らくらくISO9001講座

2000年版の使い方   月刊誌「アイソス」2003年2月号・掲載原稿



自由度が高くなった2000年版規格を使いこなす
―――規格の文言に捕らわれないシステム作り―――

 ISO9001:2000では、1994年版に比べて「手順の文書化」の要求が大幅に減ったことは、よく知られています。しか
し、「そのことで規格の性格がどのように変わったか」については、意外に認識されていないようです。2000年版は
文書化要求の削減により1994年版より自由度が増し、より使いやすい規格になりました。本稿では、この点
について解説し、2000年版の使い方についてアドバイスします



並び替えるだけで良いのか?

 2000年版改訂では、全体の構成や考え方に変化がありましたが、1994年版の要求項目の多くはそのまま
残っています。また、新たな要求も、品質目標の展開や、資源の管理など従来からやっていた範囲のことば
かりで、本当に新しく加わったのは顧客満足の調査ぐらいでしょう。

 そこで、2000年版移行の手順として、「第2段階以下の文書はあまり変えず、品質マニュアルだけを差し替
える」というやり方ができます。要するに、中身はそのままで、規格に沿って項目を並べ替えようという
のです。確かに、こうすれば大きな負担なく移行ができます。しかし、これで2000年版を使いこなせるでし
ょうか。


文書化の要求が少なくなった

 1994年版では、各項目の初めに「手順を文書に定め,維持すること」と定められていました。そこで、ほとん
どの組織は、全項目についてISO9001に沿った手順書を作り、その結果、仕事を無理に規格に当てはめ、形
式的な記録を作る例が多く見られました。

 一方、2000年版で「手順の文書化」を要求するのは6項目(文書管理、記録の管理、内部監査、不適
合製品の管理、是正処置、予防処置)だけです。製品やサービスにかかわる項目(製品実現、検査、資源管
理など)では、手順書が必須事項ではないのです。ここでは実務上で必要な手順書だけを用意すれば良く、
もちろん規格の文言に合わせて書く必要はありません。基本的な要求さえ押さえておけば、規格に引き
ずられることなく自由に仕組みが組み立てられるのです。


文書も記録も要求しない不思議な項目

 このように文書化の要求が減った結果、2000年版には不思議な要求項目ができました。それは、文書も記
録も求めない項目です(表1)。しかも、その多くは、「明確にすること」「確実にすること」などというばか
りで具体的な要求がありません

   表1 ISO9001:2000で文書も記録も求めていない項目
5.5.3 内部コミュニケーション
6.3  インフラストラクチャー
6.4  作業環境
7.2.3 顧客とのコミュニケーション
7.4.3 購買製品の検証
7.5.1 製造及びサービス提供の管理
7.5.5 製品の保存
8.2.3 プロセスの監視及び測定

 これらは、組織が動いていれば当然やっていることであり、手順書や記録がなくても良いのですから、ほと
んどの組織は初めからこれらの項目に適合しています。ISO9001に適合するために何かを始める必要は
ないのです。

 例えば、「8.2.3 プロセスの監視及び測定」の対応として「各部門の管理職が仕事の進捗状況を監視して
いる」と主張すれば何もしなくてよい、というジョークがあるのですが、これも一面の真実を突いています。プロ
セスの監視というのも、組織が運営されている限り、必ずやっていることなのです。では、このような当たり前
の項目を作って、規格は何を求めているのでしょう。


組織の意思として何を管理するか

 上の例に限らず、2000年版が製品実現に関連して求めていることは、組織にとって当然のことばか
りです。それも、項目を並べているだけで、具体的な管理方法を強制することはありません(記録を求める条
項もありますが、ほとんどが常識的に必要なものです)。

 例えば、6.3項のインフラストラクチャーの管理でも、規格にその管理範囲や管理方法の指定はありません。
そこで、組織は自らの判断で重要なものをリストアップして管理手順を決めるでしょう。取り上げる施設や設備
については、次の観点から選ぶことになります。
@重要設備なのでシステムを明確にしたい
A管理の良さをアピールしたい
B審査の外圧を利用して確実に実行させたい

 ここでは既に、規格に適合しているかどうかは関係ありません。組織の意思として何をどのように管
理するかという問題です

 このように、ISO9001:2000は、組織が自らの必要と責任に応じて、自らのルールを決めて実行することを求
めています。具体的なシステムは、組織が考え、規格の要求に上乗せし、その実行を確実にするための枠組
みとしてISO9001を利用するのです。

 もっとも、このような考え方は1994年版でも変わらなかったはずです。しかし、現実には文書化の要求がプ
レッシャーとなって、システムや文書の画一化を招いていました。その反省から、2000年版では文書化の要
求が削減されたのです。

2000年版の審査は「実態を調査する審査」

 このような、2000年版の性格ゆえに、審査の考え方も変わります。
1994年版の審査では、手順書がなければ不適合でしたから、組織は、全ての業務について手順書を作り、
ISO9001に沿って運営していることを示さなければなりませんでした。そして、審査員は規格と手順書と実態
との整合を調べることで審査ができました。

 しかし、2000年版では、文書化が要求されていませんから、手順書だけに頼った審査はできません。手順
書に書かれていない事項について不適合の指摘をするには、記録や観察によってシステムの運用状況を調
べ、「管理が確実でない」ことを客観的証拠で証明しなければならないのです。極端に言えば、2000年版改
訂によってISO9001の審査は、「組織が適合を証明する審査」から「審査員が不適合を証明する審査」
へと変わりました

 そもそも、2000年版ではプロセスの繋がりを重視しますから、規格の要求を一つ一つ確認するような方法で
は審査できないのです。実態として仕事がどのように関連し、流れているかを掴まなければなりません。受審
する組織の方も、規格の要求事項に一問一答で回答するような感覚では対応できず、自社の仕事を流れに
沿って説明する必要があります。その意味では、2000年版改訂によって審査は「規格の文言と照合する審
査」から「実態を調査する審査」に変わったという言い方もできます。審査側にとっては難しい規格になり
ましたが、受審側にとってはより本質的な審査が期待できます。

規格や審査に縛られた発想から脱しよう

 2000年版移行に当たっては、「品質マニュアルで規格のshall項目に一つ一つ対応する」とか、「規格の項
目に合わせて記録様式を作る」といった、従来の規格の文言や審査対応に縛られた発想からは脱しましょ
う。

 2000年版の、特に製品実現に関わる部分では、常識的なことしか求めておらず、ほとんどの組織は
最初から規格の要求をクリアしています。システム構築に当たっては、規格への適否に対して神経質に
なることなく、自社が最も効率的に動き、顧客の信頼に繋がるシステムを作り上げれば良いのです。

 2000年版は、組織がそれぞれの経営戦略に基づいて必要なことをルール化し、その実行を管理す
る手段として使えるように作られた自由度の高い規格です。ISO9001を経営に利用してゆこうという前向
きの組織にとっては、使いやすく役に立つのです。

 2000年版への移行を1994年版の並べ替えに終わらせることなく、システムを見直す機会にして下さい。そ
の中で、不要な仕組み、文書、記録は除き、組織にとって本当に必要なことを品質マネジメントシステムに上
乗せして下さい。規格の文章や審査に振り回されることなく、自らの管理手段として2000年版を使いこなせ
ば、ISO9001:2000はきっと経営を支える有効なツールとなるでしょう。


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