えています。ひょっとして途中で挫折したり、飽きたりして、ないがしろにする可能性の有る方は、出 来れば所有されないほうが良いのではないかと思えます。又古いからビンテージというのでは無く、当時の技術を終結したトップモデルだけがその価値を 永らえるものと思います。自動車でスカイラインのGTRはビンテージとして珍重されますが、普通のGTならば値打ちが出ないのと同じ理由です。又楽器の状態を英語表示すると下記のようになります。オークション等で表記されている時の参考にどうぞ!

Mint=新品同様 Near Mint=若干質は落ちるが無傷 Excellent=微小な傷あるが完品 Very Good=傷、小さな凹みあるが良好 Good=外観は悪いが使用可能 Fair=原形は留めている


E 価格
 有って無いのがビンテージ、骨董品の価格。
 博物館や骨董屋さんなら、歴史的価値や人気で価格が決定するのですが、トランペット
 は需要と供給のバランス=恒久市場が十分に形成されていませんので、非常に不安定な価格になっています。ですから、意外に安価で買えたり、逆に 大変高価になってしまったりします。

中古楽器やネットオークションで見かけた高名なビンテージ名器の相場価格(美品で大きな損傷の無いもの)は現在下記のようになっています。 

  ニューヨークBACH            30万円から40万円
  マウントバーノンBACH         20万円から30万円
  初代カリキオの2000番代       30万円から40万円
  バーバンクBENGE           20万円から30万円
  1950年前後のマーチンコミッティ    20万円から40万円
  1960年前後のケノンフリューゲル   15万円から20万円
  1950年前後のKING(最高級品)   10万円から30万円
  1950年前後のOLDS(最高級品)  10万円から20万円 

1950年前後のブレッシング(最高級品)  10万円から20万円 
  1960年前後のホルトン(MF)    10万円から15万円
  1960年前後のCONN(コンステ)   8万円から15万円
  1960年前後のシルキー(B3)    15万円から20万円
  シカゴ時代のMonetteスタンダード   40万円から50万円 

ちなみにテナーサックスなら
  1930年代のHセルマーダブルアクション70万円から100万円
  1950年前後のAセルマーマーク6   40万円から70万円 
というのが、有名なビンテージ品の相場価格です。


ショップで整備済みのものを購入すれば(委託料もあるので)程度の良いものは、
上記より少し価格が上がるかも知れません。日本では特にBACHとシルキーあたりの人気が高いようです。

ショップ価格ご参考 
シアズ ビンテージコーナー http://www.shires.co.jp/sub1-2.htm


ビンテージは当たりと外れがはっきり分かれますので、お気に入りの恋人があれば上記の範囲であれば、試吹出来る環境で求めるのが良いと思います。

ところで、知る人ぞ知る、国産でもなかなかの名器が有るのですよ。
それはヤマハがNIKKAN時代のNo2Aのラッカーモデル。今ではほぼ100%ラッカーが剥離してしまっていると思いますが、音程とピストンコンディションと抜き差し管を度外視すれば(かなり犠牲が多いですが)、音色はかなりのものです。神戸のとあるPUBに置きラッパしていますが、吹くたびに連れて帰りたくなる衝動に駆られます。但しニッケルメッキのNo20のラッパ(これも同じく神戸のスナックに置きラッパしています)はお勧め出来ません。息が途中でブレイクダウンしてしまう感触が有り、1曲吹くとヘトヘトになってしまいます。『頑丈ですけどね!』

ビンテージ楽器は、ビンテージカーと同様に、非常に目を引き、所有する満足感を得る事が出来ますが、十分な知識とメンテナンス環境を整えないと、宝の持ち腐れになってしまいます。(私もどれだけの楽器を、高価で購入し二束三文で泣く泣く売却したり、高い修理代を掛けた事か!)

皆さん、B管3本目の楽器には、ビンテージも視野に入れてくださいね。(始められて5年間は現代の楽器をお勧めしますが)
長いラッパ人生の歴史を彩る場面があるかも知れません。

ビンテージトランペットクラブ・・知人の木村さん、澤田さんが立ち上げた会費無料のビンテージトランペットの情報交換サイトです。


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